理事長コーナー
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自由な行動とプロジェクト

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :9月号

 東京オリンピック開催予定の2020年、日本は戦後75年目を迎える。長い様でもあり短いようでもある。この四分の三世紀を経ようとしている現在、振り返ると家族に関する価値観は大きく変わった。男女平等の理念が当たり前となり、男女不平等事態が本当にあったのかと疑える程の変化である。家長という言葉が死語となり、父親の家族内主導権も揺らいでいる。個人の価値観は大きく変わったと云える。

 組織の価値観も同様に変化したであろうか。否定的な意見に接した。「日本型組織は、少数の異論を持つ人に暗黙のうちに多数意見と合わせるよう求める同調圧力が強い。」(作家・演出家鴻上尚史氏インタビュー *1 、以下「 」内は同記事)事例として、戦前で言えば、多くの若者を飛行機ごと敵艦に体当たりさせる特攻作戦を強いた軍隊の異常な統制はよく知られている。最近では、日大アメフト部の悪質なタックル事件があげられる。いずれも、上官・指導者は自発的にやったと言い、兵士・選手は指示だったと証言する。

 同氏は、上官・指導者と兵士・選手の見解の違いは、国民性から由来しているという。「つい忖度してしまう国民性なのです。」また、「日本の文化の奥底には村落共同体を守ろうとする意識があって、これを壊そうとするのは天災ぐらい。天災にあらがってもしょうがないと、与えられたものを受け入れ、現状を維持することが一番重要なんだという文化が根付いているのだと思います。」共同体を守るために忖度してしまうのであり、「自尊意識が低いこととセット」なのだという。

 「これに対抗する最も強力な武器は、『(自分はこれが)本当に好きだ』という気持ちを持ち続けることだ。」と同氏は続ける。すなわち自分の気持ちを尊重して、好きなことをやることであり、共同体のすべての構成員がこのように考え、行動することが重要だという。必然的に多様性を認めあうことになり、個々を尊重し、多様性を尊重し、異質を排斥してはいけないとなる。ところが、一人ひとりがこのように健全に思考し行動することが難しいのが現実である。

 各自の嗜好に従って行動している多様性ある大勢の人の集合体が「世間」である。「豊さ」と「幸福」の追求がその一般的な行動指針だ。プロジェクトは、共通の目標をもつメンバーがチーム組織に拘束されて行動をとる。そのチームの規律に従わなくてはならないが、その行動の全般は「世間」の良識によって覆われる。特攻をノーといい、悪質タックルをノーという「世間」の良識・価値観が自分を守る歯止めとなる。企業しかり、大学しかり、プロジェクトチームしかり、すべての目的を持った組織は然りである。規律による統制のない組織は弱く、競争環境では生き残れないといわれるが、個人が意思決定するのは、組織の論理と世間の良識とのバランス感覚による判断である。

 プロジェクト遂行は、チームメンバーが力を合わせることでプロジェクトの目標・目的の達成に向け邁進する。チーム員の自由な発想は、イノベーションを生み、プロジェクトの成果を向上させる可能性がある。自由で勝手な行動はご法度だが、組織の論理を無用に強制するようなことがあってはならない。リーダーとしてのプロジェクトマネジャーの力量が試される。

以 上

1* 朝日新聞@2018年8月23日朝刊 “オピニオン&フォーラム”

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