PM研究・研修部会
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ISO 21508 Earned Value Management

PM研究・研修部会 米澤 徹也:10月号

本年4月にISO 21508 Earned Value Management in Project and Programme Managementが発行された。PM研究・研修部会ではこの概要を解説するセミナーを8月31日に開催したので、その要約を下記に記す。

1. ISO 21500シリーズ
プロジェクト、プログラム及びポートフォリオのマネジメントに係る標準がISO 21500シリーズとして以下の通り発行されている。

番号 発行年(月) 名称
ISO 21500 2012年 プロジェクトマネジメントの手引
Guidance on project management
ISO 21503 2017年 プログラムマネジメントの手引
Project, programme and portfolio management -
Guidance on programme management
ISO 21504 2015年 ポートフォリオマネジメントの手引
Project, programme and portfolio management -
Guidance on portfolio management
ISO 21505 2017年 ガバナンスの手引
Project, programme and portfolio management -
Guidance on governance
ISO 21508 2018年4月 アーンドバリューマネジメント
Earned value management
in project, programme and portfolio management
ISO 21511 2018年5月 ワークブレークダウンストラクチャー
Work breakdown structure
for project, programme and portfolio management

このうちISO 21500「プロジェクトマネジメントの手引」については日本語版も発行されており、更にはこれはJIS化されJIS Q 21500「プロジェクトマネジメントの手引」として2018年3月に発行されている。

特徴的なことは、昨年までに発行されたISO 21500シリーズはプロジェクト、プログラム、ポートフォリオの各マネジメント及びガバナンスに対して、今年発行されたISO 21508とISO 21511はそれぞれアーンドバリューマネジメント(EVM)とワークブレークダウンストラクチャー(WBS)といった個別の手法がISO化されたことである。

2. ISO 21508
ISO 21508は、適用範囲や用語の定義等(第1章~第3章)を除いて、大きくは下記内容から構成されている。
EVM概要(第4章)
EVMプロセスステップ(第5章)
EVMシステムレビュー(第6章)
コストとスケジュールのパフォーマンス測定分析(付属書A)
Eスケジュール分析(アーンドスケジュール)(付属書B)
プロジェクトやプログラムのマネジメントプロセスとEVMとの統合(付属書C)

ISO 21508は、オーストラリアの規格(AS)や英国のプロジェクトマネジメント協会(APM:Association for Project Management)のEVMに関わる標準を参考文献としていることである。

( 1 ) EVM概要
ここではEVMの概要として次のようなことが記述されている。
EVMの目的と利点
プロジェクト/プログラムのコントロールと分析を目的とし、客観的な測定技法、マネジメントの意思決定、監視システムに有益である。
EVMシステムの指針
WBSで定義されたスコープやパフォーマンス測定ベースラインを含むベースラインを統合する。
EVM計画
統合されたプロジェクト/プログラム全体計画の俯瞰、計画からの差異の監視、パフォーマンス測定システム、客観的な進捗評価、資源の利用が可能になる。
EV測定とパフォーマンス尺度の利用
任意の時点でのプロジェクト/プログラムの状態を評価するためのパフォーマンス尺度を決定するために用いられる。

( 2 ) EVMプロセスステップ
EVMのプロセスステップが計画段階と実行段階に分けてそれぞれプロセスステップが示されている。
計画段階では、次の6つのステップがある。
ステップ1 : スコープの分解
ステップ2 : 責任の割り当て
ステップ3 : 作業スケジュールの設定
ステップ4 : 予算の時系列展開
ステップ5 : パフォーマンスの客観的測定法の割り当て
ステップ6 : パフォーマンス測定ベースライン(PMB)の設定
実行段階では次の5つのプロセスがある。
ステップ7 : 作業の認可と実行
ステップ8 : パフォーマンスデータの収集と報告
ステップ9 : パフォーマンスデータの分析
ステップ10 : マネジメントの取り組み
ステップ11 : ベースラインの維持

