グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第126回)
異変、いや変動

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :8月号

 7月9日土曜日昼にモスクワから帰国したら、西日本豪雨災害の報道で溢れており、倉敷市真備町が、小田川の多重決壊で大洪水被害を受けていることを知り大きなショックを受けた。筆者は隣の岡山県総社市にある岡山県立大学の客員教員であり、真備町と、同じく大被害を受けた総社市の高梁川沿いの果物農家のあたりも何度も通っている。岡山県立大学では8月初めにオリエンテーション授業を行い、9月に大学院共通の社会価値構築に向けた「プロジェクトマネジメント実践論」講義が待っており、岡山県西部地区の再建に向けて徹底的な議論を行うことになる。岡山県は晴れの国、災害が無い県を謳っていたが、この神話が完全に崩れてしまった。
 筆者自身、今年だけでも、1月に訪れたウイーンの暖冬、2月、大学院講義が3日間できなかった北陸の豪雪、通常30℃以上が今年は25℃に留まっていたセネガルの3・4月、晴れが定番の6月南仏ニースでの毎日の降雨・隣のマルセイユの洪水、そして7月第1週のロシア内陸の猛暑(35℃~37℃)、と行く先々で異常気象を体験している。異常気象を嘆くのではなく、気候変動は世界で定着しているので、気候変動への各レベル、各セクターでの対応の仕組み作りに資するP2Mの活用を引き続き推進していく。
 
 FIFAワールドカップはフランスの20年ぶりの優勝に終わった。筆者はフランスの大学院に育てられた教員であるので、大変に喜んでおり、深夜フランス優勝が決まった直後何名かの親しい人にお祝いのメッセージを送った。フランスチームはまた、旧フランス領の西・中央アフリカ諸国の希望をも背負っている。19歳の英雄エムボマがカメルーンとの二重国籍、その他アフリカ系選手も全員二重国籍である。

ロシアPM協会幹部とロシア対スペイン戦観戦  このことも、セネガルや西アフリカを人生最後の教育フロンティアと位置付ける筆者の心に迫るものがある。
フランスは過去10年良いことが何もなかったが、このFIFA WC優勝は、若きマクロン大統領の下で国を一つにするのに大きな効果があるだろう。フランスはグリーン成長に将来を賭すことを、法律(Energy Transition for Green Growth Act: in Action Regions-Citizens-Business)を制定して、決意している。
 決勝ラウンド第2試合からロシアに居たが、レストランやホテルのロビーでロシア人や各国からのサポーターと一緒に試合をテレビ観戦していて、大いに盛り上がった。
 とくにモスクワに到着した夜は、JALのフライトで一緒だった日本人サポーターが空港からスタジアムに直行すると言っていたロシア対スペイン戦があって、史上初めてロシアがPK戦の末に勝った。その後のモスクワの市内各所での市民の歓喜の集会はすごかった。海外の他の国と同じように、ロシアも公共の場所での飲酒は禁止であるので、喜びのなかでも狂乱風景はないのはびっくりした。
 
 4月初め、セネガルに居る時に、ロシアPM協会 アレクサンドル・トブ(Alexandr Tovb)会長より、7月第1週開催のロシア国際PM大会に出席要請を受けた。ロシアPM協会 (SOVNET)と筆者は4半世紀の親交があり、また、トブ会長他幹部とは個人的に「仲良し」であるので、すぐに招待を引き受け、基調講演と特別セミナーについて、最近では稀な入念な準備を行って、7月1日ロシアに入国した。
 今回は主催者手配で、日本航空で往復であったが、JAL利用は13年ぶりとなった。搭乗機B787のエコノミークラスの座席の質、広さと間隔が世界一の評価をとったそうで、快適で、サービスもよく、大変良い気分転換になった。
 大会は、モスクワから東に900キロのウリヤノフスク市で開催された。ウリヤノフスクはサッカー日本チームの拠点であったカザン市からボルガ川を150キロ下った位置にあり、また日本の第1戦が行われたサランスクはモスクワ寄りに150キロにある。
 
ウリヤノフスク市

 ウリヤノフスク州政府とロシアPM協会が共同主催の大会であったが、ウリヤノフスク州には経済特区があり、日本企業5社が生産拠点を構え、数社がさらに進出準備中である。州政府のイノベーション施策と官民のプロジェクトマネジメント振興が力強く進んでいるのは、はるばる訪れた者には、日本企業の進出とともに、大変心強い。300名規模の大会であったが、主催者に強い当事者意識があるので、プログラム内容も、我々招待国際スピーカー対応も、運営も、会場・ホスピタリティーも一流である。
 ロシアの大会は、4星ホテルで行うことを常とするが、今回の会場(と宿泊先)は、ヒルトンホテルであり豪華であった。大会参加は招待制であるが、大会ディナーや昼食を含めて無料とのこと。
 大会テーマは、「政府のP&PM」、「ディジタル経済への仕組み作り」、「グリーン・インフラストラクチャープロジェクト」の3本柱であり、これは州政府がスポンサーであるために、政策的な意図があってのことであるが、このテーマ枠でも大会がきちんとできるロシア連邦のPM知識と意識のレベルの高さがうらやましい。
 また、今回の大会は、IPMAの将来を担うことが期待される何カ国かからの若手リーダー達が躍動した。それと、IPMA独特の制度であるヤング・クルー(Young Crew)もしっかりと活躍していた。
 
 ロシアは、P2Mの聖地でもある。実践者は1千人以上いるという声(SOVNET幹部)もある。経済発展省の人も筆者に挨拶に来たし、参加者の発言でヨイショも何回かでてくる。取材も3件受けた。
 ウリヤノフスク市は黒海の奥のアゾフ海(昨年5月に筆者が訪れ、今月ワールドカップ日本チームがベルギーと熱戦を繰り広げた地であるロストフ・ナ・ドナ市は再下流の大都市となる)から内陸部に伸びるボルガ川の川幅が一番広くなるあたりであり、市の北にある橋は5.1キロの長さがある。これでボルガ川は、3地点、を訪れることができたことになる。
 ロシアと他の旧ソ連の国々を合わせて今回が25回目の訪問であったが、今回も変わらず大変楽しい旅であった。食事も大変美味であった(ロシアの正式料理はフランス料理である)。唯一変わったのが、飲むウォッカの量を極力減らしたことぐらいである。どうもロシアでは、もう一回、大きな役割があるようだ。
 
開会式(来賓挨拶も行った) ロシアで定番Balanced Innovation Model講義
開会式(来賓挨拶も行った) ロシアで定番Balanced Innovation Model講義
 
 7月終盤の猛暑のなか、首都圏の大学院で講義兼オープンセミナーを行っているが、ここでも、日本人受講生対外国人受講生の比率は3対7となった。どうも異変ではなく、変動のようである。 ♥♥♥

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