PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (103) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 前月号ではあらゆるプロジェクトをさばくことのできる卓越したPMの能力について話しをしてきました。すなわち、プロとしての見識、感性そして昔取った杵柄(スキル)などからの総合的判断や決断から的確な行動がとれる能力をPMの実践力と称しました。

 この実践力はビジネストレンドの変化に対応した企業の事業展開または新たな分野への挑戦などで発生するプロジェクトやほかの職種に転向してPMとして活躍することにも必要な能力です。

 今後、多くの企業が新たな組織を立ち上げ新事業展開に必要なプロジェクトをおこすことも多いに考えられます。
 その時に経験者としてPMに指名され、自分が所属していた企業の外でこれまでとは分野や業種の異なるプロジェクトをやることになるかもしれません。

 このようにPMとして期待され、これまでとは異なった環境に送り込まれてもPMとしての能力を十分に発揮するにはどうしたら良いか迷うものです。
 特に、初めての環境の中で仕事をすることになるので、自分を取り囲む環境や一緒に仕事をする人とも初めての経験になります。

 一方、望まれてPMとして指名されたからには良い結果を残さなければなりません。その時、自分がPMとして十分に能力を発揮できるためには、ある程度時間をとり、自分を取り巻く環境やどのような人たちが周りにいるのかを知る必要があります。
 いわゆる、「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」であり、ここでの敵とは自分が新たに属する組織や企業の組織事情や周りの人材を含めたプロジェクトを遂行するために必要な諸条件です。
 そのためにはその諸条件や状況を分析し、何が足りないのかをじっくり見極め、新しい環境での行動に必要な手立てを考えることが重要となります。
 すなわち、PMとしてこれまでに培った知識や経験をもとに、プロジェクト遂行にかかわる情報収集能力、問題発見能力、課題解決能力をフルに発揮して自分の位置づけを明確にすることが大事だということです。
 何故か?
 プロジェクトはPM一人ではできるものではありません。プロジェクトを構成する機能には多くのものがあり、一人の力ではどうしようもありません。プロジェクトを共に遂行する多様なメンバーが必要になります。
 そのためには一緒にプロジェクトに参加し、行動する頼りにできる人材がいるかどうかを見極めることが必要となります。
 これによって、自分の位置づけがどこにあっても、この新しい環境を把握しておけば、プロジェクト実施においてまずは安心できることになります。
 ほかの組織や企業に出かけてPMの立場で仕事をすれば、すべての責任はPMに降りかかります。もし失敗したら助けてくれる人はいないと思い、与えられたプロジェクトを遂行しなければなりません。
 このような環境下で与えられたプロジェクトを実行することは棘の道を進むがごとしであり、最初のプロジェクトの成功・失敗でそのPMの評判というものは天と地の違いになります。
 それだけに慣れ親しんだ既存の組織や企業に所属しながらプロジェクトを請け負うPMとは異なり、相当なプッシャーのかかる仕事となることから、あまり精神的に繊細な人には向かない仕事かもしれません。
 勿論、このような繊細な人は、たとえ慣れ親しんだ組織の中でも、担当としては優秀な人であってもPMといった職種には向かないと思います。

 このような能力をトランスファブルスキルと言っているようです。

 すなわち、他の職種でも転用できる、ビジネスにおいてベースとなるスキルのことを指します。
 具体的には、問題解決能力、情報収集能力、ビジネスマネジメント能力、折衝能力等、プロジェクトマネジメント知識体系以外の能力であり、物事を包括的に洞察し、間違いのない戦略を立案できることが必要となります。
 また、折衝能力は自分をPMに指名したトップマネジメントに対して自分のプロジェクト遂行に関する方針及びやり方を納得させる場合にも必要な能力です。

 問題解決能力、情報収集能力は自分を取り巻く環境やその状況を調査分析し、問題の把握とそれをトップに進言するのに必要な能力であり、この能力はプロジェクト実行中での問題発見やその解決にも必要なものとなります。

 その他に、他の組織や企業でのプロジェクト遂行にはその対象となる業界の知識や技術を理解する能力も必要となります。
 そのためには、これまでとは異なった専門知識や業務知識そして仕事の進め方や考え方の違いなどを克服しプロジェクトを進めていく必要が出てきます。
 しかし、即席にはこれらの専門知識を学ぶことは不可能です。また、一緒に仕事をするメンバーの性格、態度・考え等を短時間で知ることも難しいことです。
 まず必要なのは多様性の尊重であり、個人や集団間に存在する様々な違いを受け入れ、認め、活かしていくといった行動が取れなければなりません。

