PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (94) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 プロジェクトマネジャとしての在り方としてまだ言い足りないものがあると先月号で言いました。

 これまでプロジェクトマネジメントの力量の基準は知識と経験の積み重ねによるスキルというもので考えられていました。
 しかし、プロジェクトの遂行では経験や知識の積み重ねによるスキルだけでは対応できないプロジェクトマネジャの人間的側面に頼ることも多く見られます。
 すなわち、プロジェクト遂行において期待される職務を安定的に継続的に達成する中で一貫して見られる思考、判断、選択態度、行動など、自然体で業務遂行中にみられる特性です。

 話はある大きなプロジェクトの代表となる人のことになりますが、この人が筆者のところやってきて、
 「私はある組織の長をやってきました。これまでの業務は主にルーチンの仕事で、部分的にトップからルーチン業務から外れた非定常な仕事もやりました。このような特別に指名された海外のプロジェクトは初めてです。
 今回はこれまで扱ってきた業務とは異なり、範囲や規模も大きくこの種の仕事は初めてのことです。この種の仕事、すなわちプロジェクトは通常とは異なった特別なマネジメントが必要と聞いています。しかし、プロジェクトマネジメントに関する研修も受けていないし、また関連する書物も読んだことはありません。ぜひ一度話を聞かせてください」と言ってきました。

 この人はN社のエリートと言われる人で一流大学を出た優秀な人です。
 このアサインされたプロジェクトを無事完了させたら多分N社の役員になると噂されていた人です。
 この人が筆者に自ら教えを請いに来たのでなかなか謙虚な人だなと思いました。
 そこでこのプロジェクトにアサインされる予定の人達を含め、一緒に一週間ほどの時間でプロジェクトマネジメント研修を行いました。
 研修の最後に反省会を行い、感想文を書いてもらいました。
 このプロジェクト代表となる人は「プロジェクトマネジメントは特に他の業務管理手法とあまり大きく変わらないので、問題なくこのままで与えられたプロジェクト責務は全うできそうです」と断言していました。
 確かに彼の説明はしっかりしており「さすがにエリートは筆者などより頭も良いし、理解度も早い」と感じました。
 しかし、筆者は彼とその後も何度か話をしましたが彼の自信あふれた物言いが少し気になりました。

 確かにこの種の人達は新しい知識には貪欲であり、理解力も高く、流行のテーマに関するセミナーには積極的であり、知的水準を他の人より上げることを重視するグッドプレゼンターでもあります。
 彼の場合は、その後も自己啓発に努め、いろいろプロジェクトマネジメントにかかわることを筆者に質問してきました。これだけ前向きにプロジェクトの成功のために知識習得を心掛け、努力している姿を見ると、きっとアサインされたプロジェクトを成功させるだろうと思いました。

 このプロジェクトが始まりプロジェクトスタッフが赴任した頃、筆者はこのプロジェクトのPMアドバイザーとして現地PMとのブリッジ役に指名されました。
 その後、何度か現場PMとやり取りしている内に、このプロジェクトから不協和音がいろいろ聞こえてくるようになりました。
 まず、業者選定においてその評価で調達と設計とプロジェクトチームの間で、もめていてなかなか業者を決められないとのことでした。
 スケジュールではもう現場が始まっていなければならない時期にも関わらず、その調整役のPMが明確に判断し決断しないことが原因のようでした。
 一方、現場からは矢の催促です。
 そのため、現地に筆者が出張してその問題解決に当たることになり調査分析したところ以下のようなことがわかりました。

 原因は設計のスケジュールと業者選定及び工事スケジュールがリンクしていないことや、その他業者選定に必要な業者選定評価基準が明確になっていないことがわかりました。
 この評価の基準は業者の提案コストだけではなく業者の能力や請負条件など俯瞰的に評価して決めなければなりません。
 しかし、業者との交渉、そしてやり取りの間で評価とは別な各種のバイアスが働き、いろいろな摩擦が起きていたようです。

 また、スケジュールは設計、調達、機材納入、そして現場開始の順番になるが、多くのシステムからなるこのプロジェクトはそれぞれの終了時点が開始時点となることを考えたネットワーク型としなければなりません。
 しかし、このプロジェクトでは単なるバーチャートでお互いの業務やシステムの設計完了時点や器材の発注そして現場の開始などの関連が示されていません。
 そのため、各担当間の書類のやり取りが連携していないため、必要な時に必要なものが届かなかったり、また必要でないものが早く着いたりとそれぞれの担当の仕事に混乱が生じているようでした。
 PMが決め切らないことはそこに何かいろいろな事情があったのだと思いますがこのような場合は公平な判断でPMが決断しなければなりません。

 このようにプロジェクトは通常のルーチン業務とは異なりプロジェクトの内容や特徴を考慮して、的確な計画を立てることが必要です。
 またプロジェクト実行中にはいろいろと異事事項が発生します。
 その場合は、PMたるものは問題発生に対しては的確な対策を打ち、問題解決を優先し、必要な手を打ちその問題の解決をすることに迷うことなく、各関係者に決定事項を指示することが大事です。
 業者決定についても同じことであり、全体を見て決めなければいけない時に決めることが重要です。これは知識や経験ではなくPM自身の判断力や決断力といった個人の資質によるところが大と思います。

