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英語で伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 私の職場には、片言の日本語を話すイギリス人がいる。私のすぐ右隣に座っており、私とは、もっぱら英語で話をしている。また、彼を含めたチームで一緒に仕事をする際にも、英語でコミュニケーションをしている。若手で結構気さくな彼と話しをしてみたいと思っているのにもかかわらず、話しかけられないでいる人が結構いるということを先週知った。
 「英語がちゃんと話せないから、、、」というのがその理由のようだ。ある人とこの件に関して少し掘り下げて話す中で、その前提になっている見方を知った。「正しい英語を話さないといけない」という見方だ。「どれ位正しくないといけないと思っているか」その強弱の差はあるが、学校で英語を学んだ時に正解を求められた結果として、多くの人にはこの見方が刷り込まれているようだ。この見方が、英語を話す際に邪魔になっている。
 ある人は、こんな風に語っていた。「以前勤務していた会社は外資系で、仕事上どうしても英語が必要だったので、片言の英語で何とか仕事をしていた。その後今の会社に勤務してからは、必要なくなり、話さなくなった。必要もないのにわざわざ話すためには、ちゃんとした英語を話さないといけないのでは、と何となく思ってきた。」彼がこう発言するのを聞いて、気づいた。私の言動も、話をしようと思う際のハードルになってきたのではないか。私が同僚のイギリス人と流暢に話しているのを見て、彼らもより一層気おくれするようになってしまったのかもしれない。
 「伝えたいという気持ちを持っている人が、伝えられるようにサポートする」ことが私のやりたいことなのに、これでは逆の結果を招いてしまっている。そう思った私は、彼に提案してみた。「あなたと会話をして仲良くなりたいと思っている人達がいるから、今度『間違いなんて気にしない!気軽に話そうランチ』をやってみない?」と。すると、彼はこう言った。「喜んで!正しい英語なんて気にする必要、全く無いのに、、特にイギリス人である自分にはね。イギリスには移民の人達や海外から働きに来ている人達もたくさんいるので、文法的にも表現的にも正しくない英語で話す人達はたくさんいるから、自分は慣れているよ。」と。
 大事なのは、意思がちゃんと伝わること。私はよく英語指導をする際に、こんなことを言っている。「外国人がたどたどしい日本語で話しかけてきても、簡単なことなら、相手の意思はわかるもの。例えば、『わたし、かいしゃ、いく』と助詞が抜けていても、聞いている側が『私は会社へ行く』と補って理解できるよね。特に相手がネイティブで外国人と話慣れている人なら大丈夫。伝わるよ。」と。実際先日も、イギリス人の同僚と、ある人をインタビューする仕事があり、インタビューが終わった時に、彼が言った「おもしかった」という表現を「面白かった」と言いたかったのだろう、と推測ができた。
 だから、英語を話すことにもしあなたが躊躇しているのなら、「心配しないで。まずは話しかけてみて。」と伝えたい。もちろん、大事な交渉など間違ったら困る場合は、英語が正しく話せる人に通訳を依頼した方がいい。ただし、そんな場合でも、最初のきっかけ位は、英語で話してみようと言いたい。先日電話会議で私が逐次通訳をする機会があった。その際残念に感じたのは、交渉する立場にあった方が、最初から最後まで日本語で通したことだった。せめて、{おはようございます」「ありがとうございます」は英語で言って欲しかったし、気持ちを表す簡単な表現は、言えるようになっていると更に良かった。「嬉しいです。お目にかかれるのを楽しみにしています。」などを言えるだけで、相手との関係性がぐっと近づいたはずだから。
 身近に外国人がいない場合はどうすればいいか。ジャーナリストとしてかつてニューヨークに駐在していた人が、こんなアドバイスを知人にしていた。「話せる環境を積極的に自分からつくること。自分の場合は、外国人があまりいない時だったので、英語の先生に頼み込んで外国人を紹介してもらい、押し掛けた。」そんな積極性のある彼のお薦めは、「大使館で実施しているイベントを調べて、とにかくそこに行ってみること。そこから世界は広がる」なるほど!いいアイデアだ。大使館が近くに無い人は、外国人が集まりそうな場所を他に探してみるといい。観光客が集まりそうな場所に行って、困っていそうな人がいれば話しかけるなど。その気になれば、方法は見つかる。
 話しかける際のコツは、非言語メッセージ、つまり言葉の力に完全に頼り切らずに、ジェスチャーなどをふんだんに使うことだ。「力になりたい」という想いと心からの笑顔で接すれば、その気持ちはきっと伝わるはず。あなたは誰に英語でどう話しかけてみますか?

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