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経済を牽引する成長企業とDXレポート

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :6月号

 世界経済を牽引する成長企業を確認するため世界と日本の企業時価総額ランキングを調べた。1992年末と2016年末での時価総額を調査し比較している資料があった。(注1) 1992年は日本でバブルが崩壊した時期であり、上位を独占した日本企業の凋落が始まっています。その時の世界のトップ3社は、エクソン・モービル(76:単位は10億ドル、以下同様)、ウォルマート(74)、GE(73)である。第4位には日本からNTT(71)がつけていた。第20位までの中に、日本の銀行がなんと6社とトヨタとで合計8社が位置している。
 一方、2016年末の世界のトップ5社は、アップル(618)、グーグル(539)、マイクロソフト(483)となっている。1992年時点のトップ3社は、2016年の順位ではそれぞれ5位、24位、10位と落ちている。世界のトップ企業が、製造業と大手スーパーからIT企業に様変わりしている様子が良く分かる。ちなみに、日本からはトヨタ(192)が世界の丁度第30位にランクされている。ここには解説がある。1)IT企業の躍進、2)中国企業の躍進、3)日本企業が大幅に減少、4)時価総額の規模自体が大きく増大、5)M&Aが増加しているとある。
 日本企業の国内ランキングは、1992年末ではNTT(71)がトップで、次に銀行3社が続き、5位がトヨタ(44)である。2016年末では、トヨタ(192)、NTTドコモ(90)、NTT(87)、大手銀行(87)、ソフトバンクグループ(73)となっている。日本企業も入れ替わっているようだが、ランキングに付記された記事では、サブタイトルとして「グローバルでは大きな変化、日本は同じ顔ぶれ」とある。
 直近の現在の企業価値では、トヨタ(195)、ソフトバンクグループ(104)、NTT(80)、NTTドコモ(70)、キーエンス(64)、ファーストリテイリング(57)である。(2019年5月27日: (注2) この2年半でみると、日本企業も新しい企業が現れ始めているようにみえる。
 世界と日本のトップ企業とIT企業の躍進のデータから読み取れる事は、ITが企業価値を増大させているのは間違いのないことだといえそうだ。この事象を確認するため、「デジタルトランスフォーメーション(DX)レポート」に注目した。副題は「ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」である。このレポートは、経済産業省が主催する「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が公表している。(2018年9月7日付) 当該レポートでは、IDC Japan株式会社(IT関連調査会社)のDXの定義を引用している。曰く、「DXは『新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して競争優位を確立すること』である」。まさにシュンペンターによって初めて定義された“イノベーション”の定義と同じである。さらに、「現在は『イノベーションの拡大』時期であり、『企業が生き残るための鍵は、ITを強力に生かせるかにかかっている』」と明確に述べている。
 このレポートでは、ITが企業価値を高めることは多くの日本の企業人は理解しているとしている。しかし、企業のITシステムの実態は、旧態依然のレガシーシステムがまだ企業の中核として使われているケースが多いため、この現行システムを使い続けると、日本企業は2025年には崖から転がり落ちるような大変な状況に陥ると警告している。
 その理由を5つ挙げている。1)企業経営者が既存システムの問題を克服する道筋を描けない。2)さらに、その既存システム刷新に向けた役割分担を経営部門、事業部門、IT部門がそれぞれ認識していない。3)システム刷新には、長い期間と多大なコストがかかるリスクがある。4)にも関わらず、ユーザー企業はITベンダーへの丸投げ体質から抜ききれない。これの事例として、ユーザー企業が丸投げせずに主体的なシステムの刷新をリードすることで有効な手法だといわれているアジャイル開発の適用や契約上起こりうる問題へ事前対策の準備が充分にされていないことが挙げられている。5)最大の問題としてこれらを正しく推進するDX人材、IT人材が不足している。
 IT人材の不足に関しては、更に「IT人材需給に関する調査報告書」(経済産業省がみずほ情報総研株式会社に委託:平成31年3月)が公表されている。企業への調査をベースに、IT人材の深刻さを将来の生産性上昇率を複数ケース仮定し、IT人材の過不足度を推定している。ここで興味深いのは、IT人材を「従来型IT人材」と先端技術であるAIやビックデータなどを使いこなす新しいビジネスの担い手としての「先端IT人材」とに分けて議論していることである。もちろん、全体としてのIT人材は不足しているが、先端IT人材はより不足度が高く、そのIT人材の養成・獲得とも大変厳しい状況だとしている。
 以上の議論は、政府が積極的に押し進めている生産性の向上による第四次産業革命の実現に向けた政策の一環であるという。ただ、IT人材の充足がなされ、かつ他の4課題が解決したとしても、まだ言及されていない不足項目がある。それは言わずもがなのマネジメント力の強化である。広く俯瞰された構想、現実味のある企画・計画、その実施、維持・運用のマネジメントスパイラルを確実にまわす組織の仕組みとそれを実現させるマネジメント人材の育成・強化である。無論、グローバル視点も欠かせない。これらを総合的に包含するプログラム・プロジェクトマネジメントの普及と遂行できる高度な人材の強化に取り組んでゆくことが重要であるとあらためて認識した次第である。

以 上

注:
1 ) 参照:ファイナンシャルスター @2019.5.27
2 ) $1=¥110 換算し、ドルで表記する

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