ISOという国際標準としては比較的細かくプロセスステップを規定していると思う。因みに、PMI®のEVM実務標準でも同様のプロセスが示されているが、両者を比較すると計画段階ではステップ数は同じで内容的にも類似であるが、実行段階はPMI®のEVM実務標準の方がステップ数は少なくなっている。

( 3 ) EVMシステムレビュー
EVMシステムが組織の要求事項を満足していること及び適用標準や組織の手順を遵守していることを確認するために、プロジェクトやプログラムのスポンサーが確立されたEVMシステムをレビューすることとされ、次の3つが挙げられている。
統合ベースラインレビュー(IBR)
パフォーマンス測定ベースライン(PMB)を評価するためのレビュー
デモンストレーションレビュー
EVMシステム全体のレビュー
サーベイランス
標準が維持されていることを確認するためのレビュー
APMのEVMハンドブックにはこれらEVMシステムレビューについて詳しい説明があり、特にIBRについてはAPMのIBR実施ガイドに更に詳述されている。

( 4 ) コストとスケジュールのパフォーマンス測定分析
ここではEVMの基本的な考え方が示されている。すなわち、PV、AC、EVの尺度(Metrics)を用いて、CV、SV、CPI、SPIといった現状の指標(Indicator)をどのように計算するか、そして将来の予測であるTCPIやEACをどのように求めるかがまとめられている。
EACには計算によって求める方法とプロジェクトマネジャーが見積る方法の2つが示されていて、特に計算によって求める方法をIEACとして区別している。IEACについてはPMI®のEVM実務標準でも同様に区別している。ここでIはIndependentの頭文字からきている。

( 5 ) アーンドスケジュール(ES:Earned Schedule) 付属書の扱いではあるがESが国際標準に記載されたということは大きな意義があると考える。
プロジェクトの終盤ではSVは0に近づく、「0への回帰(Reversion to Zero)」と言われている。SV=EV-PVで表されるが、スケジュールが遅れているという前提で、計画時の完了予定日を過ぎるとPVは一定(PV=BAC)になるので、これ以降はスケジュールが更に遅れようとも進捗がある限りはSVは0に近づき、完了時点でEV=BACになるのでSVは0になる。
通常のEVMではSV=0は予定通り、SV<0は遅れを示すが、この場合、プロジェクトがどんなに遅れても最終的にはSV=0になってしまい、SVが指標として用いることが適切ではないことになる。
一方、コスト差異であるCVではこのような問題は起こらない。CV=EV-ACで表されるが、プロジェクトが完了(EV=BAC)するまでに要するACはコスト超過が大きくなればなるほどマイナスの値が大きくなるからである。

このようなSVの問題を解決するために考えられたのがESである。SVにはなぜこのような問題が起きるかというと、それはSVをコストの軸で測っているからである。CVがコスト軸で測るなら、SVは時間軸で測ることによりCVと同様の考え方ができる。
ESの詳しい説明はここでは割愛する。

( 6 ) プロジェクトやプログラムのマネジメントプロセスとEVMとの統合
クリティカルパス、リスクマネジメント、クリティカルチェーン、ES、およびアジャイルなどのマネジメント手法やPMO、継続的改善、ガバナンスは、EVMと統合されるべきとしている。
PMOはEVMを用いて実務者が用いる標準やプロセスを提供している、継続的改善プロセスはEVMもその役割を担う、そしてプロジェクトやプログラムのガバナンスはEVMとの整合性が重要としている。

3. さいごに
あくまで私見ではあるがISO 21508を一読した感想は次のようなものである。
ISOがEVMという手法を敢えて国際標準にしたからであろうか、比較的詳細にまで踏み込んだ内容になっている。それは前述のとおりプロセスステップでありESである。
そのプロセスステップは計画段階と実行段階で合計11のステップと比較的細かいレベルで設定されていて、EVMをどのように適用するのかの理解の一助になる。
また、ESの概念は昨年9月に発行されたPMBOK®ガイド 第6版で第7章プロジェクト・コスト・マネジメントの「傾向と新たな実務慣行」で簡単に紹介されている。これに対しISO 21508では付属書の扱いではあるが、ある程度詳述されているので、今後実務への適用が広く普及する予兆かも知れない。

以上

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