PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (96) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 前月号ではPMへの必要なアドバイスとプロジェクト初期にやらなければならないことをPMと共にやってきました。
 そしてチーム全員に対してもPMに協力していくようにも話をしました。

 このようにして当面の問題は解決したつもりでしたが、筆者が現場を離れてから2か月ほどしてプロジェクトのメンバーから電話連絡が入りました。

 この時期はすでに業者も決まり建設工事が開始されているはずでしたが、状況は芳しいものではなく初期の工程からずれて全く工事が進んでいないとの報告でした。

 筆者としてはすでに現場のPMにはプロジェクト遂行に必要な対策は詳しく説明しておいたので、そのようなことはないはずと「PMと相談して仕事を進めていくように」とあまり真剣に取り合わないでいました。

 それから1か月ほどしてPMに電話で連絡を取りました。その時、彼は現場責任者のマネジャ(ここではCMと称しておきます)との関係をいろいろと話していました。その時、筆者はどうもこのCMとうまくいってないような感じを受けました。
 一方、工事の進捗を聞いてみるとPMは「工事の進捗の責任はCMにあるので関知していません」という話でした。
 「エーーー!!」と期待もしない返事を聞いて驚くばかりで急いで現場に行くことにしました。

 それにも関わらず、現場での担当者の話では、現場に技術関係のトラブルや問題が発生した時、PMがCMの頭ごなしに設計担当者と直接話をして、現場に連絡するといったことがしばしばあったとのことでした。そのためCMが全く知らないところで仕事が進んでいたようです。
 このため、CMとの関係がギクシャクし、現場が混乱し、工事進捗にも問題が発生していたようです。
 一般的に、現場が始まったら設計や技術関係は現場設計チームを編成し、このチームはCMの配下に入り、現場の技術に関する問題はここで全部処理しなければなりません。

 一般的には現場側の作業が佳境に入ったら、現場マネジメントはすべてCMに任せ、PMは現場を離れて、プロジェクト全体にかかわる課題管理、変更管理等を含み、顧客対応に専念することでよいと思います。
 このプロジェクトの場合、CMの話を聞くと彼はかなりしっかりした考えを持っていました。
 一方、PMは現場でのマネジメントにはあまり経験がなかったようで、その立場として自分のやるべき仕事が何であるか?分からなくなっていたようです。
 筆者は、PM、CMそして現場関係者の話を聞きよく状況を見極め、分析した結果を本社に帰り社長に報告しました。
 社長からは「具体的対応策はどうするのか?」と聞かれたので、筆者の思いとして「現場はすでに工事が主体となっているので現場の権限はCMに与え、PMは本社に帰任して、今回のプロジェクトの経験を無駄にしないような処遇をしたほうが良いでしょう。」と答えました。
 「しかし、当面のこのプロジェクト全体の指揮が必要となるが、誰がやるのか?また考えられる人がいるのですか?」と質問されたので「言い出しっぺの筆者が責任を取ります」と答えました。

 結局その方向で決まり、再度筆者は現場に行き、社長の話を皆に伝えました。この時、筆者はPMと業務の引継ぎをしながらいろいろ話をしました。彼は最後までこのプロジェクトをやることができなかったことを残念に思っていたようです。

 しかし、彼はプロジェクトのマネジメントは理屈だけではなく、経験や将来を見抜く洞察力やリーダシップといった率先垂範での部下との協調が非常に重要だということに気が付いたと言っていました。
 また、ルーチン業務での管理職としてのマネジメントと違ったものであることにも気づかされたと言っていました。

 その後、彼はやはり通常のルーチンの業務に戻りましたが、今回のプロジェクトでの経験をその業務に生かしていくことになると思います。
 筆者自身もこのプロジェクトを通して、「会社でのルーチン業務でのマネジメントができても、プロジェクト業務になるとこのような結果になる」ということがわかりました。

 これからはどの業界でもプロジェクト的な仕事の割合が増えると考えられます。
 現在の会社員や職員の仕事は自社、または自部門だけで完結し、いつも一緒に仕事をしている上司やメンバーなど決まった相手だけのやり取りだけであり、業務手段や手順もはっきりしている仕事がほとんどです。