 このプロジェクトでは赴任前にPMを含め関係者にはプロジェクト管理に関する研修をやっています。
 しかし、研修はあくまで研修であり、実際のプロジェクトでは研修で学んだものがすべてに役立つとは思えません。
 そのためには実プロジェクトでの経験やプロジェクトで新たに発生した事象や知識を自分のものとして学んでいくことが重要となります。

 研修でもプロジェクト立ち上げ時の初動動作については詳しく説明し、プロジェクトスタッフにも理解してもらったと思っていました。
 それにも関わらず基本動作の部分で多くのミスを犯していました。
 プロジェクトを実際始めるとどのような場合でもいろいろな問題に遭遇します。特に初動でのミスは後半の工程の仕事に多大な影響を与えます。このようなことは今までの経験や知識だけでは処理のできない状況が発生します。

 さて、ここまでの話からこのPMの問題を考えてみると:
最初の立ち上げの段階でのミスが大きく後の仕事に影響する事になった。
このPMがこのまま仕事を続けるとさらに問題が発生すると思われます。すなわち、将来の問題発生時に的確な行動をとり適切な判断と対策を立て実行に移すということに期待が持てないような気がします。

についてはまずこのPMにはプロジェクトの目標達成のためには何をまずやらなければならないのかといった「計画する」ことになれてないことが原因と考えられます。

 このPMはルーチン業務でも所属長としても計画は重要と考えていたと思います。しかし、ルーチン業務での計画は方針を与え実際の計画は部下にやらせそれをレビュー/承認するといった定例業務の一環としてやっていたと思われる。
 プロジェクトはルーチン業務とは異なり特異性を持った業務であり、その特異性を考慮しながら行わなければならない。
 このPMはルーチン業務でも計画をやっていたという自負もあり、プロジェクトの特異性を考慮しない計画の作成を、同じようなパターンで部下に任せたことがこのような結果になったと思います。よって、計画性については以下のようなことができていなければなりません。

PM自身がプロジェクトの特異性を理解し、現状を分析/洞察し、そこにある問題や優先すべき事項を調整し、率先して作成作業に加わることが重要である。
そして、計画が関係者全員の羅針盤として満足されているかチームにて議論され、そして周知されていなければならない。

②はプロジェクト実行中でのトラブル発生についての話になります。
 このプロジェクトではすでに計画段階においてミスを犯し、トラブルが発生しています。
 この場合は対象となるプロジェクトでは自分及び所属している組織、仲間、全体最適な視点、創造的視点等の全体的視野にてプロジェクト全体を俯瞰してみることから始まります。
 すなわち、プロジェクトの全体的視点からの計画や対策である。
 まずそのためにやることは、知っておかなければならないことを人の知恵を借り、書物を調べたりなどして各種情報を収集し、関係者間で起きている問題の状況を分析し、そこから自分のなすべき行動を発見し、対策として提示し、具体的行動に移す。
 なお、この考え方は①にも適用できます。

 ここまでで皆さんもお判りいただけたと思いますが不協和音の原因はPMのプロジェクト未経験と、自分のこれまでのルーチン業務のやり方をそのままこのプロジェクトに適応しようとしたことのように思えます。
 そのため、仮に部下が何らかの意見を言っても真摯に聞いてくれず、PM自身の独断で物事を決めたことも考えられます。
 このPMは当初「プロジェクトは通常とは異なった特別なマネジメントが必要と聞いている」と言って、プロジェクトマネジメント研修をスタッフと共に受けました。
 当然研修の中ではプロジェクト計画に関する講義をやり、計画時に「これだけはやっておくようにと!」言っていたこともやっていませんでした。
 しかし、彼はこの研修の内容や追加的に各種の本を読んでプロジェクトマネジメントを理解したつもりになっていただけで、その適用ができなかったことが不協和音の原因となったと考えられる。
 ルーチン業務では慣れ親しんだ仕事を毎日やる業務が多く、特に計画も年間計画であり、仕事の内容も前年度とは大きな変化はありません。よって、経営リソースにも大きな変化もなく、仕事内容もマニュアル通りに行えば大きな失敗もないと思われます。
 PMは与えられたプロジェクト要求や条件に対し、自ら先頭に立ってその要求事項の分析/洞察を行い、そこにある問題や優先すべき事項を調整し、その方法や手順を計画に適切に示すことが重要な職務です。
 不協和音は、これを部下に作成させ、自分はそれをレビューしその計画書の中に示された矛盾点を指摘することもなく、プロジェクトを進めたことによります。

 しかし、よく調べてみると設計作業は予定通りに進められていることがわかりました。
 また、調達については機材関係は設計から提出された図面や要求仕様書もできていたのであとは業者を決定するだけであり、PMが最終交渉に入り決定すればよいように見えました。
 問題はPMの判断および決定に対する煮え切らない態度のように感じました。
 このままでは不協和音がプロジェクトチーム全体に広がり、業務遂行上での対応がうまくいかなくなると考え、PMと共にその対応を考えていくことにしました。

今月はここまで

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