PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(134)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●AIブームか? AI潮流か?
 筆者は、「6 創造」の章を、2013年10月25日の「5 喜怒哀楽」に続く章として同年11月25日から開始し、2019年4月22日の本号まで約6年間続けた。真のエンタテイメントを実現させ、それを支えるエンタテイメント事業を成功させる鍵は、「創造性」に在ると確信したためである。

 「創造」の章を書き始めた6年前は、2000年代初頭から始まった第3次AIブームの時期に合致する。しかし今ほどはAI技術は騒がれなかった。しかし今は、あらゆる分野でAI技術が騒がれ、取り上げられ、本格的な研究とそれを核とする事業化が物凄い勢いで進展する時代になった。ブームを通り越し、現実の確かな潮流になった。

 さて数か月前に、筆者は「創造」の「章」を終わらせ、次の「章」に移ろうとした。しかしAI技術の進化と企業・個人との関わり、AI技術と創造性発揮との関係など明らかにすべきと考え、まだ同じ章に留まっている。なお次の「章」で順次明らかにするが、真のエンタテイメントは歌舞音曲の領域に存在するだけのものではない。またAI技術が如何に進化しても、その役割を果たせない領域に存在するものである。

●AI技術の進化による懸念像
 世界の多くの分野の大学の学者や研究機関の研究者は、AI技術の進化によって懸念される近未来像を描いている。周知の通りであるが、敢えて、改めて、その内容を以下に概説する。

  出典:不幸のどん底 clipart-library.com/images/kiKopeXRT.jpg 出典:不幸のどん底
clipart-library.com/images
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1 AI技術は、定常的、反復的、単純な仕事を人間に代わって肩代わりする。特にオフィス業務をする「AI仕事ロボット」は苦情を言わず、24時間働き続ける。これによって労務費などの費用を劇的に削減できる。しかし従来の「職」の半分が無くなる。
2 AI技術は、科学、工学、事業などの学者、専門家などが駆使する専門知識・情報の分析、評価、判断などを肩代わりする。その結果、専門の「職」のかなりの部分が無くなる。
3 AI技術は、多くの企業に導入され、活用され、新しい商品、製品、サービス、事業を生み、多くの価値を実現させる。AI技術を駆使し、新しい価値を実現した企業や個人は、飛躍的に発展する一方、そうでない企業や個人は衰退し、脱落する。その過程で企業収益格差と個人所得格差が益々拡大する。
4 AI技術は、デジタル・トランスフォーメーションを加速させ、規模、業種、業態を問わず、企業の事業の質を変え、企業の事業開発と運営のスピードを上げる。また企業収益格差と個人所得格差の拡大を背景として社会的支配者となる企業と個人、社会的被支配者となる企業と個人の階層化を鮮明にする。

●AI技術の進化による期待像
 上記の懸念像だけではなく、期待像を描く学者や研究者も同様にいる。

  出典:幸福の絶頂 lightone.files.wordpress.com/2011/11/happy_people.jpg 出典:幸福の絶頂
lightone.files.wordpress.
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1 AI技術は、定常的、反復的、単純な仕事をAI仕事ロボットが肩代わりする。このことで退屈で単純な仕事をしなくて「楽」になる。更にAI技術ができない仕事をする余裕を生み、創造的な仕事に集中できる。
2 専門職もAI仕事ロボットの肩代わりで「楽」になり、余裕を生む。その結果、AI技術でできない超専門的な仕事に専念できる。
3 AI技術を駆使した企業が発展することは、社会に多くの価値を生み、富を生む。と同時に新しい仕事を生むので、AI技術で失業した人物に新しい仕事に就ける機会を生む。この様な事は過去の歴史で何度もあった。技術革新で「職」を失っても、その後の技術革新の進展で新しい「職」が生まれ、失業者をカバーしたのである。
4 民主主義と社会正義が国民の監視の下で維持される限り、社会的支配者による被支配者への横暴や弱者への虐待は防げる。何故なら我々は横暴阻止と虐待阻止の歴史を持っているからだ。

●AI技術の懸念像と期待像を分ける要因
 我々はAI技術の懸念像と期待像のどちらの道を進むのか? その道は誰が決めるのか? 結論から先に言う。その道を決めるのは我々であり、我々の「意志と行動」である。我々とは、経済、産業、事業を実現する企業の社長、役員、管理者、一般社員である。

  出典:幸福と不幸の分岐 regmedia.co.uk//happy_sad_signpost.jpg?x=1200&y=794 出典:幸福と不幸の分岐
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 平成元年(1989年)、世界の株式時価総額比較では、上位20社の内、NTTを筆頭に日本企業の14社が名を連ねていた。しかし平成31年・令和元年(2019年)、日本企業はゼロ。1位アップル、2位マイクロソフト、3位アマゾン・ドットコム、トヨタ41位、ソフトバンク82位、かつて1位だったNTTは129位に落ち込んだ。

 何故、こんな事になったか。「平成時代は敗北の時代だ」と断言する人物がいる。彼は元・経済同友会代表幹事・小林喜光で三菱ケミカル・ホールディングス会長である。「その通り」と思う。デフレ現象、人口減少、世界経済動向などいろいろ理由を挙げる学者や評論家が多いが、根本原因は、社長が新規事業の失敗を恐れ、思い切った事業決断を逃げ、己の地位維持に汲々としたからだ。こんなだらしない社長ばかりが日本の企業のトップに長らく居座ったからだ。

