投稿コーナー
先号   次号

「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (60)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (36)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 3月号

Z. 先月号では3つの戦略論:①従来からの経験的手法論、②プロジェクトマネジメント手法、③プログラムマネジメント手法(P2M)の話をしてもらい、地域開発に適した戦略論を聞いた。要約すると以下となる。
1 ) この町の戦略上の優先順位は基本目標3の『子育て環境の整備』である。理由は小学校の新入生が20名という。これが更に下落すると、幼稚園群の一部が経営難で脱落する。X小学校が町中の他の小学校に吸収合併される。X小学校区再生協議会はそのものの存在価値がなくなる。
2 ) ここで手法③を採用すると以下の成果が得られる。
複雑な課題を解決するにはPMではなく(PGM)プログラムマネジメントが適切である。町行政の担当者、協議会幹部はPGMの手法をよく知っていないので、その成果を期待していないし、彼等だけではできないことも認識している。そこでその認識の壁を破る戦いをしたいと思っている。
3 ) PGMを活用すると、目的とする課題のほかに、付随的におこる付加価値が生まれる。(後述する)
4 ) 子育て優先政策は町の既存組織(社会福祉協議会、自治会、老人会、その他団体)に新しい風を吹き込むことができる。
I. はい、その通りです。しかし、彼らからは「そのような得体のしれない手法は取りたくない」という回答があり、更に我々は独自の手法で再生協議会を進めていく。君は老人会の健全化に取り組んだらいいだろう」というメールが返ってきました。
Z. それは大変な権幕だな。なぜ、そんなにかたくななのだろうか。
I. 今まで返事がなく無視されていましたが、ここでは返事があったということで、正式に回答をできる機会を得たと理解しました。そこで私は少し高飛車に出る方策をとりました。
(Ⅰ) 私が何故しつこく提案しているか、その理由をお話しします。
1 ) 子育て環境の整備という【価値創出】
この町では既に総合戦略をまとめあげ、ビジョンとして4つの基本目標を掲げています。私は町の基本戦略をベースに具体策をまとめることにしました。なぜなら基本目標はビジョンであって、具体化された計画ではないからです。私は真っ先に取り上げた総合戦略は『基本目標3の子育ての環境整備』でした。幹部は『子育ての環境整備』の重要性はわかっていましたが、基本目標3子育て環境整備で何をしたらよいのかわからなかったようです。
日本人は「ハード」をつくるときは極めて、てきぱきと進めますが、再生協議会が求めている重要案件は「モノづくり」は少なく、「コトづくり」が主です。言葉を換えると従来実施していなかったコトを「価値ある形につくり替える」方法が浮かばないと【新しい価値創出】が生まれません。
2 ) コンソーシアムという形式とその活動(町、公社、保育園、幼稚園、老人会)
A. 「町と保育園」:子育て環境の整備といった場合、都道府県が行ってきたのは保育園の整備、保育士の養成等です。これらは「ハードの整備」に属します。ここでは「町と保育園」で、ニーズに応じた施設と要員の確保に力を入れてもらえます。
B. 「住宅供給公社」:現在の遊休アパートのリノベーションで子育てを希望している「共稼ぎ家庭」、「シングルママ」のためのモダンなリフォーム住宅の提供ができます。現に独身者のアパートへの入居が増え、人口削減防止に寄与しています。
C. 「老人会子育てババコミュニティ」(子育てという絆による晩年の幸福感の創出)
日本社会は形式的には女子社員の活躍を社是に掲げていますが、残業を減らす努力を企業がしていません。これでは女子社員が安心して子育てを全うすることができません。私の提案は日本の社会の発想を変えることではなく、残業があっても保育園の送り迎えを確実にしてくれる近所の老人会が【子育てコミュニティ】を提案することです。江戸時代は火事が多かったので、長屋は大家さんを中心に向こう三軒両隣が、危機に際し助け合いをしていました。
考えてみてください、日本は世界に類を見ない天からの災難をうけている国です。相互扶助なしに暮らせない社会です。幸いこの町の老人会は元気なババさんが多く活躍しています。老人会が子育て共稼ぎ家庭の支援をする、シングルマザーの子育て支援をすることを考えますと、これは『新しい価値の提供』です。
