PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (101) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 プロジェクトにはステークホルダーという利害関係者が必ず存在します。このため、プロジェクト遂行中でのコンフリクトや人間関係をうまく処理し、最終的に課題や問題をどのように処置するかといったプロジェクト実行面での実践力といったものが必要となります。

 この実践力はすでにコミュニケーティングのところで説明のネゴシエーションと大いに関係があります。
 コンフリクトは、プロジェクト実行中のあらゆる場面においてPMが遭遇するものであり、自分の立ち位置によりいろいろ異なった目的でのネゴシエーション能力が必要となります。
 例えば、相互理解、違いの解決、取引での有利な展開、問題の解決、上司との面談などがあります。これらはプロジェクトをすこしでも効果的に進める上で必要な要件です。
 その他にも相反する意見、態度、要求といったものがプロジェクト実行中に発生し、緊張状態が出てきて意見の対立なども起こります。
 このような状態が長く続くとチームワークに乱れが出て感情的な問題に発展することになります。最悪の場合はプロジェクトの失敗につながることになります。
 このためには適切なコンフリクトマネジメントが必要となってきます。
例えば、いったんこのような状況が発生したら、その対処法としては:

状況そのものを変えるか!
当時者の態度や対応を変えるか!
問題の原因となるものを除去するか!

といったことが必要となります。
 具体的には交渉ということになるが、この交渉事でうまくいかない場合の多くは、感情的なもつれ、相性、仕事上のスタイル、文化・慣習の違い等が複雑に絡み合うことが原因となります。
 このようになった場合でのコンフリクトはそのままにしておくと個人対個人の問題ではなく組織対組織の対立となり、収拾がつかなくなることがあります。

 筆者の経験からの話になりますが、ある企業での多国籍プロジェクトでの事例を紹介します。
 このプロジェクトは3か国からなるチーム編成のコンソーシアムであり、PMは日本人でその他の設計、現場、調達そしてアドミ(事務管理)はそれぞれ各国の代表が責任者となってプロジェクトチームが形成されました。
 当初はお互いに和気あいあいとして仲良く会話をして順調な滑り出しとなりました。

 しかし、約1年程たったころからPMよりプロジェクト進捗において問題がある旨の連絡が本社にあり、一度現場(海外)にきていただきたいとのことでした。

 現地に出かける前にPMの話をいろいろメールや書類でやりとりしましたが、どうも現場の建設関係の進捗がほとんど進んでないような話でした。
 さらに話を聞くと日本人の設計マネジャ(EM)と外国人の建設マネジャ(CM)との間でのコミュニケーションが的確に行われず、お互いの仕事のやり方においても食い違いが出ているようでした。そのため感情的な争いになっているとのことでした。
 一方、現場においても必要とする図面や書類が必要なところに適切に行き渡っていないため工事が進んでないということでした。
 そこで、本社からのアドバイザーとして現状の問題を調査・分析し、問題解決に当たることにしました。
 この種の問題では、現象面からの観測から始め、そしてヒアリングにより設計、調達そして現場の各要員から情報を得ることが大事と思い、できるだけ多くの情報を得るようにしました。その後、最終的には自分の足で現場や職場の雰囲気を観察し、状況分析を通して本質的な問題の把握をするようにしました。
 一般的に、このような問題の起きている状況において、考慮しなければならないポイントとしては以下のようなことが考えられる。

問題は人と人の関係によるものか、組織体制によるものかを見極める

生じている問題のパターンを理解する。すなわち、最初の問題となったきっかけを探り、そしてそれがどのようになっていったかを調べる。

問題の多くは実質的問題と感情的問題といった2つの異なる事象から生じます。実質的問題とは仕事のやり方、役割と責任といったことでの確執であり、感情的問題とは個人的な認識や感情のずれから生じるものです。これは時には実質的問題にすり替えられこともあります。

