PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (98) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :12月号

 前月号ではPMの基本となる自己規律そしてプロジェクトを取り巻く環境変化に対応して行くための認知力について話をしてきました。

 自己規律や認知力も実践力の一部であるが、この特性は何もPMにのみ必要というわけでなくすべての人達に必要な汎用的資質です。
 特に認知力はビジネス環境の変化が激しい時代に物事を現状維持的発想からの脱皮に必要な企業管理職や経営者にも必要な共通の思考パターンです。

 今月号ではPMがプロジェクト実行に必須として持っていなければならない実践力について話をします。

 PMはリーダとしてプロジェクトを進める過程で多くの障害にぶつかります。
 PMはプロジェクトにかかわるステークホルダーの信頼を得ることが大事です。その中で与えられた使命を的確に果たし、プロジェクトを進めるには経験や知識はもちろんであるが、それ以上に大事なリーダとしての特性といったものが重要となります。

 今月号はPMを含む世のリーダと称される人達がどのような行動パターンを取って多様なリソースを利用して、与えられた使命を的確に達成させてきたかを考えてみたいと思います。
 この行動パターンは行動特性とかコンピテンシー、そして実践力と言われています。しかし、PMを含むリーダに必要な行動パターンは本や研修から学ぶようなものでなく、その人の生まれつきに持った資質に左右されるような気がします。
 そうでない場合は、先輩の後姿を見ながら自分から積極的に先輩のやり方を盗み、経験を積んでいくといった方法しかないと思います。

 それではどうしたら良いのか、また何のためにこの場でPMのあるべき姿の話をするのかといった疑問を読者は持つかもしれません。

 その疑問を解くために企業のPM経験者の有志が集まり数年にわたって議論しました。その結果以下のような能力の発揮での違いが顕著にみられるということでした。

コミュニケーティング能力
リーダーとしての能力
マネージング能力
効果的対応能力

 まず、その一つとしてコミュニケーティングといったものが大事です。
 これはだれも反対しないと思います。
 コミュニケーティングには①コミュニケーションと②ネゴシエーションの2種類があります。
 昨今はEメールやLINEなどで多くの若者たちがコミュニケーションをとっていますがここでいうコミュニケーションはそれだけでなくいろいろな種類があります。

①コミュニケーション
 まず、コミュニケーションの目的には、プロジェクトやビジネス活動における人対人の間でのビジネスコミュニケーションや集団や雰囲気に影響して作られるコミュニケーションクライメートに分けられる。

 人対人のコミュニケーションには対面や電話での会話などがあるが、昨今のIT技術の進展に伴うコミュニケーションツールとしてのメールやLINEなどがあります。
 最近では後者の機械的なコミュニケーションが多いようです。この場合は、便利さもあるが多くの行き違いが発生し、問題となるケースも多いようです。
 その点、人対人によるコミュニケーションは円満に良い雰囲気を醸し出し、組織活動を円滑にさせるコミュニケーションクライメートが醸し出されます。
 特にPMは多様な人材からなるプロジェクトメンバーと仕事を一緒にしていくためには、このような状況を作り出すための努力を惜しんではいけないと考えます。

 このように対人コミュニケーションはPMや組織リーダの最も重要な役割と考えます。

 なお、コミュニケーションには以下のように3つの種類があります。

コミュニケーションの種類

 それぞれは目的によって使い分けをしますが、文書によるコミュニケーションには外部コミュニケーションとして、例えば対外に提出するような提案書、契約書、各種仕様書、手紙そして各種記録等々があります。
 しかし、サインや印鑑のないコミュニケーションは業務上では正式な書類とは認められないのでメールやLINEそして最近は使用されないがテレックスなどはこの範疇となるので注意を要します。

 その一方の内部コミュニケーションとしてはプロジェクトメンバーや関連組織との会議や内部文書、会議そしてプロジェクト計画、報告書そして言語によるコミュニケーションの各種確認(証拠)等々に使用されるものが内部の文書コミュニケーションです。
 いずれの場合でも「言った、言わない」のことのないようにすべてのプロジェクト行動においては文書に残すことが重要です。
 このことは国際的品質標準のISO9001(記録の文書化)にも述べられているものです。
 言語コミュニケーションはすでに述べた通りですが、人対人のコミュニケーションには非言語によるコミュニケーションがあります。

 これは相手のことばだけではなくそこから感じ読み取る印象や感覚であり文化、行動、態度などに基づくコミュニケーションでありコンテキスト(Context)という概念で定義されている。
 この非言語によるコミュニケーションは必ずしもすべての人に通じるものではなく、一般的に欧米系の人にはあまり期待しないほうが良いと思います。

②ネゴシエーション
 この能力はあらゆる場面においてPMが遭遇するものであり、自分の立ち位置によりいろいろ異なった目的で行われます。例えば、相互理解、違いの解決、取引での有利な展開、問題の解決、上司との面談などがあります。
 いずれの場合でも自分に有利なように物事を展開させるためのいわゆる交渉能力であります。
 よく、交渉は相手の利害を損なわないようにWin-Winの関係作りが理想的なものとよく言われていますが、なかなかそのように物事を進められることはないように思います。
 交渉に勝ったとか負けたとかいう言葉をよく聞きますが、これを考えるとWin-Win で交渉が成立するといったことは考えられないように思います。結局はどちらかが妥協して物事をうまく収めていくといったことが正解のような気がします。
 いずれにしてもネゴシエーションにも適切なコミュニケーションが重要となり、理路整然と自分の主張を行うことができると同時に相手の意見や考えを理解するといったことが必要と考えます。
 しかし、ネゴシエーションは交渉の場や相手の雰囲気により千差万別であり、正直に自分の考えを出し、性善説に立っての交渉を行うとあまり良い結果にはなりません。その理由は相手にスキを与えるといったことにもなるからです。
 時と場合によっては相手をよく見て、相手に揺さぶりをかけたり、時間稼ぎをしたり、交渉を打ち切るふりをする等々のネゴシエーションテクニックを使うこともあります。
 いずれにしても交渉事は最後にはまとめなければならないし、相手に気まずさ与え、その後の実行の過程で難しい状況を作らないように交渉を行う必要があります。
 PMは多くのステークホルダーの利害調整といった立場に立たされることが多いと考えると常に上記のような状況に立たされます。
 よって、このネゴシエーションがプロジェクトの成否を決める重要な実践力と言ってよいでしょう。
 すなわちPMはプロジェクト遂行では常に以下のようなコミュニケーティング行動を取ることが必要と考えます。

自分を知り、他人の考えを理解し、場の状況を分析し、共通の目標を見出すことのできるように対応をする。

適切なコミュニケーション能力を持ち相手を納得させるネゴシエーションテクニックを持ち、その結果でも良好な関係を維持し、スムーズなプロジェクト運営ができる。

普段からの良好な関係を築くことが大事であるが、交渉時には対立関係になるのでまずはお互いにそれぞれの言い分を十分時間をかけ、吐き出させ、その場で結論が出なければ検討する場や時間を与え、お互い納得できる結果を出せるようにする。

 以上、コミュニケーティングについて話をしてきたが、なかなか経験や知識だけでは習得できるものではなく、やはりそれなりの資質を持った人がプロフェショナルの指導を仰ぐことで習得していくことになるように思います。

今月はここまでとし、来月はリーダとしての能力についての話となります。

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