 トランスファブルスキルの大前提として考えなければならないことは、これまでとは異なった職種に関する技術や知識をどのようにして習得するかということです。
 PMになるまでの経緯にはいろいろありますが必ずしも技術専門出身でなくても、プロジェクトマネジメントに熟達している人であれば対象プロジェクトが技術オリエンテッドなものであってもある程度は対処できると思います。
 それでもある程度と言っても限界はあるので、プロジェクトに必要な技術や知識の習得はPMとしても必要になります。
 ここで少し筆者個人の意見を述べると、違った分野のプロジェクトでも特に技術及び対象プロジェクトにかかわる知識がなくてもそれほど高い壁を感じることもなく、PMとして活動することができます。
 経験からの持論となりますが、PMは基本的にプロジェクト実行においてはその分野の専門家をメンバーとして配置し、自らは専門家の話が理解できる程度の基本的な技術や知識を知っていれば良いと思います。

 なぜなら、先ほども言ったように短時間には絶対に専門家のレベルまでの技術や知識を持つことができないからです。
 しかし、自らは自己啓発の意味からも分からないことがあったら徹底的に学び、さらにプロジェクト実行中においても恥じることなく組織内の専門家に学ぶことも必要です。
 すなわち、わからないところがあればわかる人に聞けばよいといった考え方です。
 プライドの高い人でPMとなっている人は、このようなことは恥ずかしいと思い、積極的に自分から聞きに行くといった行動に出る人が少ないような気がします。
 筆者が新しい技術や知識の呑み込みも悪く、あまり頭も良くないためかもしれませんが、手っ取り早く多くの知識を吸収するには良い方法と考えています。
 いずれにしても、PMとしてこのプロジェクトの責任は自分が負うのだという強いコミットメントをもって仕事に臨んでいればわからないことがあったら自然に聞きこむようになります。

 このように積極的に謙虚な態度で専門家や関係する人たちと密にコミュニケーシションをとると、相乗効果として専門家ばかりでなくプロジェクトに関係する人達とも良い関係ができるようになります。
 その結果として、メンバーの性格、態度・考え等も知ることができ、仕事も良い関係で進めることができるようになります。このようにメンバーとの関係構築ができれば、どのような組織や企業においても、問題なく仕事を進めることができるようになると筆者は思っています。

 このようにしてプロジェクトを進めるための環境作りはクリアーできたことになります。しかし、ここまでの動きは、あくまでも環境作りのためであり、実際の信頼関係はプロジェクトの実行中でのPMの行動から判断されることになります。
 すなわち、関係者との相互の立場や事情、あるいは言わんとしていることを理解し、その上で事がうまくいくように、あるいは関係者が納得できるようにすることも重要な要素となります。

 このことはすでに前月号でも関係調整力といったPMの行動特性のところで話をしました。多様なチームメンバーやステークホルダーをうまくまとめプロジェクトを進めていくといった関係者との密なコミュニケーションをとり、常に誠実さと誠意をもって行動し、結果責任を果たし、約束を守り、関係者の信頼を得るということです。
 この実行中におけるPMの行動に不十分なものが見えてくるとPMとメンバーの間やステークホルダーとの関係にもヒビが入ることになります。
 良好な関係を維持するためには、PMのプロジェクト実行中での行動のとり方で大きく左右されます。

 その主なものとしては:

問題や異常事態発生時での対応です。すなわちコンフリクトマネジメントや交渉力です。これは変更やトラブル発生時にどのような行動を取るかということです。

プロジェクトのリーダとしてチームメンバーが惑わないようにチームの進むべき方向を示し、結束力を高め、相乗効果や生産性の向上を高めるといった行動を取るということです。

プロジェクトメンバーを含むステークホルダーとの密な関係維持のための伝達、連絡そして密な意思疎通に必要なコミュニケーションが取れる手段の構築とそれを可能にする行動を取るということです。

 この結果として、プロジェクトの実行においてPMの確固たる方針のもとに作業進捗が順調に推移し、問題やトラブルが発生しても問題なく解決され、スムーズに作業が進んでいくことになります。さらに信頼感も得られることになります。

 プロジェクト実行中における上記に示す①、②、③の行動はPMがとる最も必要な実践における能力と考えられます。

 すなわち、コンフリクトマネジメントと交渉力、リーダシップ、そしてコミュニケーションです。

 来月号はこのPMに必要な3大要素について話をしたいと思います。

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