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わかりやすく、かつ、印象的に伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 私の大好きな仕事の一つが、講師やファシリテーターとして、受講生の学びを促進することだ。学んだことの記憶への定着を促すために、一方的な講義ではなく双方向にしたり、事例を語ったりといった形で、楽しんで学んでもらえるよう工夫を重ねてきた。その結果、社内講師としても、そして社外講師としても、一定の評価を得ることができている。相手が若者だろうと、年齢を重ねた人であろうと、日本人だろうと外国人だろうと、同じだ。言語が日本語であっても、そして英語であっても、同じだ。このことは、私にとって大きな自信になっている。
 その自信が伝わったのか、先日PMC講習会で教えた際のアンケート結果も、好評だった。特に今回多く見られたのが、「事例がわかりやすかった」というコメントだ。「テキストの内容よりも、余談の方が面白かった。特に、海外での経験話が印象に残った」というコメントも頂いた。これほどまでに褒められたのは初めてだったので、嬉しく感じ、その要因を振り反ってみた。
 「今日も一日教えるのか。大変」と考えるのではなく、「教えることができることに感謝!」という気持ちで臨んだことが、要因の一つになっていそうだ。自分で集客しようとして上手くいかない経験を何度もしてきた。自分で集客するのは容易ではない中、PMC講習会の方は、協会の方で受講生を集めてくれる。それを当たり前のように捉えていた時もあったけれど、今は違う。人を集めることの難しさを十分わかっているからこそ、人が集まってくれている、ということ自体に嬉しさを感じるのだ。
 これまでいろいろと学び、体験してきて点として私の中で蓄積してきたことが、ここにきて、つながって線になったと感じられることも大きい。私には、講師、ファシリテーター、コーチ、カウンセラーなど複数の顔がある。それぞれあり方は違うが、「人を成長に導く」という点は、全てに共通している。「もっともっと効果的に人を導けるようになりたい」と願い、興味の趣くままに、ここ半年間集中して学び体験した蓄積が力になっているようだ。
 「受講生のためにピエロになれるか?」2月に参加した「自分ブランドフェスタ」の主催者でカリスマ講師を養成している渋谷先生が言っていた言葉。受講生の学びを促進するために、「え~?そこまでやる?」とまわりがびっくりするようなことをやることの大事さを教えてくれた。その気づきが、昨年知り合ったエグゼキュティブ・コーチの第一人者、マーシャル・ゴールドスミス氏がワークショップ直前に私に楽しそうに伝えてくれた、”It’s a show time!”「ショーが始まる時間だ」という言葉と重なった。講師自身が楽しんでいる姿を見せることで、受講生にも楽しい気持ちが伝播するのだ。
 私がドラマ好きだということも、「楽しさ」づくりに寄与している。ドラマに感情移入ができることで、「ロールプレイが上手ですね。」と褒められることがよくある。また、異文化体験や職場や家庭での日常などをストーリー風に事例として描写すると、喜ばれることが多い。
 そんな私も、「あ、まずい、、、」と思うことが最近二回続けてあった。一回目は、田中元PMAJ協会理事長とフィリピン人の研修生相手にプログラムマネジメントを教えた時のこと。絶好調で説明した後、「質問は?」と聞いた際受けた「拡張性の例を教えてください。」という要望に、しどろもどろになってしまったのだ。頭に思い浮かんだことを言ったのだが、言いながら「これはちゃんとした回答になっていないな、、」と自分でわかる。どうにもならずに、田中さんに助けを求めた。「田中さんなら良い例をご存じでは」と。それで懲りたはずなのに、先日のPMC講習会でも同様なことがあった。「コルブの経験学習モデルの中の省察的観察って、どんな場面を言うのですか?」という質問に対する回答がまともにできなかった。グーグルで事例を調べて後で答えたのだが、我ながら情けなかった。両方とも、例は見たことがあったし、何となくの説明は考えていた。しかし、自分の言葉にはなっておらず、私が目指している「わかりやすく、かつ印象的に説明する」には、程遠かった。あたかもその場にいるかのように話せる生きた事例にはなっていなかった。自分で説明しながら、「私がちゃんとした事例を持っていないということが、相手にバレバレだ」と恥ずかしい思いをしないためにも、説明する対象になっていることについては、ちゃんとした事例を考えておこうと思う。
 私の話しを聞いてくれる人がいる、ということに感謝し、私自身が思い切りその機会を楽しみながら、わかりやすく、かつ、印象的に伝えることができるよう、力を磨いていきたい。

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