 このような考え方で現地調査をした結果、一番の問題は日本人のPMと外国人のCMの仕事のやり方においての違いであることが分かりました。
 CMは多くの海外の現場でPMの経験もあり、プロジェクトマネジメントについての知識も経験もあるということで日本人のPMの能力の限界を知ることになり、指示に従わないようになってしまったことに原因があったようです。そのため、この争いが部下に伝搬していったように感じました。また、日本人のEMとこのCMもお互いに設計の進捗やドキュメント管理について責任のなすりあいとなり、現場の工事進捗の遅れとなり、お互いに責任逃れの言い合いとなっていました。
 よく調べてみると出来上がった図面はCMのもとにあり、彼が適切に必要な場所に図面や関連書類を送っていなかったことが原因となっていました。
 そのため、調達にも影響があり、現場に必要な物品も必要な時に必要なものが送られていなかったり、またはダブって送付されていたりで現場はかなり混乱した状況となっていました。
 このことをPM、CM、EMを集めて調査結果を説明し、早急な是正策をとるようにと指示を行い、各人に納得してもらい帰国しました。しかし、感情のもつれというものは簡単に修正されることもなく、その後も問題は相変わらずであり、工事の進捗は遅れるばかりであった。

 この問題は上記で示したポイントの下記に示す対処、すなわち
状況そのものを変えるか!
問題の原因となるものを除去するか!
 が必要と感じました。
 よって、このままではこのプロジェクトは崩壊することになると考え、本件上層部にこの問題を投げかけました。

 この問題はPMとCMの確執から始まり、プロジェクトチーム全体に広がり出身国間同士の組織としても問題となっていました。
 結論的には感情的に修復不可能と判断され、この両者をこのプロジェクトから外し、新たな人選を行い、新体制にてゼロスタートということで再出発することになりました。

 このように一度コンフリクトが生じると、事態収拾が難しくなります。特に多国籍の人達と仕事を一緒にする時は実質的問題が感情的な問題にすり替えられることも多いので十分注意して付き合っていかなければいけません。しかし、このようなことは日本人同士でも十分考えられることです。
 いずれにしても、PMは問題を早め早めに予測し、問題がこじれないように常に思考をめぐらし、事前に対応していけるような洞察力が必要であるような気がします。
 今回の事例はまさにこの点がPMとしての力不足が原因であったような気がします。

 問題というものは、プロジェクト実行中には必ず発生するものであり、上記の①②及び③に示すケースのどれかに必ず当てはまります。
 特にプロジェクトマネジメントでよく言われるPDCAでのモニタリングコントロールでの是正処置などもコンフリクトを未然に防ぐ方法とも言えます。
 いずれにせよ、最初の内は何となく雰囲気としておかしい、しかし何とかなるだろうといった気持で見過ごすことが原因となることも多いです。気が付いたときはすでに遅く手遅れになることもあります。

 すなわち、コンフリクトの解消は、プロジェクトの課題や問題に早めに気が付き、適切な判断とそれに基づいた迅速な意思決定をすることで内在するコンフリクトを見える化し、対応することができるようになります。

 この判断力も大きな決定をする時に必要なPMの実践力の一つとなります。決断力の無い上司や管理職が多くいるのは読者諸氏もご存知かと思います。多くの人を使って仕事をする場合に最も必要なのはリーダ―シップですが、その根源は決断力でありそのまた元は判断力です。
 判断力なくして決断はできません。

 判断力を定義すると「適切な判断軸と解決オプションを想定したうえで、効果的なタイミングで意思決定を行う」と言われています(実践力が身につく本、オーム社発行から引用)

 もう少し簡単に言うと、理屈や客観的な決定ではなくどちらかというとタイミングや状況を見てそこからの洞察力と自分の経験から答えを出してゆく能力といったほうが正しいと思います。

 よって判断と決断は親子関係にありきっても切れないものと思います。
 判断力はすでに述べたコンフリクトの解決にも重要な因子であり、このためにもPMは判断力といった武器をもっていなければならないということです。

 ところで、言うまでもないですがプロジェクトとは特命的な仕事であり、日常業務と異なり、企業や組織が社会環境やマーケットの状況に応じて、部下に要請する仕事です。
 そのため当然与えられた仕事はこれまでとは異なったものであり、場合によってはやったことのない仕事かもしれません。そのため、それに見合った新たな技術や知識が必要になります。
 まさに、他の組織、技術そして人間の知恵を結集し、統合し、プロジェクト業務をあらゆる知恵を総動員して実現していくといったエンジニアリング手法が必要になります。(IT系ではオープンイノベーションと言っています)
 その結果、プロジェクトを進める組織すなわちプロジェクトチームはPM配下にこれまで仕事上で付き合ったことのない多様な人材が導入されます。
 PM自身もそれに相応した新しい分野の知識や技術をもってチームメンバーをリードしていかねばなりません。
 そこで大事なことは多様なチームメンバーやステークホルダーをうまくまとめプロジェクトを進めていくには関係調整力といったものが必要となります。

 次月号はこのことについて話をします。

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