PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (92) (実践力)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 これまでゼネラルなプロ(実践編)を4年にわたり書いてきましたが、このエッセーの始まりはさらにその約3年前の「ゼネラルなプロ-1」から始まりました。
 この「ゼネラルなプロ-1」の発端は公園のベンチで筆者が居眠りをしていた時に落としたPM協会発行の「P2M」を拾い、それを見たK氏が「この本に書いてある使命達成型職業人はゼネラルな業務に対応できるプロですなー」と言っていた言葉から始まりました。そして、本エッセーの表題を「ゼネラルなプロ」としました。

 ゼネラルな業務に対応できる人??
 この言葉から連想してゼネラリストという言葉を思い出す人が多いと思います。
 ゼネラリストとは2~3年ごとに多くの部署を巡り、各部署の業務をこなし、その都度上位職になっていくような人材だと読者諸氏はイメージするでしょう。
 要するに自社組織内の仕事の内容を幅広く知っている人であるが、必ずしも専門業務知識を持つ人ではないのです。

 昨今は専門分化された縦割り的組織がほとんどでありそのため部門間の連携を阻み、異質な知の融合や新たな知の統合を阻止し、自部署のみに視野狭窄化した部分最適型人材(社員)が増えています。
 それをカバーする全体最適型人材の育成が必要であるとし、一橋大学の伊藤教授はこれをプロヂューサーまたはゼネラリストと称しています。
 教授の考えの多くは筆者の思っている「ゼネラルなプロ」の意味と似ています。
 しかし、一企業にとらわれず与えられた目標(具体的目標又は新技術開発や市場創生のような戦略的目標)を業際を越えてマネジメントできるプロフェッショナルという事では若干意味が異なっています。
 なぜなら、「ゼネラルなプロ」は上記のように与えられた使命の達成の「プロ」でなければならないからです。

 ここで少し「プロ」の意味について考えてみましょう。
 大前研一の著書である「ザ・プロフェッショナル」から一部引用して解釈すると以下のようになります。
社内のみならず社外においても第一線で通用する専門知識や実務能力を備えている人」
顧客満足を約束事として自ら宣言することのできる人

 しかし、筆者はこれにも若干異論があります。①の定義は問題ないのですが、②は納得できません。自分が勝手に宣言しても結果がまずければプロフェッショナルとは言えません。よって、②は以下のように修正します。

「仕事に結果責任をもち、顧客満足を実践にて達成できる人」

 プロフェッショナルと言えば身近なところで医師、弁護士、公認会計士、建築士等々がいますが、この人たちは一部の分野においてプロフェッショナルであるが、必ずしも「ゼネラルなプロ」とは言えません。
 この人達の多くは優秀な大学を出て、国家試験も通って、専門知識も実務能力もあると証明がなされてはいます。しかし、社内的に優秀と言われペーパーワークも素晴らしいが、実務適性が低かったり、人間性に問題があったり、マネジメント能力に問題あったり等々で顧客との契約または約束事での実務において結果責任を持つことができない、または顧客満足のできない人も多くいます。
 このような人達はプロフェッショナルとは言えません。

 「ゼネラルなプロ」は新しいタイプのプロフェッショナルです。

 要するに、「自社のコアー技術やそれ以外の技術そして人間の知恵を組み合わせて、事業に求められる使命や要求に柔軟に対応し、ソリューションを行うことのできる複合技術適用手法、すなわち「エンジニアリング」を通しての特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」人材という事です。
 しかし、昨今の企業に求められるものはこれまでのような猿まね的な技術または業務運営手法では企業のゴーイングコンサーン(企業の持続性)は守れない環境となってきている。
 すなわち、上記でも述べたように、使命の意味にも大きく2つがあり、その一つは具体的目標のある使命ともう一つは具体的目標の無い使命があります。
 前者はこれまで述べてきたような「ゼネラルなプロ」の範疇にてマネジメントできるが、後者は、話題となっているイノベーションを求める使命であると考えられる。
  すなわち、
 「イノベーションの創出を目的とし、新しい技術や手法を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を創出していくための戦略・決定・実行するものである。」
 これはMOT(Management of Technology)として定義されているものですが、P2Mの求める「不確実性」すなわち未知の情報、未確定な技術、予測不可能な環境などのリスクを発生する価値創造事業である。
 このためには発想力、認知力、創意工夫、知恵、判断力そして段取り力といった知識や経験を土台とした人間的特性すなわち実践力の発揮も必要となります。

