例会部会
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【第242回例会 報告】

KP 増澤 一英 : 3月号

【データ】
開催日: 2019年1月25日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「研究開発を成功に導くプログラムマネジメント」
~魔の川、死の谷、ダーウィンの海を乗り越えたい~
講師: 大和田 政孝 氏
株式会社風力エネルギー研究所 技術顧問

【第242回例会 報告】
~はじめに~
  現在では、様々な規模と分野で新しい製品やサービスが創造され、スピード感も要求されています。市場投入までの効率的なマネジメントが最重要課題と言えるでしょう。
 大和田氏は40余年に亘り、原子力、宇宙開発、医療、防衛、風力、といった、大規模な研究開発に携わってこられました。研究開発の経験を活かしてPMAJで研究開発のマネジメントSIG(研究会)を主催され、その成果が、昨年PMAJから出版されています。

~講演概要~
■研究開発とは
 研究開発は、一般的にR&D(あるいはR&DD=Demonstration)として、一括りのイメージですが、本来は、研究=アイデアを固めること、開発=仕様を固めることで、研究と開発は違うステージとして位置付けられることを確認しました。
 一方、研究と開発に共通な特性としては、事業化までの長い道のり、沢山のステークホルダー、経営者やリーダーの強い意志と技量を要すること、が挙げられます。

■研究開発をマネージする重要性
 宇宙ロボットアームの開発事例が紹介されました。概念検討には長い時間を費やし、部品の試作も並行して行われました。基本設計の段階では、ISS(国際宇宙ステーション)の仕様変更に伴う変更要請、予定外の実証試験などが発生し、後続の詳細設計と維持設計に多大なインパクトを与えました。基本設計以降の投入人員数と期間は大幅に超過し、実用化には18年を要しました。
 すべての過程で、数々の個別プロジェクトが進行していて、研究開発はまさにプログラムであり、そのマネジメントが非常に重要だと認識されたそうです。
 プログラムマネジメントは、経営戦略と事業戦略に基づいて、プログラムを創生し実行します。プログラムの戦略と価値の評価、そしてリスクのマネジメントは並行して行なわれます。この枠組みを、研究開発のマネジメントにもあてはめることが課題です。

■プログラムマネジメント手法の適用
 宇宙開発の事例では、概念検討ステージが研究プログラム、基本設計のステージが開発プログラム、詳細設計と維持設計のステージが事業化プログラムと言えます。
 一連のプログラムの管理は、ゲートでの評価をもとに行います。ゲートは、プログラム同士の移行点と、プログラム内で進行する、創生ステージから実行ステージへの移行点に設定します。

研究開発から事業化までのプログラムマネジメントには、事業戦略によって、次のようなタイプ(型)があます。研究と開発のプログラムが異なる命題から派生することに注意すべきです。

  ≪連続型プログラムマネジメント≫ 企業の持つ技術(シーズ)から、研究、開発、事業化プログラムを進める。規模や分野によらず、研究開発部門を持つ企業での標準形。

≪逆算型プログラムマネジメント(1)≫ 事業コンセプト(ニーズ)から、研究、開発、事業化のプログラムを創生する。企業の高い目標を達成するのに適する。

≪逆算型プログラムマネジメント(2)≫ 事業コンセプト(ニーズ)から、早期に開発と事業化のプログラムを創生する。企業の既存技術や部品を活用。

≪昇華型プログラムマネジメント≫ 事業戦略に基づいて、外部の先端技術の研究を採用して、自社で開発と事業化のプログラムを創生する。外部の技術との繋ぎのマネジメントが重要。

プログラムのタイプを踏まえて、各ゲートを通過する際の困難を克服することがプログラムマネジメントの鍵になります。以下のゲートが特に重要です。
  ≪魔の川:研究プログラムと開発プログラムの間のゲート≫
≪死の谷:開発プログラムと事業化プログラムの間のゲート≫
≪ダーウィンの海:事業化プログラム創生と実行(市場投入)の間のゲート≫

 魔の川や死の谷の通過には、研究と開発の成果を経営が納得する形で表現し、経営戦略に見合う後続プログラム計画を提案できることが鍵になります。加えて、ステークホルダーからの支持が非常に重要です。
 ダーウィンの海は、市場参入の目的を達成する際の困難です。市場に参入して利益とシェアを拡大できることを、説得力のある形で提案できなくてはなりません。

■まとめ
 研究開発を事業化し市場投入を成功させるためには、適切なプログラム創生が何より大切です。それとともに、遅れや予算超過に関する透明性を維持することを忘れてはいけません。それらの問題は隠し通せるものではないからです。

~感想~
 研究開発から市場投入という過程のマネジメントの理論立った理解ができたと思いました。現在は、研究開発から事業化までの過程には多くの企業の協業が関わるでしょう。そういったインターフェイスのマネジメントも重要だと思いました。

 最後になりましたが、ご講演いただきました大和田氏には、大変お忙しい中、PMAJ 例会部会にご協力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 また、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上
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