PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(131)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :2月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●Homo DeusとHomo Uselessの未来社会
 前号で、発想に役立つ左脳の訓練方法とは何か? それは、あらゆる物事(モノとコト)を徹底して「定義」する事で培われると説いた。定義するとは何かと云う「定義の定義」を尋ねた。しかし筆者が接した多くの人、特にシステムの仕事に従事する人物さえもが答えられなかった。ショックを受けた。将来、AI技術の進化で過去に類を見ない「激変時代」が到来する。進化するのはAI技術だけではない。ナノ技術やバイオ技術も進化し、その激変を加速させる。この超先端技術の進化を先取りし、導入し、活用した個人、企業、社会、国だけが生き残るサバイバル時代が到来する。

 人類はネアンデルタール人~ホモ・エレクトス~ホモ・デ二ソワ人を経て、現在のホモ・サピエンス(Homo Sapiens)に進化した。現在の人類は、上記の技術を活用して進化し、将来、神の様な力を持って支配するホモ・デウス(Homo Deus)と何の役にも立たない服従の無用人間(Homo Useless)に分岐する。この様な衝撃的な人類史上初の人間社会の到来を予測した人物は、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリである。

左:出典:ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ
prospectmagazine.co.uk/magazine/books history-of-tomorrow 中:出典:歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ
Homodeus news_vert_com Fmaxresdefault. 右:中:出典:人類の未来
homodeus.bp.blogspot.com &actionclick
左:出典:ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ
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中:出典:歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ
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右:中:出典:人類の未来
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 もしこの予測が正しいとするならば、我々は、服従のホモ・ユースレスでなく、支配のホモ・デウスの道に進むべきであろう。然らばこの未来シナリオの出発点の現在、「創造的な経営プロと仕事プロ」になろうではないか。

●右脳訓練の本
 前月号は「左脳訓練」を解説した。今月号は「右脳訓練」を解説したい。

 さて世の中には「右脳訓練」の本が数多く出版されている。誰しも一度は興味を持ち、読んだのではないか。しかしこれら右脳訓練の本は、本稿で既述の通り、どれもこれも図形認識やパターン認識などを訓練する内容が極めて多いことだ。その理由は、右脳が図形認識やパターン認識をするためである。

 筆者は図形認識、パターン認識を鍛えることが無意味とは思わない。しかし左脳の働きに対峙して右脳の本来の働きは、自由で制限のない「感性の働き」である。従って右脳訓練は、左脳訓練にない訓練、即ち「非ロジカル・シンキング(思考)」な訓練でなければならない。にも拘わらず市販の「右脳訓練」の本を精査すると、ロジカル・シンキング(思考)の訓練の線上にある訓練ばかりである。

 1+1=2と云う「理性の機能」を幾ら働かせても、空想、夢想、妄想、狂想と云う1+1=∞の広がりを持つ「感性の機能」を働かせる事は不可能である。何故、こんな簡単な事が「右脳訓練」を提唱する人物に分からないのだろうか?

 感性の働きは色々ある。その中で空想、夢想、妄想、狂想などの感性の無限大の働きは、「優れた発想」にとって如何に重要かを実例を挙げて説明したい。

●ニュートンの「リンゴの木の逸話」
 ニュートンは、リンゴがリンゴの木から落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見した。この逸話は、ニュートン自身が日記に書いているため真実と言われている。そして「リンゴは地面に落ちるのに、月は何故、地面に落ちないのか?」と疑問を思った事が研究のヒントとなったと言われている。


出典 リンゴの落下
guestblog.scientopia.biology-is-a-science

 筆者は、デック思考(夢工学式発想法)」の講演、研修、講義をする時、聴衆や受講者に、この逸話をよく引用し、「月も、リンゴと同様、地面に落ちて来ますよ」と言う。それを聞いた人達は、一瞬「ポカン」とした表情を見せる。更にたたみかけて「何故、落ちて来るのですか?」と尋ねる。殆どの人は筆者と目を合わせない様にしたり、困惑した様子を見せる。筆者は「やれやれ、困ったものだ」と内心感じる。聡明な読者はその理由を承知しているだろうから、先に話を進めさせて貰う。

