PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(132)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :3月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●AI技術の進化で「職」を失う個人
 デジタル技術(AI技術、IOT技術、クラウド技術、モバイル技術等)を活用し、新商品、新製品、新サービス、新事業を開発し、顧客の変革を図り、新しい価値を創出する経営改革(Digital Transformation=DX)を遂げない企業は衰退し、いずれ消滅する。また経営改革に対応できない個人は、仕事の種と生活の糧として身に付けた「職」を半減させ、いずれ全てを失う。

 一方この経営改革(DX)をやり遂げた企業は、生き残り、発展する。またそれに対応した個人は、新たな仕事の種と生活の糧を得て生き残り、成長する。

  出典 Transformation変身mitchellakegroup.com.articles/media/single 出典 Transformation変身
mitchellakegroup.com.articles
/media/single

 以上の現象は、遠い未来で現実化することではない。早くて10年以内に、遅くて20年以内に現実化する。この近未来予測は世界中の多くの研究機関などから発信され、現実化の時期に違いはあるも、中身は大差ない。

 筆者は昨年、講演を依頼されてPMシンポジューム2018に参画した。また同年、招待されてJUASスクウエアー2018に参加した。この両大会で筆者は衝撃的な発表を聞いた。その発表内容は、DXの進展によって真っ先に「職」を失う個人がシステム開発会社やシステム運営会社のシステム関係者やその他の業種、業態の企業のシステム関係者であると云う事だった。

 DXが活用する技術の中の核技術は「AI技術」である。これは数学(関数)と統計と確率を基本とする「ロジカル・シンキング」の産物であり、システム技術の結晶である。特に「AI仕事ロボット」がシステム関係者の「職」を真っ先に奪うのは当然の帰結かもしれない。

 さてPMAJの会員はシステム関係者が最も多い。しかし筆者が接触する会員のシステム関係者からは、真っ先に「職」を失うと云う危機感の発言を全く聞かれない。しかし不安と感じていても、口にしないのか? 「どうしてよいか分からない」と内心思っているのか?

●AI秘書
 「AI秘書が皆様のお仕事をお助けします」と云う日経新聞の広告(下記)を見た読者は多いと思う。しかし特段珍しい広告ではない。日本だけでなく、海外のメディアでも数えきれない数のAI技術を活用したビジネス広告が発信されているからだ。

 しかし筆者が言いたいことは広告の内容だ。数年前を振り返って欲しい。その当時、「AI秘書が皆様のお仕事をお助けします」と云う広告は存在したか。近い将来、「AI仕事ロボットを社員として採用します」と云う募集広告が掲載されるだろう。

 最近、AI、AIと毎日の様に騒がれる。しかしAI技術の研究と応用の歴史は古い。第1次AIブーム(1950年代~1960年代)、第2次AIブーム(1980年代~1990年代)、第3次AIブーム(2000年代)の現在に至っている。しかし過去のAIブームと現在のそれとは、かなり様相が異なる。

 現在は、AIブームと云う様な潮流論で認識すべきではない。AI技術は、その進化と実用化のレベル論を超え、経済界、産業界、事業界に浸透し、その形態だけでなく、その骨格まで変質させようとしている。と同時に我々の日常の仕事や生活の場にAI技術が意識されない状態で活用され始めてきている。

  出典:見積+AI秘書
NIコンサルティングの日経新聞 2019年2月21日の新聞広告 出典:見積+AI秘書
NIコンサルティングの日経新聞
2019年2月21日の新聞広告

●AI技術の未来予測論
 筆者は、AI未来予測を云々する資格のある人間ではない。一介の経営コンサルタントである。しかしAI技術が得意とする機能(分類、分析、予測、推薦、診断、審査、最適化、形態・画像認識等)と不得意な機能(課題設定、夢設定、感性発揮、創造性発揮等)が何か? 一応理解しているつもりだ。

 昔、高性能のコンピューターが次々開発され、優れたコンピューター・システムが数多く誕生すると、多くの人の「職」は劇的に奪われていくと云う未来予測が数多く生まれ、多くの人々を「不安」にさせた。今回も同様の未来予測が出た。しかし本当だろうか? 筆者は、半分は疑っている。

 歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、近未来にホモ・デウス(Homo Deus)とホモ・ユースレス(Homo Useless)と云う人類史上初の人間社会の到来を予言した。この衝撃的な内容を前月号で簡単に解説した。しかし本当だろうか? 筆者は半分疑っている。

 何故、疑っているか?高性能コンピューターと優れたコンピューター・システムの到来で「職」を失った人は大勢いた。しかし逆に新たな「職」が次々と生まれ、結局、「職」は増えたのである。

