グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第132回)
一区切りを超えた先に

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :4月号

 ここ10年ほど、年度末は別れの季節であるということを忘れるほど筆者を取り巻く関係性は安定していたが、今年は少し事情が異なる。2月に北陸先端科学技術大学院大学(通称JAIST)で最後の大学院共通授業を行ってきた。その他に、お世話になった関係先でも3名の方が年度末で退任される。うち2名の方の退任は突然であった。
 
 JAISTに知識科学研究科があることを知ったのは、1997年に(旧)日本プロジェクトマネジメントフォーラム(JPMF)設立準備中に一橋大学に野中郁次郎先生をお訪ねし、名誉会長就任をお願いに上がった際に、野中先生がJAIST知識科学研究科の初代研究科長に就任されるとお聞きした時で、知識科学とはなにかと興味をもった。その後ご縁があって2年間のスポット非常勤講師を経て12年度から17年度まで客員教授(18年度は非常勤講師)を務めさせていただき、3科目を担当してきた。
 
 JAISTでの10年間は、知識科学研究科の有するナレッジ資源と方法論を勉強し、マネジメントを教える教員として一つのフレームを作ることができたこと、それを使ってフランス大学院で自分の中国人博士課程生に課題分析を行わせて無事Ph.D.を取得できたこと、また、かつて外国人二大勢力であった中国と韓国の学生に加えて、筆者のキャリアで(インドを除いて)出会う事のほとんどなかった南アジアの学生達を毎年教えることができたこと、が収穫だ。毎年の定点観測で、バングラデシュやパキスタンなど南アジアからの学生達の学力の伸びや英語力の伸びを把握することができた。ここ数年毎年実施しているAOTSの多国籍研修の参加者は南アジア中心であるので、JAISTでの授業経験が大変役に立っている。
 
 昨年は記録的な豪雪で立ち往生しながら修了に漕ぎつけたJAIST石川本校の授業であったが、今年は雪がなく、優秀な学生7名(今年は全員知識科学の学生で博士課程生2名、修士課程生5名;中国4名、モンゴル、ベトナム、バングラデシュ各1名)に恵まれ、双方快適に最終授業ができた。中国人学生の学力と英語力(1名は日本語が完璧)が今回急に高くなり、このことは国内の他の大学院でも同様である。
 
 JAISTでの貴重な経験は世界的に尊敬されている野中郁次郎先生にJPMF名誉会長(4年間)をお願いしていたことがご縁かと筆者は思っているが、最近になって野中先生が都立高校の先輩であることを知った時は大変驚きまた感激した。

JAIST PM実践論最終講義を修了した大学院生達と
JAIST PM実践論最終講義を修了した大学院生達と

 ここ5年ほど、3月は(一財)海外産業人材育成協会(AOTS)からPMAJが受託した2週間研修のコースディレクターとして、もはや当方関係者にとって聖地となった足立区北千住の東京研修センターに缶詰となるが、今回はフィリピン経営者向けの研修コースを実施し、無事終了した。セッションごとの評価では、フィリピン人経営者故の忖度もあるが、最高レベルを貰った。
 
 昨年12月に同じAOTS向け多国籍経営者・管理職者向けコースを終えたあたりから一時的な疲労により左下の親不知による炎症が起こり、鎮静待ち、仮治療、JAIST集中授業と続き、この研修に突入したため、10日間の終日研修はさすがに不安があったが、フィリピンの経営者(と経営者二世達)の講師陣への信頼と研修内容に対する多大な興味に力を得て無事乗りきることができた。
 
 今回は9名と予定の半分以下の参加者で、構成は建設業・建設コンサル業で日常的にPMを実践している人が4名、残りの5名はPM経験が皆無という本来研修がやりにくい構成であった。当方より「研修は中級程度、プロジェクト提案のアイデアは上級で行く」と宣言し、参加者はうまくこれに乗ってくれた。討議と演習のグループ編成は、経験者と未経験者を半々として組編成をしたが、経験者は、未経験者のビジネス分野のプロジェクトを題材にして話題共有をしてくれて、全員参加型ができた。フィリピンの知識層にはクラブ・メンタリティ(crab mentality)といい、水槽の壁を登ろうとする蟹がいると残りの蟹が一斉に足を引っ張りにいく(→会社である人が昇進すると残りの同期が徹底的なあら捜しを始める)という文化があるそうだが、研修団となるといつも大変強いチームワークを発揮するのは面白い。
 
プログラムマネジメント研修  フィリピン向け研修が得難いのは、一般的に参加者の社会に関する知見と英語力が高く、プロジェクト・ベース・ラーニングProject-based Learningが上手く回ることと、「低炭素化社会に向けての仕組み作り」という研修テーマに沿った、社会的に重要で資金手当てができれば実現可能な発展途上国目線でのプロジェクト/プログラムを提案してくれることである。今回も、完璧なWBS、コストデータとスケジュールデータ付きでグリーンビルの建設提案、不法居住者移住を想定
プログラムマネジメント研修
した低コスト環境配慮コミュニティの提案、マニラ首都圏の喫緊の課題であるゴミ焼却・発電施設のプログラム提案など、今後の教材にもなるような具体的なアウトプットを得ることができた。
 
 授業や研修のパフォーマンスは、教える方と教わる方の両方のノリがよいかどうかで決まることを再確認した2月と3月であった。
 
 ひとつ区切りがついて、本格的な歯科治療も必要なので、数ヶ月間仕事は休みの予定であるが、あといくつか区切りがある。世の中の変動が激しいのでどのような区切りになるのか分からない。頻繁に通っていたヨーロッパに行くのが最近億劫になったが、筆者が愛着をもっているセネガル共和国にはなんとしても行きたい。同国では去る2月24日に行われた大統領選で現職マッキーサル大統領の再選が早々と決まり、選挙は民主的に混乱なく行われたことであり、サル大統領のPSE (Rising Senegal 2035) 政策を高く評価する筆者は夏までにはダカールを再訪したいと思っている。 ♥♥♥

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