投稿コーナー
先号  次号

「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (3)
―若田宇宙飛行士の打上げ時の不具合―

宇宙航空研究開発機構客員/PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :2月号

 若田宇宙飛行士が搭乗した史上100回目の飛行となるスペースシャトル「ディスカバリー号」のミッションは、建設中のISSに、通信や姿勢制御のシステムの取り付け土台とシャトルドッキングポートを取り付けることで、若田宇宙飛行士は、日本人として初めてのISS組立て作業に参加し、ロボットアームを操作して、これらの機器の取り付けや船外活動を支援することになっていました。しかし、当初2000年10月6日(日本時間)に打ち上げ予定でしたが、技術的な問題 (1) から3度打ち上げを延期することになりました。

 最初の不具合は、前回のシャトル打ち上げ後の解析で発見されたものです。シャトル本体と外部燃料タンクを結合する3本のボルトへの懸念でした。このボルトは長さ14インチ、直径2.5インチで爆発ナットにより本体と結合されていて、このナットが火薬により爆発して分離したのち、ボルトがバネにより外部燃料タンク内部に引き込まれる設計になっています。打上げ記録フィルムを分析していたところ、3本のうち1本がタンク分離時に引き込まれずに約2.25インチ突出したままであったことが判明しました。シャトルには損傷はありませんでしたが、最悪の場合には突出したままのボルトの影響で外部タンクの軌道が乱れ、本体に衝突する可能性があったのです。シャトル発射台でのボルト交換は不可能なので安全確保のため延期して調査することになりました。コンピュータシミュレーション、ボルト設計の妥当性と試験データにより安全性評価が行われた結果、外部タンクの分離に影響しないものであることが確認され打上げには問題ないと判断されました。また、これとは別のエンジンバルブの不具合の交換のため、10月6日の打ち上げは10日に延期となりました。さらに、2回目は、打ち上げ射場が強風のため、1日延期することとなりました。

 3回目は、10月11日打上げ当日、NASAのケネディー宇宙センターの品質管理エンジニアがシャトルと外部タンクの間の液体酸素供給ラインにピップピンと呼ばれるT字型の金属製のピンが落ちているのを発見、放水して必死に除去しようとしたができませんでした。そのままでは、打上げ時に、シャトル本体を破損させる危険性があることから、24時間延期されました。このピンは、シャトルの保守作業のため作業用の手すりを固定するための金属製のピンです。延期の記者会見で、「ピンの種類からどのチームが落としたのか分かるはずだ。」と示唆する記者やつまらないことで延期になったことにマスコミから多少の批判がでましたが、やりとりはそれで終わりでした。宇宙関係のアメリカのマスコミの多くは技術的なこともNASAの宇宙政策やマネジメントに十分通じています。そのため、事実をあぶりだすことに集中します。
 NASAは燃料を抜き取った後、エンジニアがピンを取り除き、翌日、予定時刻に若田宇宙飛行士を乗せたスペースシャトルを打上げ、ISS建設ミッションは無事成功しました。話はこれで終わりではありませんでした。

 後日我々が少しびっくりしたニュースが米国から飛んできました。NASAは、ピンを発見した品質管理チームをワシントンDCにあるNASA本部に招待し表彰したのです。

 この出来事以来、NASAの様子を注意深く観察するようになりました。NASAは、どこの会議でも審査会でも不具合や課題の解決に尽力したチームを、名前を挙げて褒めていました。褒める文化と叱る文化の違いをまざまざ見た思いでした。

以上

参考資料 (1) 宇宙開発事業団プレスリリース、平成12年10月11日

ページトップに戻る