 しかし、昨今のビジネスを取り巻く環境は
デジタル化
グローバル化
カスタマイズ化
仕事の効率化

 などが求められています。
 そのため、このような環境下で発生する非定常業務はこれまでのルーチン業務のやり方では対応できない時代となっています。

 このような環境下において発生する非定常業務すなわちプロジェクト業務は自社の能力だけで処理することが難しくなります。
 そのため、社内だけでなくほかの部門からスキルやノウハウを持った人材を横横断的に集め新たなタスクチームを作り、場合によっては外部の企業やプロフェショナルと手を組む必要が出てきます。
 そして、企業が目的とする使命または顧客のニーズを聞き、相手が抱える問題なども解決しながら、与えられた目標を達成するといったプロジェクト的業務が求められます。

 この種の仕事のやり方は分野を問わず利用出来る手法であり、まさに上記の①から④までの要求を満足するものと考えます。
 しかし、中には「私はIT 関連の分野でありほかの分野はできません」とか「石油プラントの建設プロジェクトしかやったことがないのでIT関連のプロジェクトはできない」などと言っている人もいます。プロジェクト業務をやってきた人でもこのような考えを持っている人が非常に多いです。

 筆者の持論はプロジェクトマネジメントは分野に関係なく適応することができるということです。
 何故、多くのプロジェクト経験者が自分の分野にこだわってほかの分野に手を出さないのか?
 それは自分のこれまで経験した技術または業務知識と経験の分野がそこに固定されているからで、他の分野は知らないし、わからないといったことが原因と思います。

 このような人たちはプロジェクトマネジメントの本質を知らないのだと思います。
 プロジェクトマネジメントの代表はPMであり、上記のようなことを言っているようではまだ一流とは言えません。
 PMは「コミュニケーションの調整役」であり、プロジェクトに関係するステークホルダー間をうまくまとめ、良好なコミュニケーションクライメートを醸成し、全体総和でプロジェクト目的を達成することです。
 「そう理想的なことを言っても技術や経験のない分野では無理です」という人もいるでしょう。
 しかし、そのようなプロジェクトにPMとして指名されたらどうするか?
 勿論、自分の担当する業務または技術分野の他にプロジェクトマネジメントの知識や経験が基本として必要である。
 しかし、今のPMの多くは技術知識や業務知識がこれまでと異なった分野の技術や業務分野を含むプロジェクトには二の足を踏む人が多い。
 これでは先に述べた①から④のプロジェクトを取り巻く環境変化によって求められる新たな新規事業や業務には対応できません。

 確かに自分の分野の知識や経験がないと二の足を踏むのは確かにそのとおりです。ここで筆者の経験ですが、このような場合の方法には初歩的ではあるが2つあります。
その一つは自分の足りない知識や経験の補充です。
その二つ目はチーム編成時でのその分野に長けた人材の投入です。

 一つ目の方法は本を読んだり専門家に話を聞いたりすることでプロジェクトに必要な最低限の知識を習得することです。
 しかし、何の情報もなく全くのゼロベースで専門家の話を聞いても「自分にとって何が重要な情報なのか?」の見極めができません。

 そこで、まずこのプロジェクトをやるにあたって自分にはどのようなことが必要なのかを考えます。
 あまり詳しいことを知る必要はなくこのプロジェクトに役に立つ基本的な知識や経験を手に入れることで十分です。
 知識については関係書物を本屋に行って探し、自分の知りたい内容の関係する書物を片端から手に取って、関係する知識内容のある項目を探します。そして、その分野で使用されている用語の意味、基本的な技術または手順などの知識を仕入れ、プロジェクトの内容が理解できるようになるまで勉強します。

 経験については基本的なプロジェクトに関係する知識がわかってくればどのような専門家を自分のプロジェクトチームに入れればよいかが分かってきます。その時は自社や自部門の人材に限らず外部からも採用する必要があります。

 仕事を立ち上げる場合のステップは、日々継続的に仕事を同じ手順と経験そして人材を含む各種リソースに基づき行っているようなルーチン業務と大きく違うところです。
 プロジェクト業務の場合は過去にやったことがない仕事で具体的な知識や手段がない、他の部門の人、あるいは外部の企業または個人と共同で仕事をする必要があります。
 このようにプロジェクトを任せられるPMにはゼロベース思考で物事を指向できる実践力と何事にもたじろがない挑戦する気持ちを持っている自己規律といったものが必要となります。
 この自己規律がPMの実践力の基本となります。

 来月号はこの自己規律について話をします。

ページトップに戻る