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「エンタテイメント論」(126)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●日本が直面した3つの「危機」
 前々号の124号で「発想阻害排除法」の解説は一応終わりとした。何か追加すべき事があれば、今後の号で追記する。

 さて前号で、デジタル革命への対応を誤る企業は消滅すること、その革命の核となる「AI技術」の進化に依って全世界の全産業の被雇用者の半分の「職」は消失すること、日本のAI技術の開発は米国や中国等の後塵を拝していることなど所謂「デジタル革命の危機」を論じた。

 日本は、この「デジタル革命の危機」を含めて、3つの危機に直面している。

1 デジタル革命の危機
  既述の通り。
2 日本の構造的危機
  近未来に日本国が凋落すること、更に遠未来に日本国が消滅すること
3 過去の新設企業の寿命到来の危機
  第2、第3の創業を実現せず、寿命が到来した企業は全て全滅すること

出典:危機に直面した顔 wallpapers.com-sad-face-images 出典:危機に直面した顔
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 筆者は、何故、今月号でも危機を論じるのか? これらの危機が我々の今後の仕事、生活、人生を確実に脅かすからだ。と同時に本稿で論じている「創造」と極めて密接に関係するからだ。

 困った事に、これらの危機は、単なる「予測」ではないことである。既にその兆候が始まっている「現実」であることだ。更に困った事がある。それは、これらの危機が年々その深刻度を深めていることだ。そして日本の多くの国民が漠然とした危機感でなく、具体的な危機感を持っていない事だ。本稿の読者はどうであろうか?

●「Society 5.0」
 日本の指導的立場の政治家、官僚、評論家などは真の危機感を持っているだろうか? もし彼らが持っているなら、もっと別の考え方を具体的に示し、もっと異なる行動を具体的に行っているはずだ。彼らが筆者の指摘する危機感を持っていないと疑う根拠がある。それは「Society 5.0」の存在である。

出典:Society-5.0-the-ambitious-societal-digital-transformation-plan-of-Japan 出典:Society-5.0-the-ambitious-societal-digital-transformation-plan-of-Japan
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 これは、周知の通り、AI技術、IOT、ビッグデーターなどの先端デジタル技術を活用してビジネス・イノベーションを進める活動である。それらの技術は、あくまで「技術」であり、ビジネスの「手段」である。しかしその計画は手段が目的化している。これでは「本末転倒」のビジネス・イノベーションである。政府が主導しなくても、賢い企業はとっくにその技術を検討し、取り入れている。

 昔、「ITで新事業を生み出せ!」と叫ばれた。しかしITで成功したビジネスは、そもそも成功するビジネスを発想したことに在った。ITはそのビジネスを技術的に支援したに過ぎない。手段をヒントにして良いが、如何なる「新しい価値」を生み出すか? と云う新ビジネスの基本コンセプトを発想する事が最重要事項である。従って「Society 5.0」の活動を成功させる為に必須の事は、先端デジタル技術ではない。「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」によって何が「新しい価値」となるか?を発想することである。

 この活動に政府主導で膨大な国家予算が使われる。そんな予算があるなら、危機を乗り越えるための「日本の将来を決する国家プロジェクト」を、総力を挙げて知恵を絞り、研究することに、先ずは、予算を使うべきである。何故か? 世界は超大規模な都市開発競争をしているからだ。

●世界の熾烈な都市開発競争、日本だけ「蚊帳の外」
 中国は批判を浴びながらも「一帯一路」の国家プロジェクトを着々と進めている。また日本人はマカオを賭博の町としか理解していないが、その実態は都市開発である。中国は、「マカオ」に隣接して「横琴地区」を開発中。更に北京の近郊に「雄安地区」と云う「21世紀型・超大都市」を開発中である。深セン、上海、香港、マカオ、横琴などと総合合体した「国家プロジェクト」は、世界の都市開発のモデルになるだろう。筆者は何故、都市開発を取り上げたか? 21世紀は「都市の時代」になるからだ。都市は優れたヒト、モノ、カネ、チエなど全てを世界か集めるからだ。

 韓国では、ソウル特別市がその未来を決する「マゴク新都市開発プロジェクト」を推進中。場所はソウル市内から南西10数km、金浦国際空港から西に僅か2km。100万坪の平らな土地に電子、バイオ、医療、各種生産、教育、福祉、エンタテイメント、商業施設、住宅、大公園など建設中。羽田国際空港のそばに皇居の数倍の100万坪の大規模都市開発をしていると同じ。

 余談であるが、筆者はソウル特別市の「諮問官(Advisory officer)兼名誉大使(Honorable Ambassador)」に任命され、最近まで同都市開発に協力していた。

マゴク新都市開発プロジェクト
マゴク新都市開発プロジェクト マゴク新都市開発プロジェクト

 その他の国では、マレーシア、ベトナム、タイ、インド、ロシア、ヨーロッパ、中東など世界中の国が「新都市開発」で熾烈な競争をしている。日本だけがオリンピックに浮かれ、「蚊帳の外」にいる。何とも情けない。

 昔、田中角栄元首相は「日本列島改造論」を主張した。現在版の「新・日本列島改造論」を主張する人物は何故、現れないのか? 余談だが、「批判は子供でも出来る」と考え、筆者は個人的に「東京ネオ都市開発計画」を企画中。完成すれば提案する予定である。これに賛同する読者は是非、PMAJに連絡し、筆者とコンタクトして欲しい。一緒に企画しようではないか!