 筆者は、先月号で、かつて世界をリードした日本の製鐵会社、電機会社、造船会社、製紙会社などの会社の「社長」に、「いつまでコア・コンピータンスに拘っているのか。しっかりしろ」と厳しくモノを申した。

 かつて日本は世界一の鐵を作り、世界一の電機製品を作り、世界一の船を作り、世界一の紙を作っていたのだ。余談だが、筆者は来年80歳になる。新日本製鐵の一員として世界一の鐵作りに青春と人生を懸けた事を今、思い出している。しかしこの世にあと僅かしか生きられない。死ぬまでに何かを残したいと焦っている。

 今後、会社をリードする社長(役員)に再度言いたい。自ら陣頭指揮を取り、GAFAなどに負けない気概を持って、各業界の垣根を取っ払い、「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」を社内外に求めることである。そしてAI技術を駆使し、「世界一のハードやソフトを作る会社」に成長することである。そうしないと、筆者が本稿で何度も指摘した「構造的問題」を抱え、人口減少を避けることができない日本を救うことができない。

●管理者や一般社員にモノ申す。
 今月号では、管理者や一般社員にモノ申す。

 多くの企業の管理者は、上司の社長(役員)から、一般社員は、上司の管理者から命じられた職務を遂行する事が当然の事と考え、日々励んでいるだろう。しかし命じられた職務遂行の目的や遂行権限や職責の範囲などに一切関係なく、自らの「意思」と「発想」で「新しい商品、新しい製品、新しいサービス、新しい事業」を企画し、計画書に纏め、一般社員は上司の管理者と役員を経由して、管理者は上司の役員を経由して「社長」に提案することを強く薦めたい。これが筆者のモノ申す内容である。

 しかし筆者の上記の薦めに多くの管理者や一般社員は、以下の様に考えるだろう。
1 自分は、新規事業企画部門に属していないので、その様な事をする権利も義務もない。
2 自分は、上司の社長(役員)や管理者から新規企画の命令など受けていない。
3 自分は、企画する意志などない。果たすべき職務を遂行することが第一と考える。
4 自分は、命令も、要請もない事を会社で遂行することは職務違反行為と考える。
5 自分は、そもそも発想し、企画する能力など持っていない、、、、など。

 以上の様な考え方の管理者や一般社員ばかり多い会社は、以前なら何とか、やっていけた。しかし今の時代、世界が激動する時代では、そうはいかないのである。上記の懸念像が眼前に立ち塞がるからだ。更に管理者や一般社員は、事務職でも、専門職でも、仕事を失うのである。会社任せ、社長(役員)任せ、管理者任せでは、やっていけなくるのだ。

●手遅れにならない前に
 本稿はPMAJのHPに記載されている連載記事の1つである。従ってPMAJの多くの会員が本稿を読んでいるだろう。

  出典:手遅れになる前に、正しい事をやれ! boldomatic.com/p/vh1OWw/do-it-right-now-before-it-s-too-late 出典:手遅れになる前に、正しい事をやれ! boldomatic.com/p/vh1OWw/do-it-right-now-before-it-s-too-late
  出典:手遅れになる前に、正しい事をやれ!
boldomatic.com/p/vh1OWw/do-it-right-now-before-it-s-too-late

 その会員の多くは、システム関係に従事する人物である。彼らはPMとP2Mの技術習得と実践に日夜努力している。しかしその背景にあるシステム開発の仕事は、AI技術の進化で最も早く、最も多量に失われるのである。しかもその人達が近い将来、「ヤバイ」と本当に気付いた時は、「手遅れ」になるのである。失業してから新しい仕事が生まれるまで待てるか?

 この危機感が多くの会員から全く感じられない。この危機感は、多くの企業の管理者や一般社員にあるのだろうか? あっても単なるイメージではないか? また多くの企業の社長(役員)ですら危機感が希薄である。彼らに無いのは当然だ。

 筆者は、手遅れにならないために、今からの対処方法として、個人向けに「創造的な経営のプロと仕事プロ」になれと本稿で指摘した。次号以降で更に解説する。

●新プロジェクト創造=New Project Creation(NPC)
 PMAJは、現在、PMやP2Mを研究、指導、実践の対象にしている。しかしこれだけでは、今後の激動の時代に対応できない。そもそもPMAJ関係者は危機感を持っているだろうか?

 PMAJが今後取り組むべきことは、AI技術の進化を基盤として、新しい商品、製品、サービス、事業を如何に実現させ、如何に成功させるかと云う所謂「新プロジェクト創造=New Project Creation(NPC)」の「在り方」と「やり方」を研究し、指導し、実践させることである。PMAJは、過去にPMをP2Mまで進化させたのである。NPCまで進化させることは十分可能と思う。

 最後に我田引水の誹りを受けるかもしれないが、「夢工学」と「デック思考」がNPCまで進化させる事に役立つと確信している。

出典:プロジェクト創造活動 images/creative-thinking-outcome-based-team-building.jpg 出典:プロジェクト創造活動 images/creative-thinking-outcome-based-team-building.jpg 出典:プロジェクト創造活動 images/creative-thinking-outcome-based-team-building.jpg
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つづく

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