投稿コーナー
先号   次号

多様な国籍の人達とのプロジェクトを成功させるコミュニケーション力 Part2

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 先月に引き続き、今月も、PMAJの8月例会での講演 “How to best communicate in a Global PJ”(副題:「多様な国籍の人達とのプロジェクトを成功させるコミュニケーション力」)の中から、内容を一部補足しながら紹介したい。
 多様な人達とコミュニケーションをする際に留意したい点の一つが、「使用する言葉の定義を明確にする」ということだ。言葉の定義の違いのわかりやすい例として、所属している組織、国による組織の構造や肩書きの違いがある。同じ会社であっても、ある国で使われているDivision(部門)やDepartment(部)という組織を指す表現が、他の国では使われていないことがある。そのために、グローバル共通に社員にアンケートを取ろうとする際などに、ある一つの国の組織だけを参考にして設問を作成すると、他の国の人はわからなくなることがある。肩書きも、組織の規模や意図などの理由で、異なることがある。対外的な役割を担っている人だと、その地位に重きを置くために、肩書をインフレすることもあり、同じ「部長」であっても、担っている役割や責務が大きく異なることもある。
 こういった「目に見える」違いは、比較的わかりやすい。一方、価値観に基づくものは、「目に見えない」だけに、すぐには理解しづらく、円滑なコミュニケーションを妨げたり、誤解を生みやすかったりする。同じ職場で一定期間一緒に仕事をしていると、ある言葉が意味することを暗黙知的に理解しやすくなるが、そうでない人達と仕事をする際には、要注意だ。ステレオタイプ的に言われるのが、「簡潔に話してください。」と言われて、長く話すインド人だ。恐らく環境や、教育的に、「自己主張する」ことが身についているからだろう。私がこれまで接したインド人の中には、そうではない方もいたが、そういう方は、所属組織の期待値に合わせて、話していたのかもしれない。日本人の中にも同様に、長く話す人がいる。私自身が取っている予防策として、可能な場合には、「3分以内に話してください。」や「3分程度で話してください。」などの「目安時間」を事前に伝えるようにしている。そう言っておくことで、予定時間より長く話している場合には、「予定時間を過ぎたので、他の方の意見も聞いてみましょう」などと、話を振ることができる。
 ASAP(As soon as possible=可能な限り早く)や urgent(至急)も、人により捉え方が異なる表現だ。かつては、私の基準=文字通り「至急」という意味合いで、私はコミュニケーションで使っていた。しかし、ある時から、それが意味するところが、人によって違うのだということを知り、「〆切期日」を伝えるようにした。それ以降、ストレスはぐんと減った。「〆切期日」までに来ない場合は、「〆切期日を過ぎているが、まだ返事をもらえていない」と書くことができる。ASAPやurgentの捉え方は、国民性だけでなく、組織文化や個性によっても異なるので、不要なトラブルを避けるためにも、「定義づけする」ことをお薦めしたい。
 自分が受信者になった時も、同様なことができると、効果的だ。新規に仕事を一緒にする場合、相手が使っている言葉が曖昧だと感じた場合は、質問するという手が使える。「至急ですね。具体的な〆切日時はありますか?」などと、確認するといった具合だ。以前アメリカ人も参加した会議で、誰かが「このシステムを使うのはeasy(簡単)」と発言した際、すかさず”Define easy.”(easyを定義してください)と言った人がいて、「なるほど!」と感心したことがあった。ITリテラシーが高い人にとっては、ごくごく簡単なことであっても、ITリテラシーが低い人にとっては、難しく感じることは、よくある。この場合は、実際にそのシステムを使う多様なユーザー目線に立って「簡単なのか否か」を判断する必要があった。
 以前オーストラリアに赴任した際に戸惑った表現がある。仕事の依頼に対して、笑顔と共に力強く返された”No worries!” (心配いらない)という言葉に安心しきっていたら、結果が期待に達しないということが何度かあった。「心配いらない、と言ったのに!」と最初は憤慨していたが、そのうちに、これは彼等の口癖のようなものだと気づいた。結果が期待に達していた人もいたが、そうでない人に対しては、アウトプットを出すまでの計画案の共有と進捗確認で、「心配いらない」状態に持っていくようにした。
 コミュニケーションは、本当に奥が深い。グローバル、そして、日本国内であっても、環境や価値観が異なる多様な人と接する場合には、コミュニケーションに、より配慮することが必要だ。今後、多様な人と接することは益々増える。これからも、言葉により敏感に、グローバルを含めたコミュニケーション力を磨いていきたい。

ページトップに戻る