図書紹介
先号   次号

日本が売られる
(堤 未果著、(株)幻冬舎、2018年10月5日発行、第1刷、291ページ、860円+税)

デニマルさん : 1月号

毎年、年末になると年間ベストセラー本のランキングが発表される。2018年の総合部門では「漫画 君たちはどう生きるか(吉野源三郎著、羽賀翔一画)」、ビジネス部門では、「大人の語彙力ノート(齊藤孝著)」が第1位であった(日販調べ)。このコーナーでは、ベストセラーも含めて色々な書籍の話題を追っている関係で、この発表を注目している。2018年は、総合で「君たちはどう生きるか(吉野源三郎著)」(3月号)と「おらおらひとりいぐも(若竹千佐子著)」(4月号)、ビジネス部門で「1分で話せ(伊藤羊一著)」(11月号)、「AI vs.教科書が読めない子どもたち(新井紀子著)」(10月号)、「SHOU DOG 靴にすべてを(フェル・ナイト著、大田黒奉之訳)」(7月号)がランクアップされた。書名の後の()は、ここで紹介した年月で、少し話題提供に寄与したかな。筆者は自分が読んだ本の中から、ベストセラーだけでなく話題性のある良書を紹介しようと心掛けている。だからフィクション、ノンフィクションに限定せず、大人としての読書が楽しめる様な本を追い求めている。この話題の本の紹介は20年以上も続けているが、ライフワークになりつつある。これからも読書を楽しみながら、いい本に出会える旅を続けたい。さて今回紹介する本は、アマゾン売れ筋ランキングでも上位(2018年12月下旬)にあり、本屋の店頭にも高く平置きされている。それと題名が「日本が売られる」と人目を惹くネーミングで、本のオビに「日本で今、起きている、とんでもないこと」とある。著者の「ルポ、貧困大国アメリカ」(岩波新書)は2009年10月号で紹介したことを思い出した。前置きは、その位にして中味にチョット触れると、まえがきに「いつの間にかどんどん売られる日本!知らぬ間に変えられたものを一つずつ拾い上げ全体像を現す、(途中略)私たち日本人にとって最大の危機を知るために」と書いてある。本書が指摘している内容は、現在日本が直面している重要な問題ばかりである。これらの問題を解決するには、政府や役所に任せるだけなく、多くの国民が注目すべきと著者は訴えている。しかし、その問題の捉え方が“金儲け主義への反発”的に感じられるが、日本の現在と未来を考える起点となり、別な視点を深める本でもある。

日本が売られる(何が売られる)      ――日本人の資産や未来?――
著者は、日本人の資産や未来も売られている実情を列記している。資産面では、水や土地やタネやミツバチ等々の10種類。未来面では、労働者から仕事から学校等々の8種類について詳細に調べて書いている。中でも水道法の改正や、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法は、今国会で法案が可決されたばかりのホットな内容である。さて一つの事例として「水が売られる」と、如何なる問題が起きるかを追っている。世界的に今や水は石油に次ぐビジネス資源である。これを公的管理から民営化し、国際的なジネス可能な分野にする。経済面だけなく安全面や災害時対応等々の問題や不安が山積している。

日本が売られる(なぜ売られる)       ――グローバル化の潮流か?――
この本では、先に述べた日本の資産が売られている事例と、その問題点を多面的に書いている。だが、なぜ売られているかの理由が書かれていない。というか、複雑に政治と経済と技術等々がグローバル化して、金儲け主義の方向へ向かっているのか。特に、農業における作物の種子(タネ)と農薬が遺伝子組み換え技術と一体化して、外見からは殆ど分からない仕組みとなって、農産物が消費者に渡っている。害虫に強いタネと農薬が裏で繋がっている構図は、信じられない現実である。消費者や利用者の安全面を誰が責任を持って担保するのか。そうした制度やルールを明確化し、食や生活の安全を確保して貰いたい。

日本が売られる(外国の事例を見る)      ――止められるのか?――
著者は、現在の日本が売られている状態を止める方策の事例も書いている。それらの事例は、イタリアやマレーシア等の6カ国から調べている。特に、先の「遺伝子組み換え種子」から自国を守るべく立ち上ったロシアを紹介している。3年前に、2020年までに食料自給率100%を達成すると議会で決議宣言している。それは国民に十分な食を供給し、健康的で質が高く環境に優しい食べ物を生産するものだという。具体的には、「ハイブリット種子の開発」を明確化して、安全性に疑問がある遺伝子組み換え種子に頼らず、ロシアの土地や風土に合った種子を独自開発すると書いている。時間が掛かるが、国民の安全・安心が優先されている。著者は、あとがきに「100年先も皆が健やかで幸福に暮らせることに価値を置いた『協同組合』の考えを求めたい」と、農業、漁業、林業に医療、福祉や教育に自治体関係者の取材から教えて貰った事と、未来を選ぶ自由を決して手放さないと結んでいる。

ページトップに戻る