PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (104) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 前月号ではプロジェクト実行中における下記に示す①、②、③の行動がPMの実践における能力だということを話しました。

問題や異常事態発生時での対応です。すなわちコンフリクトマネジメントや交渉力です。これは変更やトラブル発生時にどのような行動を取るかということです。

プロジェクトのリーダとしてチームメンバーが惑わないようにチームの進むべき方向を示し、結束力を高め、相乗効果や生産性の向上を高めるといった行動を取るということです。

プロジェクトメンバーを含むステークホルダーとの密な関係維持のための伝達、連絡そして密な意思疎通に必要なコミュニケーションが取れる手段の構築とそれを可能にする行動を取るということです。

 すなわち、コンフリクトマネジメントと交渉力、リーダシップ、そしてコミュニケーションです。

 上記に示す項目はプロジェクトの実施においてPMのリーダシップの下で明確に示された計画に従い、プロジェクト関係者間の密なコミュニケーションの下でPDCAを回し、目標達成のために必要な各種活動や手順つくりに関係するものです。

 ①のコンフリクトはプロジェクト実行中に起こるプロジェクト関係者間の利害対立から起こる衝突や緊張です。
 プロジェクトで起きる主な問題には顧客からの過剰な要求や計画時で予測されていない変更そして、プロジェクト関係者(ステークホルダー)間の争い等々があります。

 顧客とのコンフリクトが発生した場合、その内容によってはPMだけで処理することが難しくなるものもあります。
 その場合は、さらに上位の管理者等にこの問題の経緯を報告し、会社組織として対応するように手を打つことを考えなければなりません。

 コンフリクトのパターンとして、対外的な顧客との問題も原因の一つですが、組織内部的なコンフリクトもあります。

 コンフリクトには実質的問題と感情的な問題といったような二種類があります。
 実質的な問題とは上記で示した顧客との不協和音、実行手順、役割と責任といった表面化した意見の対立です。
 感情的な問題では当事者が相手に対して抱いている個人的な認識や感情などがあります。
 実質的な問題は、顧客とのコンフリクトなどであり上記に示した通りですが、PMのリーダシップによるコーディネーション手順の遵守や密なコミュニケーションによることで予防出来ると考えます。
 この詳細は③にて説明します。

 感情的な問題はチームの和を乱す原因ともなるので、PMは常にメンバー個人のメンタル面や不満となる部分に気を配り、時には本音の出せる雰囲気つくりとしての場の盛り上げを試みたり、細かいことにこだわらず部下の意見をくみ上げ、やらせて見せることです。

 例えば、チームを盛り上げる例として、PMがメンバーの中に入って一緒になって自分をさらけ出し、そこに溶け込むように努力するとか、メンバーが忙しく働いていて、つかれているような様子が見られたら、ちょっとした差し入れをするといった行為などすると、メンバーは「このPMは我々の状況をよく見て知っている。」と考え、場合によっては本音を言ってくるようになってきます。

 対外的な顧客とのコンフリクトについては、主に予期せぬ変更や顧客との意見の食い違いそして契約上での問題等々によって起こります。
 この場合の基本はこのプロジェクトに責任を持つPMとして顧客との交渉での解決を最優先で行わなければなりません。

 そのためにはプロジェクトにおける課題や問題解決にかかわる論理的思考、すなわち過去の成功体験や自社・自部門の常識にとらわれず、物事を論理的に整理し、確認し相手に正確にメッセージを伝えるといった思考法をPMが自在に使用することができなければなりません。
 ここでもう一度そのPMが持っていなければならない思考法を整理してみると:

交渉の前に、起きている問題や変更についての状況を分析し、その中から重要または優先実行すべきものは何かを把握し、
把握された問題を整理したうえで、その原因は何かを分析し、その結果判明された実行すべき課題のリスクを分析すると同時に、交渉での優先順位を決め
相手の状況をみながら、段階的に交渉のテクニックを使い対応する

