PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (93) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 一般的に、プロジェクトの始まりは顧客の要求する技術要件及びプロジェクト実行上の条件を明確に示した書類を基に、競争入札などで請負業者の選定を行なうところから始まります。
 プロジェクトを請負う側はその入札書類に従って競争相手を横目で見ながらプロポーザルを提出し、顧客の評価結果を待ちます。
 そして、たくさんの競争相手に勝ち抜きショートリストにのり交渉を通して受注するといった経緯でプロジェクトがスタートします。
 これが一般的なプロジェクトの始まりでした。

 しかし、プロジェクトの形態はその対象により千差万別であり、単純なものから、規模の大きなもの、複雑なもの、そして要件が明確でないもの等々いろいろあります。
 もちろん対象となる要件の内容によっては多様な技術の組み合わせが必要なケース、まったく経験したことのないゼロベースから始まるケース、そして組織や業務の変革等各種のケースがあります。

 ましてや、昨今のプロジェクトを取り囲む環境は産業構造の変化やディジタルトランスフォーメーション等のIT関連技術の進展があり、イノベーションには多様な要素を含む技術や知識が必要になってきています。
 すなわち、未知の情報、未確定な技術、予測不可能な環境などから種々のリスクが発生する価値創造型プロジェクトが増えていく傾向にあります。

 特に昨今のIOTやAI(人工知能)といったIT技術と物流、製造、設備そして各種業務等々の異業種との組み合わせや生活者に便利さを与える各種システムや器材の開発などへの対応も必要となっています。
 いづれにしても、これらの業務は通常の組織で行われる定常な業務では処理できない非定常型の業務、すなわちプロジェクトとなるのが普通であり、必然的にプロジェクトマネジメント手法がどのケースにおいても必要となってきます。
 よって、これからはどの企業においても時代の先取りの先兵となり的確にプロジェクトをマネジメントできる人材、すなわちプロジェクトマネジャの育成が危急の課題となってきています。

 しかし、このようなプロジェクトを取り巻く環境下でのプロジェクトマネジメントは如何にあるべきかを考えてみると、何となくこれまでとは異なったアプローチが必要となってきているような気がします。
 これまでのようにプロジェクトマネジメントを志す者が知識として学んできたこと、そして経験してきたことがそのまま利用できるのかが問われているような気がします。
 例えば、PMBOK®や各種団体で行っている知識研修をいくら学んでも現在のプロジェクトを取り巻く環境の変化に追随できるとは限らないような気がします。
 もちろん、PMBOK®や各種団体で行っている知識研修はプロジェクトマネジャの基本知識として必要であり、かつ対象プロジェクトに対応した専門知識を持つことは自明の理です。
 しかし、顧客または企業トップの思いを含むような多義的で漠然とした不確実な要件への対応には無理があると思います。

 確かにプロジェクトの内容によりプロジェクトマネジャのレベルには対象となるプロジェクトの難易度により上、中、下があります。
 筆者がIPA(情報処理推進機構)の委員として活動していた時、IT系のプロジェクトマネジャ人材のレベルについて、委員会の中でいろいろ議論されました。
 その結果、プロジェクトマネジャのレベルの定義を下表に示すようにレベル1からレベル7までの分類で整理されました。

レベル 責任 範囲 対象 IPA案
 7 全体/全行程に責任 社会・異企業間 社会全体のステークホルダ 国内のハイエンドプレーヤ、世界で通用するプレーヤ
 6 全体/全行程に責任 対象組織 企業・複数間のステークホルダ 国内のハイエンドプレーヤ
 5 全体/全行程に責任 対象組織 企業・複数間のステークホルダ 企業内のハイエンドプレーヤ
 4 部門内プロジェクトの責任
作業の実施責任
対象組織 企業内のステークホルダ 高度な知識・技能
 3 作業の実施者 対象組織 担当するPJレベルのステークホルダ 応用知識・技能
 2 設定なし 設定なし 設定なし 基本的な知識・技能
 1 設定なし 設定なし 設定なし 最低限求められる基礎知識

 このレベルの難易度はプロジェクトの規模及び応用知識や技術の難易度そして対象となるプロジェクトの対象範囲で決めています。
 確かに対象範囲が広がることはプロジェクトに求められる要求が広範囲となりまた利用知識も技術も多様になりプロジェクト難易度も増します。
 なお、この表を定義した時のプロジェクトの前提はプロジェクトに求められる要件や範囲も明確に示されたものであり、実行計画からQCDのコントロールを行い、技術的にも既知のものを対照としたものでした。
 ちなみに、レベル4及び5までがその定義に入るものであり、会社または部門内に関連するプロジェクトのプロジェクトマネジャに相当します。
 ところで、ここで強調しておきたいのは、この表はIPAの委員が作成したからIT系のプロジェクトマネジャを対象として策定されたものと思われる人もいると思いますが、あらゆる産業においても適用できるように考慮しました。
 レベル6および7になるとかなり高度なプロジェクトマネジメントスキルが要求されるマネジメント人材と考えられます。
 このレベルに対応するプロジェクトマネジャの定義はITスキル標準にて定義をしていますが、レベル5とは異なり以下のように定義しています

レベル6: テクノロジ、ビジネスを創造し、プロジェクトをリードするレベル。
レベル7: テクノロジ、ビジネスを創造し、プロジェクトをリードするレベルであり、市場全体から見ても先進的なサービスの開拓や市場をリードできるレベル。

 多分、この定義は下図に示されるような環境変化にも柔軟に対応できるプロジェクトマネジャの人材像と思われます。

環境変化にも柔軟に対応できるプロジェクトマネジャの人材像

 それではこれからプロジェクトマネジャを志す人は何をどうすればよいのでしょう!

 ここまでプロジェクトマネジャのあり方を述べてきましたが、少なくともこれからは不確定要素の多いマーケットニーズや顧客の要求に柔軟に対応できなければ一人前のプロジェクトマネジャとは言えないでしょう。
 それがこのエッセーの表題となっている「ゼネラルなプロ」ということです。
 ゼネラルなプロは以下のようなビジネスマネジメント手法を駆使することができる人材であり、昨今のプロジェクトを取り巻く環境に柔軟に対応できるプロジェクトマネジャの資質を身に付けていると筆者は考えています。

既存組織にこだわらず、ゼロベース思考で
既存組織に当てはまらない不確定なマーケットニーズまたは顧客要求を適切な思考フレームで
その対象プロジェクトを取り巻く各種環境条件の明確にし
プロジェクトの遂行に必要な経営資源を有効に展開し
人間の知恵を結集・統合し業務を効率的かつ効果的に運営管理する

 しかし、このような対象のプロジェクトのレベルまで到達することは並大抵ではありません。
 どのような人がこのようなプロジェクトを遂行出来るのか、その目標となる指標がないとプロジェクトマネジャを志す人達にわからないと思います。
以下に参考としてそれに相当する資格を以下に示します。

PMAJの資格制度
PMR(Program Manager Registered)というP2M実践力を持つ人材

(詳細はPMAJの研修講座を参照してください)

 この資格を持つ人材のレベルは、レベル6または7の能力を持っていると言ってよいと考えます。
 PMAJにPMRの人達が集まる会がありますが、そこに参加して皆さんの話を聞いた筆者の観察からもそのように感じました。

 しかし、それでもまだ言い足りないようなものがあります。

 今月はここまでとします。

ページトップに戻る