図書紹介
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1分で話せ
(伊藤羊一著、SBクリエイティブ(株)、2018年6月14日発行、第7刷、239ページ、 1,400円+税)

デニマルさん : 11月号

今回紹介の本は、今年3月に出版されアマゾンランキングで上位を占めていた。副題ではないがサブタイトル的に「世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術」と書かれてある。著者は、ソフトバンクの孫社長の後継者を育成する「ソフトバンクアカデミア」を受験した。その結果、孫社長から認められるプレゼンテーションをした経緯がある。その経験等々を生かして、この本を書いたという。著者の経歴は、大学卒業後日本興業銀行等を経て、現在Yahoo!アカデミア学長で株式会社ウェイウェイ代表取締役を務め、グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つ他、多くの大手企業における事業創造プログラムでメンターやアドバイザーをしている。いわゆる経営者であると同時に、プレゼンテータとして活躍している。今回の本には、プレゼンテーションの重要性と基本的なポイントを多面的に学べるエッセンスが満載されている。非常に分かり易く参考になる本である。プレゼンテーションと言えば、2020東京オリンピック招致を果たした本をここで紹介した。それは「世界を動かすプレゼン力」(ニックル・バリー著、NHK出版、2014年5月号)であるが、それと対比して見ると基本的な部分は、大きく変わらない。しかし、こちらの著書は、「綿密な計画と大胆なキャスティング」を書いている。プレゼンテーションには、そのプレゼンテータを含めた全体の演出を考えている。今でも記憶に新しい「お・も・て・な・し」を女優に演じさせ、安部総理もキャスティングする舞台を企画・演出した。それに対して、今回紹介の著書は、自分がプレゼンテーションを企画・実施する場合を想定している。一般的には、多くのビジネスマンが顧客や社内向けにプレゼンテーションする場合は、自分自身か上司を含む職場の人間である。その意味でより身近な内容に纏められた本である。コミュニケーションスキルとして、プレゼンテーションに求められるものは、「聞いた顧客や相手が、納得して行動して貰える」ものである。この本は、多くの人に「参考になる、実践出来る」と評される内容であり、お薦めである。

コミュニケーションで大切なこと        ――聞き手は誰か?――
著者は「コミュニケーションで大切なことは、その結果を聞き手が決める」を常に念頭に置いてプレゼンを入念に企画・実施すると書いている。プレゼンで話した事が、聞き手に理解して貰ったとか賛同して貰ったと勝手に思い込んではいけないと強調する。聞き手が求める最終目的は何か、その目的を達成するに足る「主張」が明確になっているか。その「主張」を支える「根拠」はあるか。その「根拠」が複数あるか。更に、その「根拠」を実証する事例が幾つかあるか。それらを纏めたロジカルなストーリィに組み立てられているか。それぞれが『結論』に向けて1分間で話せる様に要約出来ることがポイントである。

1分間で伝える大切なこと           ――シンプルに話せるか?――
先の「ロジカルに考えたストーリィ」を幾つか事例を交えて1分間で話すには、それなりの充分な準備と訓練が必要である。著者は、その技術的な部分をカバーするために「イメージとして理解して貰う」プロセスを強調している。一つは、写真や絵や動画を使用してビジュアルから右脳に訴える。二つ目は、「例えば」を活用してイメージが具体化する方向に誘導する。最後は、「想像してみて下さい」と、話の主張と聞き手の理解を合わせる確認が必要と書いている。聞き手の右脳と左脳を一体化させるのだが、果たしてこれらを1分間で纏められるのか。これまでの話では「1分で話せ」の具体的な方法は、理解出来ない。

聞き手を納得させる大切なこと        ――結論をイメージ出来るか?――
著者は、今までの話の纏めとして、プレゼンの極意を披露している。それは話が相手に伝わらない4つケ―スを繰り返さないことだと力説する。一つ目は、「プロセスを話さないこと」で結論が複雑になるだけで、余計な時間が掛かる。結論だけを簡潔に話す。二つ目は、「気を遣い過ぎないこと」で、余計なことは言わず普通に話す。三つ目は、「自分の意見だけを言うこと」で、参考意見やマイナス意見等は割愛して、結論だけを話す。四つ目は、「笑いをとる必要も時間もない」と割り切って話をする。そして『不要な言葉を削る努力をする』ことで、プレゼンのリハ―サルを何回も繰り返して1分に納まるまで続ける。著者は事前練習を300回もやったと書いている。最後に最も大切なことが別にあると言う。この本を読んでプレゼンを実践する人が体得するものだが、これは読んでのお楽しみとしたい。

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