PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (97) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 前月号では、PMはゼロベース思考で何事にもたじろがないで挑戦する気持ちで行動する自己規律といった実践力が基本となると説明しました。

 自己規律には、責任感、誠実性、多様性、公正性そして人間として最も重要な倫理観などがあります。

 責任感は自分に与えられた仕事や役割、達成すべきゴールに向けて強い使命感をもって最後までやり遂げるといったものです。別の言い方で言えば自ら挑戦心をもって、どのようなプロジェクトでも最後まで逃げることなく、自分の経験、知識そしてアイデアを駆使してやり遂げるということです。

 勿論、「言うは易し」であり、プロジェクト実行中には各種の問題やトラブルも発生し、自分の業務遂行能力だけでは不可能な状況が発生することは必ずあります。
 このような場合でもあきらめずに与えられた使命を達成する強い意志と願望をもって行動することができていなければなりません。

 個人の能力には限界があり、各関係者の協力や情報収集に関する手段を持っていなければなりません。
 絶対に独りよがりにならず、常に「わからないことは分からない」といった素直さが他人からの共感を呼び、いろいろな人が助けに来てくれます。

 そのためには人間として常に公正、誠実であり、PMとして「この人のためには」といった尊敬の念を持たれている必要があります。
 PMに限らず会社を含むあらゆる組織において人は偉くなればなるほど権限の幅が広くなります。
 特に、プロジェクトを主導するPMは調達、検査、そして各業務の段階においての誘惑が必ず発生してきますので、公正と誠実が必要なのです。
 このようにPMとしての責任を果たすためには、その人から醸し出される誠実性からくる信頼感や、公正なものの見方によって集まる協力者や同調者の存在が必要となるのです。
 勿論、PMも聖人君主ではありません。やはりそこには清濁併せ呑むといったものも必要になるかもしれません。

 誠実性と倫理観は善悪、清濁の判断の時、あらゆる事象や場面でPMとして、自己の意識や感情を抑え、社会の基準である規律や法律を守ることが最も大事な基本特性と言えます。

 PMとしての、最後に重要な特性は多様性である。
 プロジェクトは非日常的な業務であり、突然にこれまでとは異なった新しい使命が課された場合、あなたはどうしますか?
 この新しい使命はこれまでとは全く異なっていて同じ組織の人たちだけでは実現できない仕事であり、これまでとは異なった発想で行わなければならない仕事です。
 この時PMとして考えるのは:
これまでやったことがないと抵抗する
違いを同化させる
適応していく
違いを生かす

 上記の①は普通のPMとして最初の反応であり、②及び③はこれまでとの違いを認め、いかに現状を把握分析してプロジェクトを実行するかを考え、そして④は③の結果としてこれまでとの違いを発見し、問題分析して何をどうしたら良いかを決めることのできる実践力のあるPMと考えられる。

 すなわち、物事をゼロベースで発想し、多様な発想で使命に順応できる人材や組織などの各種リソースの調達を行い、使命に見合った組織体制とプロジェクト実行計画を立てます。
 また、使命には海外プロジェクトなども当然課されることになるが人種、国籍、民族、宗教そしてビジネス習慣の違いも乗り越えた行動のできる多様性への尊重といったものも必要になります。

 これまで述べてきた、自己規律はプロフェショナルPMの基本的な資質であり、実際のプロジェクトにおいてこれまで述べてきた行動がとれない人は、いかに頭がよく、知識が豊富でも人の上に立って仕事をすることができません。

 なお、PMが持っていなければならない特性には多くの種類があり、それぞれの特性が複合して真のリーダとしての能力が発揮されることになります。
 次に述べるのは上記の②から④の手順に示すような行動パターンであり、PMにとって非常に重要な特性となります。
 この特性もPM実践力の1つで「認知力」と言います。

 認知力はプロジェクト使命に不確定要素が多くあり、何が起こるかわからないリスクや予測不能なものがあるような場合に有効な思考方法です。
 一般的に、これまでのプロジェクトは既知の要件を基に計画を立てそこに示される目標を必要なリソースを配置し、実行していくことでした。
 しかし、昨今のプロジェクトを取り囲む環境には厳しいものがあり、既知の要件を設定することが難しい状況となってきています。
 このような状況の中、プロジェクトに課せられた期待を実現するためにはそれなりに複雑な問題を伴うことがあります。すなわち多義的で曖昧な概念や思い、すなわち何が起こるかわからないリスクや予測不能な対象を具体化し、プロジェクト化していくといったことが必要となってきている。
 この場合、これまでのプロジェクトマネジメントの範疇から外れた不確定な条件下でのプロジェクト業務の実行ということになり、「何を、どうしたら」良いかわからないといった現実に遭遇することになります。

 このような場合には様々な事象を捉える際には戦略的視点にて、与えられた使命の生まれた背景や置かれている環境そしてステークホルダーの期待を踏まえて使命の全体像を把握し何をすべきかを常に認識し、その手段として情報収集などを行います。
 そしてその情報から使命が求めるところの状況を分析・評価し、求める解は何かを見つけるといった問題分析を行います。

 このようなプロジェクトに与えられた不確定な使命に順応して考える思考方法にはアダプティブ思考があります。
 この思考方法には2種類ありますが、その一つがクリエーティブ思考でありもう一つがロジカル思考です。
 もう少し詳しく示すと下記のようになります。

アダプティブ思考

 クリエーティブ思考は創造的な思考であり、どちらかというと何をどうしたら良いかわからないような場合アイデアや創造からそこにある問題を発見し「このような目的で~のようにしたい」といった要求の見える化をする思考であり、ロジカル思考のベースとなるものと考えてもよいと思います。
 ロジカル思考ではまだ不確定要素を持つプロジェクトの目的等の精査を情報収集により調査し、状況の分析を行い、そこで挙げられた感心事を類似する問題や疑問点をまとめ、その結果を優先順位ごとに整理します。
 整理した結果を「何でそう言えるのか?その意義は?」「何のために?」と何度でも確認し、批判的な質問の原因をつぶし、本検討の目的を想定し、目的達成のための仮説的課題抽出を行う。そして、組織または決定者の視点から見ての仮説的課題と現実のギャップの分析を行う。
 その後、課題の整理を行いそれぞれの課題に示される内容をベースに具体的プロジェクト使命としていく。

 このように、与えられたプロジェクト条件によりクリエーティブ思考から始めるかまたはロジカル思考から始めるかはその状況によって判断すればよいと思います。

 以上に示す一連の行動が認知力の行動パターンであるが、この方法はすでにP2Mのスキームモデルで説明されているので詳細はそちらにゆだねるとします。

 いずれにしても今後のPMには実践力は必須のものとなり、特にIoTやAI等の業務をPMとして担当する人には必須の条件となります。
 今後は顧客に対して提案型のプロジェクトが主体となることが十分予測されるので、ここに示す思考方法は必須となります。
 読者の中にはアダプティブ思考に示される行動はPMの仕事ではなくコンサルタントやアーキテクトの仕事と思っている人も多いと思います。しかし昨今のプロジェクトを取り巻く環境を考えるとそのようなことを言っているような状況ではないような気がします。

 今月はこの辺にて終了します。ここまでPMの基本となる自己規律そしてプロジェクトを取り巻く環境変化に対応して行くための認知力について話してきました。
 来月号からはPMがプロジェクト実行に必須として持っていなければならない常識的実践力について話をします。

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