 筆者がこの逸話で言いたいことは、落下の事ではない。ニュートンが何を考えたかである。リンゴの木の「リンゴ」と空に浮かぶ「月」は全くの別物である。にも拘わらず、彼は「同じ物」とする「等価」を行った。現在の我々なら「等価」は容易だ。しかし飛行機も、ロケットもない当時の人々にとって、また彼自身にとって、手元にある「リンゴ」と天空の彼方に存在する「月」を等価する事は、ロジカル思考では不可能である。空想、夢想、妄想よりも、クレージーな狂想の感性、即ち非ロジカル思考を働かせたからこそ等価ができた。天才ニュートンによる感性による等価を基に「リンゴは地面に落ちるのに、月は何故、地面に落ちないのか?」と云う理性の疑問に至った。

出典:リンゴと月(昼間と夜) com/shop/fruit-trees/apple & moon screensaver 出典:リンゴと月(昼間と夜) com/shop/fruit-trees/apple & moon screensaver 出典:リンゴと月(昼間と夜) com/shop/fruit-trees/apple & moon screensaver 出典:リンゴと月(昼間と夜) com/shop/fruit-trees/apple & moon screensaver
出典:リンゴと月(昼間と夜) com/shop/fruit-trees/apple & moon screensaver

 筆者は、左脳が理性機能、即ち論理思考(1+1=2)の機能を持つ一方、右脳が感性機能、即ち非論理思考(1+1=無限大)の機能を持つと分かり易く「発想理論」を展開している。しかし人間のロジカル思考も、非ロジカル思考も、それに基づく行動も、前頭連合野、両脳、胃腸、皮膚などの機能が相互に絡み合い、融合し合った結果の作用と考えている。

●「在り得ない事」を在り得る様にするマジック
 デビッド・カッパーフィールドと云うプロ・マジシャンは、「自由の女神」を見ている聴衆の目の前でそれを一瞬の内に消した。そして暫くした後に、元に戻した。

出典 カッパーフィールドによる自由の女神の消滅minkara.carview. serstorage 出典 カッパーフィールドによる自由の女神の消滅minkara.carview. serstorage 出典 カッパーフィールドによる自由の女神の消滅minkara.carview. serstorage
出典 カッパーフィールドによる自由の女神の消滅 minkara.carview. serstorage

 これは今では古典的マジックである。そのタネは既に公表されている。しかし実演された当時は、驚異のマジックとして全世界から注目され、日本でもTV公開された。

出典:カッパーフィールドとマジックのタネ
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出典:カッパーフィールドとマジックのタネ
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 筆者が言いたいことは、このマジックのタネの事ではない。観衆の見ている前で自由の女神の存在を消し、また復元すると云う「在り得ない事」を考えることだ。ロジカル思考から絶対に生み出せないことだ。「絶対に在り得ない事」を思考する事は、空想、夢想、妄想を飛び越し、非ロジカル思考の中のクレージーの極致である「狂想」から生まれる。

 このクレージーな狂想を前提として如何にそれを実現させるか? この時、初めてロジカル思考の出番である。上図の通り、観衆が座っている空間自体を観衆に知られず、静かに回転させ、自由の女神を見ていた方向を移動させ、女神を消す。その後、元に回転させて女神を出現させる。実演ではレーザー光線を女神に照射し、その存在をレーザー光線装置で見せ、次の瞬間、消した。観衆のロジカル思考は完全に打ち砕かれたのである。

●発想に役立つ右脳の訓練方法
 強烈な発想には強烈な狂想が不可欠である。アインシュタイン博士は、ロジカル思考を超えた非ロジカル思考を駆使した。絶対的な時間と絶対的な空間の存在を否定した。また絶対的存在である物質と絶対的エネルギーの存在までも疑ったこと等である。

 右脳訓練の肝は、ロジカル思考を捨て、非ロジカル思考に徹することである。あらゆる物事(モノとコト)を発想する場面で、想像を超えて、空想、夢想、妄想、狂想を意識的にも、無意識的にも働かせると云う所謂「感性の無限大発揮」を試みることである。これは小手先の右脳訓練では不可能で、発想現場での実践の積み重ねで初めて可能になる。この感性・無限大発揮を簡潔明確に言い換えれば、「子供に戻って、子供の様に発想する」ことである。

 本号で「創造的な経営プロと仕事プロ」になるための「在り方」と「やり方」を具体的に解説する事を前号で約束した。しかしその解説をする前に右脳の効用と訓練で紙面を費やした。申し訳けないが、次号で解説させて欲しい。

つづく

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