 ちなみに日本でカジノを核とする「IR計画」が実現に向けて進む予定である。しかしIR計画をカジノ事業計画と考える政府、民間の関係者が多過ぎる。実態は都市開発計画である。勿論、先端デジタル技術も活用すべきである。実はカジノ事業は既にレッド・オーシャン分野の事業である。従ってカジノ事業をIR計画の核にすると最初成功しても、やり方を誤ると確実に失敗する。本稿はこれを議論する場ではない。これ以上言及しない。もし知りたい読者は、筆者に連絡して欲しい。

●日本の「構造的危機 その1」
 構造的危機の最悪の事態の「その1」は、遅くても半世紀年以内に、その2は、早くても1世紀以内にそれぞれ起こる可能性がある。

 「その1」の危機は、筆者が本稿で何度か指摘した「日本国の凋落の危機」である。「その2」の危機は、本稿で初めて紹介する、大正大学客員教授、拓殖大学客員教授などを歴任した「河合雅司」が指摘する「日本国の消滅の危機」である。後者の危機は、筆者が前者の危機の一つとして指摘する「若年層の減小と高齢者の増加による劇的な人口減少」を更に推し進めた予測である。

 先ず、第1の危機については、以下の通りである。
1 日本は、明治維新と戦時を除き、多くの分野と階層で現代史初の「構造的危機」に直面した。
2 日本は、真の自己改革(革命的変身)を断行せず、「今のまま」で推移したら国家凋落の道を歩み、最悪の事態は、アジアの小国になることである。

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 構造的危機の内容は紙面の制約から代表例のみ例示。日本の若者の減小と高齢者の増加による劇的な人口減少、日本の経済、産業、事業の停滞&衰退、国際競争力の更なる低下、日本国債の増加と財政破綻、国民の危機感の欠如、既得権益集団化と権利主張主義の行き過ぎ、政治、行政、司法の未改革、裁判超長期化、劇場型民主主義の横行、異常な受験競争、日本の有名大学への国際評価の更なる低下、教授陣の質低下、大学生や会社員の更なる質の低下等

●日本の「構造的危機 その2」
 「人口減小の方程式」とは、出生数減少×高齢者増加×労働人口減少である。出生数の減小と高齢者の増加で人口減小が加速。「経済的価値」を創出する労働人口まで減らす。労働人口減は出生率を低下させ、益々人口減小に拍車を掛ける。まさしく「負の循環」が加速。この様な急激な人口滅は世界史に類例がない。

 河合雅司は、国や自治体、企業や個人が取り組んでいる人口減小の抑制策では、もはや不可能と断定。彼は、「国立社会保障人口問題研究所」の日本の人口減少の予測(2017年)を支持し、現在(2015年)の1億2700万人 40年後、9000万人以下 100年後、5000万人とする予測は確実である表明。

 彼は、一定の条件下の理論予測(1000年後に2000人)との前提で、200年後1380万人
300年後450万人(現在の福岡県の人口510万人)、800年後6000人、1000年後2000人と云う予測を示し、「日本の国の消滅」を紹介している。

 また彼は、それほど先を予測せずとも2050年には国土の約2割が無居住化する。日本への外国人の大量移住者が増える様になれば、日本は国の体をなさなくなる。それは事実上の「日本国の消滅」との危惧を明らかにしている。

出典 人々に襲う危機 crisis-9068668.jpg&action 出典 人々に襲う危機
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●過去の新設企業の寿命到来の危機
 新設の企業の生存率は、1年後60%(40%消滅) 3年後38%、5年後15%、10年後5%(1~10年までは日本経済新聞社調査、新設企業8万社の追跡調査)。20年後0.39%、30年後、0,025%(20~30年後までは西川りゅうじんマーケティング・コンサル会社調査)

 長寿企業を除き、過去30年前に新設された企業は、殆ど姿を消し、その後新設された企業も年々その数を減らしている。一方日本の「総合新規事業起業率」は世界最低である。新しい企業が生まれず、新設された企業は姿を消す。しかも日本の多くの企業の力が年々低下している。この様な企業の経営者や社員にとって「明るい未来」はないどころではない。今直ぐに会社を失い、職を失うのである。

 日本が直面した3つの「危機」に、会社として、個人として如何に対処すればよいか? 次号で議論し、「危機」の問題を終わらせる。

 そして長年解説してきた「夢工学式発想法」を総括し、「創造」の章を終結させる一方、「エンタテイメント論の本質」を新たな観点から解説する予定である。

つづく

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