 筆者としては「ゼネラルなプロ」に求める人材像は後者の能力を持つことを期待していますが、ここまで到達する人材は経営者にもなれる人と思っています。

 ある会社では前者に相当する能力を持ち多くの海外でのビッグプロジェクトに成功し、社長になったが一年も待たないで消えてしまった人もいます。この人はプロジェクトマネジメント能力には秀でていたがMOTの定義に示すような能力に欠けていたことが原因と考えられる。
 優秀なプロジェクトマネジャであっても経営者に向かないと良く聞く話です。
 その一方では会社では優秀な成績で通常業務を行い、将来役員として標榜されていた人がこの会社が投資したあるビッグプロジェクトのプログラムダイレクターとして派遣されたが、失敗したケースもある。このケースは前者に示した能力すなわち「エンジニアリング」を通しての特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」といった実務能力に問題があった為と考えらます。

 このように、「ゼネラルなプロ」になることはスーパマンのように読者諸氏には聞こえると思います。しかし、それは決して不可能なことではありません。
 「ゼネラルなプロ」になれないのは自分の殻に閉じこもり外の世界に目を向けないで、自分の実力を自分の思っている範囲の中に閉じ込めてしまっていることが原因と考えます。勇気を出して新しい世界に飛び込んで新しいプロジェクトをやり、成功すればそれが自信となり、「ゼネラルなプロ」に一歩近づくことになります。
 その為には「組織の制約から自らをとき放ち、どのような使命でも、国内に限らず海外を含め、あらゆる業界で活躍できる社内、国内、世界で通用するハイエンドプレーヤ」になることと思います。

 このようなゼネラルなプロについての筆者なりの想いがあり、これまでの筆者の経験が「ゼネラルなプロ」に値するかどうかをみてもらうため、実践編にて筆者の経験したプロジェクトについていろいろと書いてきました。
 このゼネラルなプロの約7年に近い期間の間にもプロジェクトを取り巻く環境も大きく変わってきていて、イノベーションの創出を目的とし、新しい技術や手法を取り入れようと各企業・組織が何らかの経済的価値の創出を模索しています。
 このイノベーションといった言葉は変化を求めるには聞こえの良い便利な言葉ではあるが、しかしこの言葉だけでは「何も始まらない、何も生まれない、誰も動けない」というのが現状です。
 さて、このように企業や組織を取り巻く環境変化を誰が、どのように、状況を見極め、具体的に行動するかが重要となってきます。
 この行動はこれまでのプロジェクトマネジメントの範疇から外れる動きとなります。しかし、いずれにしても行動するための具体化された何らかの使命は最終的にはプロジェクトとして処理されることになります。
 今回は実践編にて示した各種多様なプロジェクトの経験でかつ上記に示すようなプロジェクト要件が曖昧、不確定そして経験のないプロジェクトを含め、最終ゴールに何故たどり着いたのかその力はリーダの実践力と考えています。
 これからはプロジェクトの実践にかかわる実践力を中心に話を進めていきます。よって、表題はゼネラルなプロ (実践力)とします。

 ちなみに今年の国家公務員の新入職員に対して安倍首相は以下のように伝えています。
 「行政の現場にあって、未来を見据えた政策を立案する。しかし、これだけでは目的を達成することはできません。何よりも大事なこと、それは「実行」です。政策課題を縦割り発想で解決はできません。仲間との絆を大切にしてオールジャパンで政策を考えてください。
 将来はチームを率いるリーダとなり、組織を率いるようになってください。そのためには「人間力」が必要です。そのための一人の人間として幅広い教養を身に着け、自己研鑽に努め、グローバル的視野を養ってください。」

 このことはまさにこれまで上記にて説明してきたゼネラルなプロの「在り方」であり、それは知識及び経験をベースにして「組織の制約から自らをとき放ち、どのような使命でも、国内に限らず海外を含め、あらゆる業界で活躍できること」であり、そのためにリーダに必要な基本は人間力であり、筆者はこれを実践力と称します。

 今月はここまで

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