今月のひとこと
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 社会人大学院 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :10月号

 PMAJ最大のイベントPMシンポジウムが終わってほっとする頃、気が付くと真っ赤な彼岸花(曼殊沙華)が咲いています。その妖艶な姿に不吉だとのイメージを持つ人も多いようです。幼い頃、河原一面に群生する真っ赤な花を見てドキドキしたことを覚えていますが、その姿を見るといまだに心が騒ぎます。やがて咲き始めるコスモス(秋桜)のはかなく優しく揺れる様を見れば、心静まるのでしょうか。

 今回のPMシンポジウムで基調講演をされた竹村彰通教授がデータサイエンス学部長をされている滋賀大学では、新たに大学院(データサイエンス研究科)を設け来年4月の入学者を募集しています。大学にデータサイエンス学部を開設して未だ2年であり、学部第1期の卒業を待たずに大学院を新設するのは社会人の入学を念頭に置いているためとのことです。竹村教授のお話では、データサイエンスは情報学と統計学の知識とともにデータから価値を引き出す応用分野の領域知識が必要となりますが、この面では企業等で活躍してきた社会人が圧倒的に優れているからだそうです。得意な分野を持つ社会人に統計学や情報学を身に着けてもらい、データサイエンティストとして育成することは、この分野の人材が海外に比べて極端に少ない日本にとっても望ましい事です。多くの社会人が応募されることを期待します。
 社会人大学院は様々な分野で開設されています。文科省等の資料によれば、10万人以上の社会人が学んでいるそうですが、大学院就学率を見ると海外とは比較ならない程低い水準にあります。社会人に限らず、日本では大学院に進んで修士・博士になる人の比率が低いのです。PMAJ関係者には比較的大学院出身の方が多く、社会人になって大学院に進まれた方も見かけます。記者自身は、仕事をするうえで必要な知識、例えばプロジェクトマネジメントについて資格試験等を目標にして学ぶということはありましたが、大学院に進んで何かを研究しなければならないと思ったことはありませんでした。
 読者の皆さんの会社・団体ではいかがでしょうか。社会人が大学院に進学しようとした場合、様々な制約があります。そもそも就業したままでの進学は難しいという企業が多いのではないでしょうか。夜間・週末だけの通学であれば、可能だという会社が多いようです。修士・博士が多い国がイノベーションも盛んだということではないのでしょうが、目の前の仕事に役立つかどうか分からないことに取組む人が少なかったことが、日本という国の長い停滞の一因になった可能性はあるかもしれません。
 滋賀大学のデータサイエンス大学院は滋賀県彦根市にあり、多くの企業所在地からは離れています。一定の時間数以上の授業出席が必要となるため、長期間職場を離れなければなりません。データサイエンティストの育成に意義を認めて社員を送り出す企業がどれだけあるか予測できませんが、経営者の英断に期待します。琵琶湖の畔で数か月間、仕事から離れて学生生活を送ることがどのような成果を生み出すか、見てみたいと思いませんか。

以上

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