 この場合、相手とのコンフリクトの状態になる前に、できる限り妥協点を探りながらお互いにWin-Winの方向にもっていけるようにすることが必要と思います。
 しかし、交渉事はこのように理想的にはなかなか運びません、その結果がコンフリクトとなります。
 このことからも交渉能力といったものがPMの重要な実践能力の一つということがわかると思います。この交渉力にはいろいろなテクニックもあります。

 さて、問題の対外的コンフリクト解消のための交渉能力ですが、誰にでも備わったものではなく、生まれながらに持っている個人的資質によるところがあるように感じます。
 交渉では理路整然と自分の主張だけを相手に説明するだけではなく、その場の雰囲気、相手の事情、そして自分の目標を持って相手が納得するまで粘り強く説明することが必要です。

 交渉は遭遇する立ち位置によっていろいろ異なった目的で行われます。例えば 理解、違いの解決、取引の有利な展開等々があります。

 自分に有利に物事が展開するための働きかけ(根回し)も交渉の一環です。交渉の結果の理想像としては双方とも円満に話し合いが行われ双方が満足するいわゆるWin-Winで終えることが理想です。
 しかし、交渉は「ゲーム理論で言うゲームに参加している人たちの利益と損失が丁度ゼロになるといった「ゼロサムゲーム」であるように物事を納めていくもの」と思っている人もいます。
 しかし、一般的には無意識に相手に勝つという「Win-Lose」の交渉になりがちで、その交渉に勝つと仲間から拍手喝采であるが、負けたものは劣等感や恨みを残すことになり、さらに状況が悪くなります。

 以下に交渉の結果として現れるパターンについて以下に示します。

  相手

  勝ち 負け
勝ち Win-Win
信頼
Win-Lose
強引(対立的交渉)
負け Lose-Win
妥協または負け
Lose-Lose
不信、不満

これを打開するには理路整然と自分の主張だけを相手に説明するだけでなく、その場の雰囲気、相手の事情、そして自分の目標を持って相手を粘る強く説明することが必要です。
 焦らず、慌てず、そしてあきらめずいわゆるローカス・オブ・コントロール(コントロールの中心)が自分にあり、そして自分を知り、他人を知り、取り巻く状況をみて目標を持って粘り強く交渉するといったことが必要ということです。

 一方、交渉事にはテクニックも必要であり、交渉術といった言葉があるほどです。このテクニックには様々なものがあります。

 その一例を示すと:
 最初に許諾してもらえそうな小さな要求をすることで、あとからする大きな要求を受け入れる可能性を高めるといった段階的要請法があり、これをフット・イン・ザ・ドアと言い、その反対に最初に要求を高くし、徐々に要求を下げていき相手が得したように誘導していくドアーイン・ザ・フェイスといったものがあります。

 その他に:
ゆさぶりをかける:他はこのような提案をしていますといったゆさぶり
どうでも良い要求:重要でない要求を出し、後で譲歩したように見せる
時間稼ぎ:交渉を引き延ばし、時間がないと譲歩をせまる
背水の陣:納得が得られない場合、さも交渉を中断して背を向ける

等があるが、怖い刑事と優しい刑事、ボケと突っ込みといったようなものもあり、交渉テクニックにはいろいろな手法があります。

 しかし、著者の私見ではありますが、上記に示すような状況に応じて各種のテクニックを駆使して、相手との交渉を有利に進めていくといったスキルを持つPMは数少ないと思います。
 今回①に示したようなことがプロジェクトのスムーズな進行に欠かせないものである。
 しかし、この域に達するにはなかなかハードルの高い要件となりますが、著者自身もすべてをマスターしているわけではなく、これまでの経験から「こうであればプロジェクトの失敗も防げることもあった」との反省からここに示してみました。

 以上が①に関連するPMに必要な実践力の一部です。
 来月号は②の実践力について話をします。

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