今月のひとこと
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 日本酒造りプログラムマネジメント 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :4月号

 今年は開花が早く、4月1日の入社式を満開の桜の下で迎えた新社会人が多かったのではないでしょうか。前日の花見ではしゃぎ過ぎて、入社式に遅刻した強者がいたとかいないとか。さらに新元号の発表があったりと、世の中がなんとなく華やかな気分にある時に社会人としての第一歩を迎える若者がまぶしく見えます。この時期、乗降に不慣れな通勤新人が増えることになりますが、舌打ちなどせず優しく見守ってあげましょう。

 4月の中頃にPMAJジャーナル64号を発刊する予定です。今回「プログラムマネジメント」をテーマに論文を募集していたところ、4編の論文が集まりました。いずれも力作ですので、多くの方に読んでいただきたいと思います。
 その「プログラムマネジメント」が、創業500年の老舗の酒蔵で行われているという話を紹介します。500年の歴史を積み重ねた老舗ですので、プログラムマネジメントという言葉は使っていないのですが・・。
 今年の9月5日・6日に開催予定のPMシンポジウム2019では、例年同様、様々な分野から素晴らしい講演者を揃えることができました。神戸市灘区に本社がある剣菱酒造株式会社(以下、剣菱という)の白樫正孝社長にも快く講演を承諾いただきました。
 日本酒の消費量はピークの1973年以降、年々減少を続けています。その中で、8年ほど前から、特定名称酒という厳選されたコメと厳正な作り方による日本酒の売上が伸び始め、日本酒ブームと呼ばれるようになっています。海外でも日本酒人気が高まり輸出量が史上最高を更新しつつあるといったニュースも聞かれるようになっています。
 こうした中で剣菱は、特定名称酒とは一線を画した日本酒造りを貫いています。厳選したコメと厳正な作り方を守っているのですが、その作り方が特定名称酒の基準を超えており、あえて特定名称酒を名乗っていないのです。剣菱のお酒の味を知る人には圧倒的な人気があり「古今第一」という称号を江戸時代から受け続けています。ブームに乗って日本酒ファンになったばかりの人たちには知られていないかもしれません。そんな剣菱の日本酒の作り方がプログラムマネジメントの実践なのです。
 日本酒造りは秋に収穫したコメを仕込んで翌春に新酒を絞り出す「仕込み」プロジェクトと出来た酒を貯蔵しておく「熟成」プロジェクトの組合せが基本です。昨今は冷蔵技術が進んで、コメの収穫時期に関わりなく一年中「仕込み」プロジェクトが稼働している酒蔵も増えてきましたが、剣菱では農業・漁業に従事している蔵人が冬季だけプロジェクトチームを組成するというスタイルを維持しています。この「仕込み」プロジェクトは新酒を造って「熟成」プロジェクトに引き継ぐと解散します。
 熟成期間がない「新酒」や「生酒」のフレッシュ感が支持され、日本酒ブームの一翼を担ってきたということもあり、日本酒に熟成貯蔵期間があるということを知らない方も多くなっています。しかしながら、日本酒は食事とともに楽しむことを基本コンセプトとしたお酒ですので「まろやかさ」といった要素が求められます。この「まろやかさ」は熟成貯蔵によって生まれることから、剣菱では仕込み後最低半年間は貯蔵してから出荷するようにしています。
 さらに日本酒の「味わい」とか「深み」といったものを一定水準のレベルに調整するために、複数の貯蔵タンクの酒をブレンドするということをしています。剣菱では、熟成期間の長短(一夏以上、2年以上、5年以上)等によって5種類の酒を売り出していますが、味のぶれはありません。ブレンドして調整するとはいっても劣悪な酒が混じっていたのでは品質を維持できません。毎年同じ味わいの日本酒を提供できるようにするため「仕込み」と「貯蔵」2種類のプロジェクトについて、15年分の計画を立ててマネジメントしているとのことです。
 まさに、プログラムマネジメントそのものではないでしょうか。
 PMシンポジウム2019の白樫社長の講演では、日本酒造りについてはもちろん、日本酒そのものの「味わい」「深み」についても楽しいお話を用意していただいています。どうぞ、お楽しみに。

剣菱 酒造りのプログラムマネジメント
 *上図は剣菱のパンフレット等を基に筆者が作成したイメージ図

以上

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