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Whyを伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 今回は、前回に引き続き、”Alive at Work: The Neuroscience of Helping Your People Love What They Do” (「職場で生き生きとした状態でいる!仕事を人々が愛せるように支援するための脳科学」井上訳)という題名の本からの学びを共有します。
 前回のおさらいです。著者ダン・ケーブル氏は、現代のマネジャーの役割は、各人がDNAの中に持っているSeeking System(探求するシステム)をlight up(火を灯す=活性化)すること。そして、人々が求めている自分自身を表現したり、探索したりする行為を職場で可能にすることによって、社員のモチベーションを高めることができる、と語っています。その一つの方法として、”How can I help you to be more successful at work?”(あなたが仕事をもっと上手くできるようにするために、私が取ったらいい方法は何ですか?)とマネジャーが部下に投げかけると効果的だということを紹介しました。
 今回は、別の方法として、「ある仕事をする目的をクリエイティブな方法で伝える」ことを紹介します。仕事をどう捉えるかで、仕事をしている人のモチベーションが大きく変わるということは、以前から色々な人が言っています。私もマネジャー向け研修で、「レンガ積み職人」の話をします。レンガを一個ずつ積み上げるのが仕事だと思うのか、人々が集って心の安らぎを得ることができる教会をつくっているのかと思うのかで、やる気が大きく違ってくるという話です。ダニエル・ピンク氏も、『モチベーション3.0』の中で、目的、自律、熟達がモチベーションを上げる3つの要素だと定義しました。サイモン・シネックがTEDで語った”Start with why”も有名です。”Alive at Work“では、脳機能と結び付けてこの重要性を説明しているという点と、「伝え方に工夫が必要だ」としている点がユニークだと感じました。伝え方を工夫した事例として、単に言葉で伝えるのではなく、自分達の仕事がお客様に対してどういう意味を持つのかを社員が体感することで、心で感じることができるようにした例を挙げています。
 今回改めて、自分がやっている仕事の目的は何なのだろう、と考えてみました。今、私が多くの時間を割いているのが、社員意識調査PJです。グローバルに実施しているため、日によっては、早朝または夜遅くのPC会議をこなす必要があります。先日は、別のグローバルなPJもあり、前日が国内出張の宿泊先のホテルで11PM-1AM、翌朝が7AM-7:30AMのPC会議でその日は終日社内研修の講師をして夜東京に戻ってくるという強行軍でした。会議に加えて、各国の担当の方から届くメールの対応や細かい作業も数多くあり、正直、「もうやってられない!」と思うこともあります。目の前の仕事を正確にこなすことだけが目標となり、仕事に追われ続けていると感じることもあります。そんな時、ちょっと深呼吸をして、Whyを考えてみると、「また頑張ろう」という気持ちになれたりします。私の場合、この社員意識調査PJには、私にとって3つの目的があると感じています。基本は、お金を稼いで好きなことができるようにすることです。2つ目は私自身の成長です。グローバルな環境の中でPJをまわしていくことで交渉力や人に働きかける力や英語力が向上しているのを実感しています。こういって身につけたスキルや能力は、私が一生続けたいと思っている「人が力を発揮できるよう支援すること」に役立ちます。3点目は、社員の笑顔のためです。意識調査の結果を受けてマネジャーと部下の間で良い対話が起き、社員がより生き生きと仕事ができる職場になるためです。仕事で疲れた時、「生き生きと仕事をしている社員」の表情を思い浮かべるようにしています。より具体的に言うと、以前私が企画した長期研修に参加したメンバーが笑顔で働いている姿を思い浮かべます。漠然と社員と考えると心が動かない時も、具体的に応援している知り合いの顔を思い浮かべると、「そうか。彼らのためにやっているんだ!」と思え、元気がでてきます。
 グローバルに選抜されたメンバーを集めて実施する研修プログラムの場合も同様です。単に研修を企画していると考えると、大量に行わないといけないロジスティックスに押しつぶされそうになります。でも、その研修に参加した人達の心が動き態度が変わったら彼らの部下や関係する人達がよりハッピーに仕事ができると考え、そんな職場が世界のあちこちで実現している姿を想像すると、私までワクワクしてきます。
 皆さんが関わっているPJの目的は何でしょうか。そして、それをどのようにメンバーの方に伝えているでしょうか。「いついつまでに、いくらで、何何を達成する」という目標だけでは人の心はなかなか動きません。PJが成功することで何が変わるのか、変わった後のより良い姿を一人ひとりができるだけ鮮明にイメージできるように伝えることができたら、メンバーのモチベーションもあがり、PJの成功する確率もきっと上がると思います!ぜひトライしてみませんか?

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