PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (102) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

 すでに前月号で説明したようにプロジェクトとは特命的な仕事であり、日常業務と異なり、企業や組織が属する社会環境やマーケットの状況に応じて生じるものです。
 そのため与えられた仕事はこれまでとは異なったものであり、場合によってはやったことのない仕事かもしれません。そのため、それに見合った新たな技術や知識が必要になります。
 まさに、他の組織、技術そして人間の知恵を結集し、統合し、プロジェクト業務をあらゆる知恵を総動員して実現していくといったエンジニアリング手法が必要になります。(IT系ではオープンイノベーションと言っています)
 その結果、プロジェクトを進める組織すなわちプロジェクトチームにはPM配下にこれまで仕事上で付き合ったことのない多様な人材が導入されます。
 PM自身もそれに相応した新しい分野の知識や技術をもってチームメンバーをリードしていかなければなりません。
 そこで、大事なことは多様なチームメンバーやステークホルダーをうまくまとめプロジェクトを進めていくには関係調整力といったものが必要となるということです。
 関係調整の意味は相互の立場や事情、あるいは言わんとしていることを理解し、その上で事がうまくいくように、あるいは関係者が納得できるように計らうことです。
プロジェクトにおいての関係調整とはプロジェクトにかかわる人や組織を対象とした調整です。
 すなわち、ステークホルダーとの関係にコンフリクトの生じないようPM組織を含んで調整することを意味します。
 特にPMの立場から見るとプロジェクトチーム内の人間関係が重要な要素となり、プロジェクトの成功も失敗もチーム内の良好な関係が維持されているかどうかにかかっています。
 そのためにはPM自身の意思が十分関係者に伝わるように関係者との密なコミュニケーションをとる必要があります。
 このことにより関係者と深いつながりが構築でき、相互理解を深めることができるようになります。
 しかし、「言うは易し」であり、特にプロジェクトチームメンバーが多様化すればするほどチームメンバーの関係調整は難しくなります。
 プロジェクトチームの中にはPMと初めて仕事をするメンバーもいることから、「このプロジェクトをこのPMと一緒にやっても大丈夫なのか?」などと思う人もいるかもしれません。
 プロジェクトを成功させるにはPMのリーダとしてのスキルと努力、メンバーの協力、組織や外部からのサポート、そして場合によっては運などがそれぞれ重要な要素となります。
 このような要素が相まって効果的なプロジェクト運営ができるわけですが、このような状況を作り出すのもPMの役割です。

 その結果が良ければメンバーからも必然的に信頼されるようになり、プロジェクトもPMのリードの下で大きな問題もなく進むことができることになります。すなわち、関係調整力を発揮するには常に誠実さと誠意をもって行動し、結果責任を果たすこと、約束を守ることをモットーとした姿勢を貫き関係者の信頼を得ることです。

 特に昨今のプロジェクトを取り巻く環境変化、そしてそれに伴うビジネストレンドの変化が激しくなってきていることを考えると、これまでの既成のプロジェクトマネジメント知識体系ではでは対応できなくなってきています。
 これまでのPMのスキルといったものをIPA(情報処理推進機構)では以下のように各PMのレベルをプロジェクトの難易度ごとに定義しています。


 この図からから見てもわかるようにPMの達成度レベルが上がるほどに関連するPMに求められる各スキルが変化していくことがわかります。
 すなわち、プロマネの実践力といったものはここに示す全てのスキルがプロジェクトの複雑性や規模によって発揮することができることです。

 スキルは以前にも示したが下記に示すように昔取った杵柄(知識や経験、これをスキルと称している)をベースに新たなプロジェクトに挑戦することによっていろいろと失敗も経験します。その失敗を自分の新たな杵柄の糧として蓄え、次へと挑戦していくことで自身のPMとしてのレベルを上げていくということになります。


 特に昨今のビジネスを取り巻く環境は大きく変化し、日常業務の仕事にも変化が求められ、新たな価値創造に向かってこれまでとは異なったプロジェクトアプローチが必要となってきています。
 すなわち、下記のようなビジネストレンドの変化に応じた対応が組織や企業に求められるようになっているということです。

デジタル化
グローバル化
カスタマイズ化
仕事の効率化

 すなわち、上記の図の昔取った杵柄に示す流れにはない、新たなプロジェクト使命が上記に示すビジネストレンドの変化により発生してくることが容易に想像できます。そのため、この変化に対応する新たな発想でのプロジェクトマネジメントが必要となってきている。
 ここで前に示したスキルと達成度に示すパーソナルスキルの重要性が際立って必要となってきている。

 これまでの画一的プロジェクトの「要件が与えられたプロジェクト」から「要件が不明確でかつ変革を求める要求」といったプロジェクトが多く出てくることになります。
 よって、これからのPMは当然、昔取った杵柄の利用可能な部分は大いに利用し、新たなプロジェクトへの挑戦に当たって何が必要かを考え、自分のパーソナルスキルをさらに磨く必要があると感じています。

 それがこれまで述べてきた昔取った杵柄で得た知識や経験以外の人間力といったものが重要な要素となってきているということです。
 人間力とは何か?
 これはPMが個人的に持っている特性であり、プロジェクトを成功に導くために最適と考えられる行動を選択する一貫した信念、価値観そして考え方や仕事の進め方における創意工夫を含めて自然体で発揮できる能力と言ってもよいと思います。
 しかし、人間力は他人から学ぶものではなく、PM個人の仕事上の経験から築かれた性格面のスキルや生まれながらに持っている個性といったものかもしれません。
 すなわち、その人の持つ見識、感性、そして昔取った杵柄(スキル)などの総合的判断や決断から的確な行動がとれる能力と筆者は考えています。これをPMの実践力と称しています。
 このようにPMの実践力といったものは単純に推し量ることは難しく、結局はプロジェクトの成功、不成功または実行中での関係者からの評価によって決まることになると思います。

 これまでのPMは企業内PMということで話をしてきましたが、企業の事業展開または新たな分野への挑戦などで全く新しい仕事やほかの職種に転向しPMとして活躍することになる場合もあります。
 この場合に必要なスキルも今後PMに求められるようになるかもしれません。
 それをトランスファブルスキルといいます。

 次回はこれについての話をします。

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