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学びを活かす力 2

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

昨年11月に書いたテーマ「学びを活かす力」について、引き続き取り上げてみたい。そう思ったきっかけは、いくつかある。Brinkerhoff Certification - for High Performance Learning Journeys®)ハイパフォーマンス・ラーニングの旅のためのブリンカーホフの認定)の資格を1月上旬に取得できたこと、取得にあたり、今年実施する研修の構成を変えたこと、そして、英語指導をしている人からある質問を投げかけられたことがある。
Brinkerhoff Certification Brinkerhoff Certification
 Brinkerhoff Certificationで学んだことの中で特に印象に残ったのが、学んだことを実践で活かして成果を上げようとする際の障害とそれらを考慮した上で研修の設計をすることの大事さだ。それらを考慮しないと、「大事なスキルや知識を教えた」という研修提供側の自己満足に終わってしまうリスクがある。これは、研修提供側に対する大きな警鐘だ。障害は多岐にわたるが、大きいところでは、「他のことが優先されて使う時間が取れない」「使う機会がない」「使おうとしても、上司に否定的な反応をされてしまう」「ちゃんと使えるか自信がない」がある。皆さんも、この中に、心あたりのある原因があるのではないだろうか。私もこれまで沢山のことを学んできたが、使えていないものの方が多い。私が使えていない原因の一つは、「使うのが面倒で、よほど意識しないと、前のやり方に戻ってしまう」ということだ。何度か使ってみれば効果が出てくるのだろうが、その線に到達するまでには時間がかかる。それは面倒だと感じてやらないまま、時が過ぎてしまうことが多い。
 英語指導をしている方からは、「使う機会がない中、どうやって英語を上達させていけばいいのでしょうか?」という質問を投げかけられた。週一回2時間、彼女が好きなテキストを使って英語を指導し、宿題として、簡単なフレーズを日々の生活の中で繰り返し言うことと、構文の一部を使った文をいくつか作ることを課している。例えば、”Have a great day!.”(素晴らしい一日を!)といった投げかけを朝旦那さんに言うことや、I would like to xx(私は~したい)を使った文を作成することだ。レッスンの際には、私との会話も少し入れている。英語指導に関して、私には自負がある。「英語が得意でない人の気持ちを理解し、英語で話すことの楽しさを感じてもらうことができる」と。だから、「上達していない焦り」が彼女から出てきた時には驚き、自問自答した。「受講者目線が大事」といつも自分で言いながら、「どこまで、彼女目線に立って考えられることができていたのだろうか?」と。上達のための方法をもっと一緒に考えてあげるべきではなかったのか。その反省に立って、アイデアを私の方から投げかけ、彼女が納得したものについて、試してみて上手くいくかどうか確認することをやった。彼女には外国人の友達はいないが、義理の息子が英語を使って仕事をしているというので、彼に少し英語で話してもらうことにした。これは、残念ながら上手くいかなかった。長い間二人で会話を続けることができなかったらしい。次に、英会話を教えている動画を探してもらった。しかし、これも、メールアドレスの登録をセキュリティの観点から彼女が躊躇したのと、「一日10分、3か月でペラペラに話せる」などとPRする怪しげなものが多く、断念した。結局、一緒に探して見つけたのが、イギリス大使館が作成している英会話の動画シリーズ。今のところ使えそうな感じで、彼女はこの動画を使って、日々英語に接することができているようだ。彼女が発してくれた一言のおかげで、私の英語指導方法もより実践的になった。
 日本プロジェクトマネジメント協会の元理事長でいらっしゃる田中弘さんが構築されたプログラムマネジメントの研修も、実践的な要素を考慮してつくられている。プログラムマネジメントは、標準ガイドブックからもわかるように、情報量が多く、それをベースにすると、情報を伝えるだけの研修になりかねない。その中で、田中さんは工夫を凝らしている。講義の中でWBSやスケジューリングの作成の演習を入れることに加えて、丸一日かけて研修生が取り組みたいとして選んだテーマについて、ツールやフレームワークを使って、実際にプログラムマネジメントの提案をさせている。この体験は重要だ。説明を聞いてわかった気になっていても、実際に使ってみようとして初めて、理解が不足していることが多いからだ。私も田中さんから声をかけていただいて一緒にプログラムマネジメント教える際には、学びをどう活用したいのかについてのディスカッションを入れたり、ミニ演習を入れたりしている。日本プロジェクトマネジメント協会で提供する研修にも、こういった実践に繋げるための工夫をより一層入れることが望ましいと思う。私も何かできることがあったらぜひ協力したい。

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