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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (54)
高齢化社会の地域コミュニティを考えよう (30)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 9月号

Z. Iさん!
先月号の話では町長選挙を前にして、町長の話があり、今の再生協議会は期待以上のことをしてくれたという話だった。町長の話に対し、Iさんは今の再生協議会は素晴らしい成果を出した。そして協議会のメンバーは実力があると賛美した。しかし、次の課題がある。今回の成果だけでは、これ以降の人口減に見合った予算縮減への対応が難しい。そのため町が掲げた総合戦略の最も重要な課題への積極的な対応が求められる。そして、今のメンバーなら新たな対策で成果をだすことができると思う、と回答した。町長はその理屈は十分理解しているような口調だったと聞いた。
I. 私は全くうかつでした。
ある筋から聞いた話によると、町の総合戦略と中期計画は専門の都市開発コンサルタントが提案し、参加した町の有識者が修正し、賛成したもので、今の協議会幹部の行動は行政の担当部門からの要請を受けて、難しいテーマに取り組まないことを決めたものだそうです。町の総合戦略のかけらも入っていません。
その話をきいてわかったことは、行政の要請に従っていればビジョンはいらないという判断になります。ビジョンを入れると、ビジョンと現実の差をどのように乗り切るべきかという大きな課題が生まれます。
Z. 役人は仕事に目標値を入れないことを得意としている。ビジョンがないと結果に対する責任がない。さすが役人は用意周到だな。
I. 逆に私は総合戦略に従ったビジョンをマンガチックに描きだしました。絵にして提案したら、さっそく削除されました。現実味のある実践的アイデアは町と再生協議会メンバーにとって大きな課題を生んだことになります。そこで真っ先にマンガが削除されました。後で気が付いたのですが、ビジョンから具体的なアイデアを導きだすことが通常は困難だということに気が付きませんでした。
私の中にはマンガが脳内にありますので、町長の前で、総合戦略の素晴らしさ、今日まで協議会をリードした幹部の能力の高さをほめ、次の展開に素晴らしい提案ができることを確約しました。
町長はこの発言で勇気を得たように見受けられました。そこで私は総合戦略に則った提案が出せると信じました。
Z. 今回町から要求されたことはどんな点かね
I. 今回の要求事項は、町の各部門担当からの意向を取り扱ったものです。
我々が出す提案書は行政の横の連絡を加味した新しい提案だと思ったのでしたが、現実は、従来通り縦割り行政からの依頼事項でした。
協議会の事業部会は来年度以降、どうあったらいいのか。
協議会の現6部会体制の改革案(止めるもの、新しく立ち上げるもの)
A小学校区における望ましい地域組織の在り方について
となっております。
私はこの文面に対し、何をすればよいのかと幹部に質問したところ、「あなたの担当している部会の実績と課題について説明し、実績の評価と課題のありかたについて述べ、継続するもの、中止するものを明確にせよという答えでした。
現在の6つの部門は経営しているが、採算抜きだということです。
提案者は今度も全くビジョンのない提案を依頼してきました。今までもビジョンのない業務推進でしたから、私は今回は総合戦略ビジョンへの転換かと勘違いしました。

来年以降は成功させたプロジェクトの維持管理に関し、継続可能な維持管理であることというのが私の答えです。有望なテーマを示し、活気ある協議会にしたいという夢がありましたが、町はそれを望んでいないようにも見受けられます。

もう少し、うがった考えをしますと、町からの要請と彼らは言っていますが、結局は町が本当に考えるべきことではなく、担当部署が考えた発想を進めようとしていることだと思います。再生協議会の再生とは町と住民がどのように変身し、新しい課題に取り組むかとも読み取れますが、町の各部署が合同で新しいことを考えようということはあり得ないので、住民がどのように変身し、町をもりあげるには何をするべきかを、今真剣に考える時期に来ていることです。町はそれを望んでいますが、協議会にはモノづくりはできますが、価値づくりがどのようなものかわかっていません。そこが再生協議会のネックです。

再生協議会の担当部署が抱えている問題を、全体として研究すると大きな成果が出ることが多くあります。救いはそこにあります。
しかし、幹部は全体を融合して考える発想がありませんので、結果は見えていますが、もし、再生協議会が再生全般の利害関係者(SH:ステイクホルダー)を集めてプログラム組織(幾種類かのプロジェクトを統括した組織)をつくり、お互いが少しづつ、自分の権益を犠牲にすることで全体としての収益が増大したという組織をつくる必要があります。

実は上記のアイデアをもって、研究会をしないかと数名に話しかけました。ほぼ全員は勘弁してくれという対応です。意欲のある方に聞きますと、いろいろと提案した。その問題は、これこれの理由でできない。それは、別件でできなかった、と多くの実績を示し、ダメになった理由を話してくれました。

40年も前になりますでしょうか、TOC理論(Theory of Constrain)という戦略がはやりました。ある問題を解決するとき、問題解決の過程で出会う、制約条件をことごとく打破することで、成功に導くことができるという論理です。制約をあきらめるのではなく、制約が新しい価値を生んでくれるという発想を連続的に対応し、最後には新しい事態を獲得できるという論理です。

これまでの日本企業は同業他社と同じことをする人間が出世してきました。役人は徹底的に失敗をしないことで出世をします。日本的ムラ社会は仲間の規律で成り立っていますから、つまらないことで人間関係を疎遠にしたくないのです。日本では自力で成功した人は少数派です。80%の人々は、困難な問題には触れることなく退きます。そして80%の人が反対したら、簡単にできる問題も、80%の風に吹き飛ばされてしまいます。
Z. 言っていることはよくわかる。しかし、成功する人もいるよな。成功者は何を考えるのかな。
I. 一般人は真っ先にやりたい問題か、やりたくない問題かで判別します。次にやりたくない理由を考えます。やりたくない理由が多くあると、この問題はできない問題として理由づけられます。しかし、掘り下げてみると、大きな反対理由にならないことが多くあります。
Z. その時はどうするのかね。
I. 反対理由で大きな問題と小さな問題に分類し、大きな問題の解決策を考えます。
小さな問題は10人10色の要求があり、それぞれが異なっており、全部を解決することは困難です。しかし、本質的な大きな問題は多くありません。そこで賢者は考えます。大きな難しい問題を提示している小数派の人と話し合い、真っ先に問題解決を図ります。大きな問題が解決すると、小さな問題の提起者は、お土産を持たせる程度の努力で問題が解決します。それは大きな問題が解決されると、大衆心理として、成功者の提案の利点が見えてくるからです。
ただ、現在何をするべきかと考えるとき、彼らに反旗を翻すのは時期が早すぎる気がします。
Z. そうかもしれない。しかし、肝心のポイントについては質問を浴びせておきたまえ。“収益のない再生はあり得ない”という忠告だ。そうすれば1年足らずに協議会幹部の化けの皮が剥がれるはずだ。
I. 『果報は寝て待て』ですかな。
Z. その通りだな。

以上

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