 ハラリの未来予測の通り、ホモ・ユースレスが生まれても、彼らを活用する新しい事業が生まれ、ホモ・ユースレスがホモ・ユースに変身する理論(★)もあり得る。またホモ・デウスが人類を支配すれば、その独裁的支配に抵抗する動きが生まれる。この抵抗の必然性はホモ・サピエンスの人類史が証明している。

 従って筆者は予測通りにはならないと考える。なおハラリの予測するディストピア論(逆ユートピア=Dystopia)に抗する理論(★)とは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授が提唱している「方向づけられた技術変化理論(Directed Technical Change、DTC理論)」のことである。

 筆者が半分信じ、半分疑っても、もし予測が的中したら企業は消滅し、職も失われる。この最悪の可能性に備え、今、何を目指すべきか? 何をするべきか?を考え、行動する事は無駄な事にならない。

  出典:ユートピアとディストピア
pascalgunsch.files.wordpress.com-utopia-dystopia-poster 出典:ユートピアとディストピア
pascalgunsch.files.wordpress.
com-utopia-dystopia-poster

●AI技術と発想(Insriration=思考)
 筆者は、エジソンの言葉を借りて、創造の「創」は「発想(Inspiration=思考)」を意味し、「造」は「発汗(Perspiration=行動)」を意味すると定義している。この両方が存在しなければ、創造は実現しないし、成功もしない。

 AI技術は、「創」の「発想(Inspiration=思考)」をする事が出来るか?

 筆者はAI技術が浸食できない領域は「創造」の領域と本稿で何度か述べた。しかしAI技術は優れた絵を描く、優れた小説を書く、優れた歌を作曲する事などが出来るのである。この様に述べると、AI技術は非ロジカル思考や感性思考が出来ないので浸食できないと述べた見解と矛盾すると批判されるだろう。しかし筆者は矛盾も、見解も変更していない。

  出典:AI技術による作曲
technewsworld.com/articleimages/story graphics 出典:AI技術による作曲
technewsworld.com/article
images/story graphics

 実は、我々が発想する時、過去の成功した発想を数多く組み合わせて、その中からベストのものを抽出すると云う発想をする場合がある。AI技術は数多くのデータを組み合わせてベストな選択をするのが得意である。この得意なことを発想に活用させただけである。それは一見、非ロジカル思考や感性思考をしている様に見える。しかし実は粛々とロジカル思考や理性思考をさせ、発想に役立たせただけである。AI技術に「発想」の一部を担わせることが出来ても、優れた、革新的な発想をさせる事は出来ない。何故なら非ロジカル・シンキングの極である「空想」、「妄想」、「狂想」をさせることはできないからだ。

●AI技術と発汗(Perspiration=行動)
 AI技術は、「造」の「発汗((Perspiration)」をする事が出来るか?

 人は、新商品、新製品、新サービス、新事業を開発する「夢」を描き、その実現と成功のためにプロジェクト・チームを編成し、チーム・メンバーをリードし、眼前に立ちふさがる多くの問題をメンバーと共に「汗と涙と血」を流すことを厭わず、喜んで流し、「優れた発想」を基に解決する。そして「夢」を実現させ、成功させるのである。AI技術は発汗行動を助ける役割は果たせるが、発汗行動そのものを果たすことはできない。

●AI技術と「夢」
 AI技術は、上記の通り、一部を除き、発想できない。また発汗できない。そんな事は当然だと思う読者に敢えて、批判されるのを覚悟で尋ねたい。ならば「貴方」や「貴女」は、仕事、生活、人生に於いて「夢」を持ち、その実現と成功の為に、日々「発想」し、日々「発汗」していますか? もししていないなら、AI技術と同じですね。

 エジソンは「私は1%の閃き(Inspiration)がなければ、99%の努力(Perspiration)が無駄になると言った。しかし世間は私を努力の人と美化し、努力の重要性だけを成功の秘訣と勘違いさせている」と述べた。

 彼は「1%の閃きこそ全てだ」と主張した。しかし彼は、正規の教育を受けられず、独学で勉強し、新聞などの販売員をしながら貯金をして実験を続けた。そして信じられない様な努力の末、蓄音器、白熱電球、活動写真などを生み出し、生涯、千数百の発明をした。彼は、自らの主張とは異なり、「1%の発想(思考)」と「99%の発汗(行動)」の両方を実践した人物であると断定したい。

 AI技術が幾ら進化しても、経営改革(DX)をやり遂げ、新時代に生き残り、発展させる人物は、「夢」を持ち、「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」の両方が出来る「創造的な経営プロと仕事プロ」であると確信する。

つづく

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