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学びを活かす力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 先日、北陸先端科学技術大学院大学)JAIST)が主催するシンポジウムで話を聞いた。人生100年時代に生きる我々にとって、好奇心を持って学び続けることの大事さが増している、というメッセージだった。「学び」は私自身にとっても、大事なテーマで、特にここ半年の間に、重要性を増したと感じている。企業で人材育成や組織を元気にする仕事に関わったり、社外で教えたりしていることに加えて、定期的にコーチングを実施する相手ができたことと、自分自身が新たな環境で学んでいることが要因だ。
 コーチングは、外部のイベントで知り合った30代の男性に対して実施している。彼は学びに熱心な人で、MBAも取得している。営業の仕事をしており、最近マネジャーになった人だ。元々は英語指導中心+一部メンタリングという話だったのだが、実際に始めてみると、彼のマネジャーとしての悩みに向き合うコーチングが主になっている。私自身ビジネスコーチングという手法を学んだし、研修のファシリテーターなどをする中で、質問力を磨いてきたつもりではあるが、彼とのセッションは、毎回チャレンジングだ。教科書通りにはなかなかいかず、セッションが終わった後、「今日は私から話しすぎたな、、、」と反省することもよくある。よく、「アウトプットしてみると、学びが深まる」と言うが、それを毎回実感している。それでも嬉しいことに、彼自身、私とのセッションを高く評価してくれている。それは、彼自身の学ぶ力と、それを活かす力が極めて優れているからだと思う。
 最初に取り組んだのは、チームビルディングだった。「自分が考えたチームのビジョンとミッションと、それに基づく自分が望む仕事のやり方をメンバーに伝えたい」と言った彼に、私は質問した。「新任上司から一方的に伝えられたビジョンとミッションに、どれぐらいメンバーの心が動くのか?」彼はその観点から考えたことがなかったらしく、気づきがあったようだ。心を動かすための方法として、私の経験から、「最初時間はかかるが、まずは自分がどんな人なのかを知ってもらい、メンバーについても知ること、それから対話を通じてビジョンとミッションを自分事として捉えてもらうような工夫をすること」が大事だと伝えた。そのための手法として、エグゼキュティブ・コーチのマーシャル・ゴールドスミス博士が考えた「成功する人の20の悪癖」と「ストレングスファインダー」を紹介した。数週間後、彼は報告してくれた。「教えてもらったツール、2つとも使ってみました。関係性が少し良くなったように思います!」そしてチームビルディングの際に活用した資料の一部として、彼が考える各人の強みを言語化してスライドに掲載したページを見せてくれた。そこまで時間をかけてくれる上司がいたら、私だったら、「この人についていきたい!」と思うだろう。
 彼の学びに関する強み。それは、アドバイスや他者の知恵を素直に受け入れること、それをすぐ職場でトライしてみること、その結果を自分なりに分析し共有してフィードバックをもらっていること、そして、それを活かした次のトライアルをしていることだ。これは、コルブが唱えた「経験学習」であり、「学びを活かす」サイクルだ。彼のおかげで、私もコーチングに関して、このサイクルを回すことができている。そして、彼に更に良いアウトプットを出してもらいたくて、コーチングに関する学びを深めている。
 これ以外で私が学んでいること。それは、「ラーニング・トランスファー」と呼ばれるものだ。12名程の仲間と共に、Brinkerhoff Certification - for High Performance Learning Journeys®)ハイパフォーマンス・ラーニングの旅のためのブリンカーホフの認定)を目指している。いかに学びを職場でのパフォーマンスを高めるか、をテーマにしたもので、そのコンセプトを実際に数か月間かけて、ハイパフォーマンス・ラーニングの旅を通じて学ぶ、というものだ。3時間程の事前学習⇒バーチャルセッションを4回繰り返す構成になっている。事前学習は、最初は知識の獲得など簡単なものから始め、徐々に難しくなっていく。ケーススタディなどした後、最終的には、実務に密接に関連するものを扱う。バーチャルセッションは、毎回2.5時間。最近のシステムは進んでいて、バーチャルでグループに分かれてディスカッションもできるようになっている。会ったこともない国籍もバラバラな人達といきなり英語でディスカッションをするので、ハードルは高い。自ら手をあげて、私が作成した例を皆に説明し質問に答えることもやった。プレゼンテーション研修の講師として、簡潔に伝えることの重要性を私自身説いているにも関わらず、質問に答えようとすると、まどろっこしい回答になっている自分に気づき愕然とした。まだまだ学びが必要だ。
 皆さんは学びを活かすためにどんな工夫をしていますか?

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