理事長コーナー
先号   次号

アジャイルに想う

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :8月号

 「アジャイル開発の道案内」を、2017年9月30日にPMAJは出版した。アジャイル開発に関しては、2013年の頃から協会内でもしばしば話題となっていた。それ以前は、アジャイル開発方法論の有力な一つであるScrum(スクラム)に関する講演や出版で広く知られている平鍋健児氏に、“PMシンポジウム”でご講演をお願いしていた。その頃からアジャイル開発に興味を示す会員が多い事がわかってきた。

 「プロジェクトの概念」を出版していた近代科学社から、2015年の初秋に、「アジャイル開発」に関する出版要請があった。早速、アジャイル開発を実践している日立製作所と富士通の両社に専門家をご紹介いただき、実情を詳しく伺うことにした。その過程で、出版計画へと進んだ。きっかけから出版まで、約1年の“アジャイル”な出版であった。当時、PMI®から出版された“PMBOK®ガイド 6版”でも、アジャイルに関する記述が織り込まれていた。誠にタイミングの良い出版であった。以下、「アジャイル開発の道案内」からポイントを拾ってみる。
 アジャイル技術が生まれた3要因は次のとおりである。
1 ) ソフトウェア事業環境の変化
2 ) 従来型のソフトウェア開発プロセスの限界
3 ) ソフトウェア技術の進歩
 1990年代には、大型のシステム開発が進められていた。開発対象が多角化し、開発規模も徐々に大型化することで、開発期間が最低でも2~3年におよぶシステムが増えた。ところが、開発期間長期化とともに外部環境が変わることで、当初のシステム要件も変化し、極端な例ではカットオフした矢先から改造計画が始まるシステムも増えた。また、実際のビジネスでのIT利活用は増え続けた。一方、並行して、SNS、ビックデータシステム、組込ソフトなどのIT高度利用が急速に進んでいた。実ビジネスでは、もっと早く動くソフトを入手し使いたい要請が強く出ていた。
 このような背景から、すぐ使えるソフトウェアの開発があちこちで乱立的に発生した。米国では、標準化への強い行動がとられた。ユタ州に関係者が集まり、「アジャイルソフトウェア開発宣言」を発表した。「顧客と協調し、対話を通し、変化に対応する、動くソフトウェアを提供する」ことを明記した、通称、「アジャイルマニフェスト」といわれる12原則である。この原則の公表後は、新たな方法論が続出している。開発スピードを上げる自動化ツールの活発な開発も重要な発展要因である。日本におけるアジャイル開発の方法論は、平鍋氏の精力的な活動により、スクラム(Scrum)が有名である。もう一つの雄であるXP(Extreme Programming)と合わせ、アジャイル開発の70~80%でこの2方法論が使われているという。

 アジャイル開発の特徴をまとめると、次の6つとなる。
顧客、チームメンバー間の少人数による直接対話
重要度の高い機能から優先的に開発
短期間繰返し開発、最小限度のドキュメントで動くソフトウェアに注力
開発期間は固定(2週間~3か月)、柔軟な開発項目数
開発対象を機能分割、その開発は固定期間内に完了
全作業を厳格管理、自動化ツールは高度活用

 変化の激しいビジネスを支援、あるいはビジネスそのモノにもなっているITの必要な機能を素早く作る手法は、時代にあった必須のツールで、急速に広まっている。“Agile Japan 2018”大会(2018年7月26日)に参加した。10回記念大会でもあり、500名を収容する会場は満席で、熱気にあふれていた。日本でも急速に広まっている技術的な背景は既に述べたが、従来型のソフトウェア技術者の絶対的な不足から、要件定義から検収まで長期間かかる方法では、爆発的な開発ニーズの量に追いつけない。アジャイル型のプロジェクトが、これから日本でも増え続け、ビジネスを変革すると強く印象付けられた大会であった。PMAJでは、会員の要請に添い、使う人の為の「アジャイル開発の道案内―続編」の出版を決め動き出した。

以 上

ページトップに戻る