理事長コーナー
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会議とプロジェクトマネジメント

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :5月号

 日本政府は「働き方改革実現会議」を創設し、2017年3月28日に「働き方改革実行計画」を策定し、「働き方」の「改革」に本格的に乗り出した。総計28頁におよぶ計画書を確実に実施して行くため、“ロードマップに基づく長期的かつ継続的な取組”にすると宣言している。国をあげての働き過ぎ軽減対策だといえる。政府が音頭を取り、過剰労働が指摘されている特定の職種や業務に限らず、すべての業界・業務をカバーする形で働き方改革を進めるという施策は、大変歓迎すべきことだ。
 日本人はコンセンサスを重視している。集団の意思決定では全員一致を尊び、そのために多く時間を会議に割いている。前記の政府の掲げる大規模・広範囲の政策でなくても、会議を効果的・効率的に進めることができれば、多くの労働時間を減少させることに繋がる。会議時間を合理的に日常的に低減することは、意思決定の仕方の改善を伴うものであり、会議以外の業務の迅速化・効率化にも繋がるといえる。軽部大教授(一橋大学イノベーション研究センタ―)の調査がこの仮説の妥当性を裏付けている(「カイシャの会議」朝日朝刊@2019年4月21日)。曰く、“企業内の意思決定のあり方を変える視点が重要”だと思うとしている。
 軽部教授は、“特に、企業の内部調整は必要だが、過剰となると顧客のために割く時間が減る”として、内部調整の負担を「組織の重さ」と定義して研究対象とした。“組織を重くする原因は、1人でも反対したら決まらないような和を重んじ過ぎる態度や、口は出すが責任を取らない社員に対応し過ぎること”などをあげて、この“重さ”が企業内に与える影響を調査した。判ってきたことが興味深い。“組織が重い事業部ほど収益性などの成果が低い”との傾向があり、“(意思決定のための)情報を直接の上司部下以外から入手することが多い組織も、重くなる”のだそうだ。一方で、“日頃から事業計画を参照して仕事を進める組織ほど「軽い」ことも分かった”。物事が決まらない、無駄な会議の多い組織は重いのだ。
 軽部教授の調査を紹介した後、記事の最後に、効率的な会議の秘訣として、「資料を事前にきちんと読んでおく」「会議の前に目的を設定する」「全員が議論に参加する意識をもつ」ことが「いい会議」への道であるとしている。要は、会議の目的を達成するため、準備したうえで、議論に参加し、目的に沿った解決策や結論を出すことである。
 至極当然の結論であるが、実は、これは「いい会議」だけに限られたことではない。行動を起こす前には、なすべき適切な準備が必要だということだ。さらにその先に来る計画の実行までを含めて俯瞰すると、これらは“プロジェクトマネジメントの基本動作”であるといえる。すなわち、これからなすべきことの目標・目的を事前に明確にし、目標・目的の達成すべき時点から“逆算(backward)”し、かつその上で、現在為すべきことを計画し、それを合意し、決めた事を順次実施し、“進めてゆくこと(forward)”である。
 さらに、この「いい会議」の事例から大胆な仮説を立てると、「働き方改革」の根本は、「いい計画をたて、確実に実施する」。言い換えると、正しいPDCAサイクルを確実にまわし続けることだ。」まさにこれはプロジェクトマネジメントの一丁目一番地でもある。さらに大胆に展開する。GDPベースで、すべての業務の約4割が非定常業務、すなわちプロジェクト業務であるとされている。この業務をセオリー通りに進めることで、日本の生産活動の4割相当分が、より効率のあがる効果的な業務が実現できそうだ。「働き方改革」の実現には、プロジェクトマネジメントの出番がおおいにあるといえる。

 
以 上

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