町が子育て支援に全力を挙げることができると、どのような変化が起こるでしょうか。老人会の中に子育てコミュニティがつくられます。このボランティアが交互に無理なく子育て支援をします。この場合、共稼ぎ家庭は残業をしていますから、ささやかな謝礼を出すことができます。タダで支援するというのは長続きできません。コミュニティを維持するに必要なお金が継続に貢献します。しかしこのコミュニティの他の大切な目標は、老人会、子育てママ、幼児等が助け合うことで『コミュニティという「絆」が会員の晩年の幸福感』に大きく寄与することです。この手法は老人会の課題である独居と孤独死等対策という課題にも貢献します。
現在の老人会は健康寿命の増進が最大の課題となっています。しかし、会の運営はすべて無料のボランティア活動が要求されています。現在の老人会はボランティア活動をしないと心に決めている人が増えているため、会の運営が危機に直面しています。この解消に活用してみたいと思います。
D. 派生的なメリットの構築(スクールバス的発想)
コンソーシアムは更に派生的なメリットを生むことができます。この地区には3つの幼稚園、一つの保育園があります。それぞれ送迎バスを持っています。それぞれのバスは送迎時以外には暇があります。今小学校は低学年の帰りの送りに困っています。幼稚園と小学校では帰宅の時間帯が違うのでNPOをつくって送迎バス的役割をしてもらいます。また再生協議会地域内で会合が頻繁に行われていますが、駐車場不足です。NPOをつくって、これらの用途に利用できれば老人たちが助かります。
Z. Iさん、あなたの政策は町が考えたビジョンをうわまわる発想だと思う。
これは戦略家の仕事ではなくて知恵者の仕事だな。ここまで視野を広げて先の先まで目先の利く人は少ないと思う。再生協議会の幹部との戦いは簡単には終わらない気がする。そこで、今月号は話を変えて、Iさんの発想の原点を教えてもらいたい。それがわかると今後の展開の面白さが見えてくると思う。
I. 今月は再生協議会がどのように展開するかを書きたかったのですが、幹部と私との落差を知っていただくことも大事だと考えます。彼らの考えをお話しする前に価値創造に関する私なりの発想をお話しします。
Z. ぜひお願いする。
I. 私が鍛えられたのは大学を出て、小さなベンチャービジネスに入社しました。その会社は小さなプラント建設会社でした。社長は東大出の傑物で、教授候補の第一人者であったのを振り切って、ベンチャービジネスを立ち上げました。それはプラントエンジニアリングという新しい分野でした。かれは後に八幡製鉄の専務から見込まれて高炉を使わず行う、水素還元製鉄法のテストプラントで業績をあげました。社長が開放的なので、私はここで好き勝手にアイデアを出して10年働き、或る縁があって35歳で日揮に転職しました。
日揮では国内製油所建設を実施し、次はシェルドミニカ製油所建設のエンジニアリングマネジャに選ばれ、建設完了後現地試運転を立ち上げ、スタートから1か月間トラブル無しで試運転終了させ、シェルから世界一と褒められました。
ここでの実績の勝利は「システム・エンジニアリング」と「プロジェクト・マネジメント」という手法によるものです。PM手法に関しては省略しますが、簡単に言いますと、大型プロジェクトを最短期間で、最小コストで、優れた技術の設備をつくる努力をします。ここでは人使いの上手さも成果に影響します。大型だからといって細部を疎かにするとしっぺ返しを食らいます。華やかだが、危険の多い仕事師といえます。
Z. なるほど、そうだろうな。ところで戦略の仕事はしたのかな。
I. 石油、原子力、宇宙開発という大型プロジェクトの業務に携わったため、リスクの少ない仕事でした。
戦略の研究は通産省から頼まれて、プロジェクトマネジメント協会を設立してからです。ここではP2Mの構想者【小原教授】にお願いして、米国のプロジェクト・マネジメントを上回るPGM(プログラム・マネジメント)の開発をしました。
Z. P2Mでの役割は何だったのかね。
I. 私自身がしたことは、P2M(プロジェクト&プログラムマネジメント)テキストの作成です。次にP2Mが世界で新しい手法として確立されたため、通産省からこの手法が認可されたため、資格試験用の講座の講師と、資格取得のための最終面接を行いました。
Z. それ以外の役は何かしましたか。
I. 協会の事務局長で協会の運営と研究開発です。
研究開発ではP2Mの戦略マネジメントでしたが、小原教授が示したPGMの原理を利用した各種の価値創造への導き方という課題に取り組みました。
この努力が認められて、小原先生が導いたPGMの戦略の原点と、それに続く末端での価値創造をトライしました。そこで小原教授からのお墨付きを頂き、OW(小原・渡辺)モデルと命名し、あらゆるケースで『価値開発する仕事』をしてみました。
来月号は再生協議会対策をお休みして、地域開発やそれ以外でも「価値創出」できる種々の手法を紹介します。価値工学などと名付けると皆さんがビビってしまいますので、価値とは何で、どのような時に価値創出ができるのかを考えてみます。
Z. それは楽しみだ。来月もよろしく。

ページトップに戻る