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「中央構造線博物館を訪ねて」

プラネット株式会社 中 憲治 [プロフィール] :4月号

 日本国内で現在進行中のビッグプロジェクトは幾つかあるが、私の関心度の高いプロジェクトは、「リニア中央新幹線プロジェクト」と「福島第一原発廃炉プロジェクト」である。その内の一つ「リニア中央新幹線プロジェクト」の中でも難工事であるといわれている、南アルプストンネル工事の開始が報道されたのを機に、その起工式が行われた長野県大鹿村の工事現場を訪ねてみた。現在は、完成後は非常口となる導入斜坑の工事が南アルプスの西側(長野県側)の数か所で始まっている状況である。しかし、残念ながら工事現場は公開されていなかった。トンネル工事の残土処理場所が地元自治体との間で未解決なこと、依然として反対運動が収まらないなどの問題を抱えており、一般に公表していないようである。
 大鹿村まで来たのにとの思いもあったが、大鹿村には「中央構造線博物館」があるとの情報を得ていたので、そこを訪ねてみることとした。結論から言えば、これが大正解であった。
 中央構造線とは、大地震が起こるたびによく耳にする日本を二つに分断する「大断層」であることぐらいしか知らなかった。訪問日は、運よく学芸員が駐在している日であり、約2時間の長滞在で本当に詳しく説明を聞くことが出来た。
「中央構造線」は、西日本では九州の熊本・大分地方を東西に横断し、四国の北部から近畿・東海地方を東西に走り、浜松付近から折れ曲がり、諏訪湖付近まで南北に走っている。
大鹿村はその断層上にあり、近辺には中央構造線が地表に現れている「露頭」と呼ばれる地層が数か所見られる。日本列島にはもう一つの地層上のランドマークともいえる大地溝帯「フォッサマグナ」があるが、大鹿村のある南アルプスの西側には「フォッサマグナ」の西端にあたる「糸魚川‐静岡構造線(これも断層帯である)」も存在する。
「リニア中央新幹線」の南アルプストンネル工事は「中央構造線」や「糸魚川‐静岡構造線」を横断する工事であり、そのほかこの周辺には破砕帯も多く存在することが予想され難工事といわれている。
「中央構造線博物館」に滞在した2時間の間に10名近くの見学者があり、その多くの方が、南アルプストンネル工事と中央構造線の関係について多くの質問をしていた。
私も、当然そのことが一番の関心事であったが、学芸員の方が、実に丁寧に一つ一つの質問に答えつつ、(何度も同じような質問があったが、一人一人に同じように答えていらっしゃることには感心した)「中央構造線」と「フォッサマグナ」の違い、2つの構造線と活断層地震との関連、などに地質構造学の基本から説明を聞いていることで次第に理解が進んだ。
「中央構造線」は日本で一番古い断層で、約1億5千年前の白亜紀の断層であり、これ本体を活断層とは呼べないこと。日本には、未知の活断層(隠れ活断層?)の存在が予測されており、南アルプストンネル工事と地震発生を結びつけること自体は否定はできないが、中央構造線との関連ではその可能性は大変低い(あくまでも説明を聞いたうえでの私の理解である)ことなどである。
「中央構造線博物館」をもっと知りたい方は、こちらのウエッブサイトにアクセス方。
 博物館の見学を終え、中央構造線が地表に現れている「露頭」を見学することにした。学芸員の方の説明では、「露頭」は中央構造線が走っている国道152号線沿いに数か所あり、いずれも国道152号線から近く歩いていくことも可能とのこと、ただし、博物館から一番近い「安康露頭」は国道が大雨により通行止めのため、「北川露頭」「溝口露頭」を見学することとした。
中央構造線は断層であり、断層を挟んで、内帯と呼ばれる日本海側と、外帯と呼ばれる太平洋側では、岩石の種類が異なり、露頭ではこれをはっきり見ることができる。誤解を恐れずに大胆に述べるなら、内帯は大陸プレートを構成している岩石、外帯は海洋プレートを構成している岩石から成り立っている。
内帯の岩石は1億5千年前の白亜紀に形成されたものであり、この岩石に直接手を触れることは、ロマンともいえるし、なぜかしら不思議なパワーを得られるパワースポットのようでもある。
内帯側が大陸性プレートだとすると、ユーラシアプレートの東端に手を触れていることにもなり、「端を極める」というパーソナルプロジェクトの1つのタスクの達成だと牽強付会気味の理屈をつけて一人で納得した。

長野県大鹿村・中央構造線博物館 長野県大鹿村・中央構造線博物館

長野県中央構造線付近地図(グーグルマップ)
長野県中央構造線付近地図(グーグルマップ)

溝口露頭説明版(上)と溝口露頭(下)・長野県伊那市長谷溝口
溝口露頭説明版(上)と溝口露頭(下)・長野県伊那市長谷溝口

溝口露頭説明版(上)と溝口露頭(下)・長野県伊那市長谷溝口

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