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「エンタテイメント論」(124)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :7月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
発想阻害排除法④-5
④優れた発想は、発想を阻害する「環境」を排除し、発想に集中する事に依って生まれる。
●肯定的観点と否定的観点からの発想論
 「優れた発想」を阻害する「環境」を如何に排除するか? この問題を解決するための様々な方策を過去数か月に亘って論じた。

 この発想阻害を排除する事と発想を促進する事を比較すると、排除は促進と同じか、それ以上に実現が困難であり、重要でもある。もっと簡潔・明確に言い換えれば、発想を阻害する環境を排除する方が「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」を起こし易いと云う事だ。何故なら発想と発汗の能力は、全ての人が生まれる前から体に備わっているためだ。しかし困った事に、他者の発想を阻害させる能力は、生まれた後に悪知恵として体に備わってくるためだ。

出典:物事の肯定と否定の両面 Positive-tcnorth.com 出典:物事の肯定と否定の両面
Positive-tcnorth.com

 古今東西、様々なタイプの発想法が数多く存在するが、如何に発想するかと云う「肯定的観点(Positive Aspect)」からの発想法は、何故かやたらに多い。しかし発想阻害要因を如何に排除するかと云う「否定的観点(Negative Aspect)」からの発想法は、何故か極めて少ない。

 例えば最近、様々な分野で評判になっている「デザイン思考」は、否定的観点からの発想への考察が乏しい。誰でも「明るい観点(肯定的)」から物事を処理したいからだろう。しかし「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」は、「暗い観点(否定的)」から考察があってこそ成功する。

●夢工学と悪夢工学
 以上の事は、「夢」「目標」「目的」などを如何に実現させるかと云うテーマでも同様で、肯定的観点からの議論は極めて多いが、否定的観点からの議論が極めて少ない。「暗い観点(否定的)」から議論する事は、夢、目標、目的などへの挑戦意欲を減殺させると云う無意識の抵抗感があるためだろう。
 
 筆者は、肯定的観点から「夢工学」を、否定的観点から「(抗)悪夢工学」を共に提唱している。これは筆者に「暗い観点(否定的)」からの議論に抵抗感が無いためだけではない。

 私事で恐縮だが、筆者には心血を注いで挑戦した多くの「夢のプロジェクト」があった。今も某プロジェクトに挑戦している。しかしどれもこれも、無情にも、平然と、隠密に破壊された。責任を取りたくない人物による「破壊工作」の犠牲になった。筆者が成功したプロジェクトは、破壊工作を事前に防いだ場合だけであった。

 筆者はそれらの破壊者に復讐するため、彼らの本性を分析し、破壊工作を防ぐための「悪夢工学」を構築した。世間の耳目を得るため敢えて「抗」を割愛し、悪夢を創造する工学と誤解される事を覚悟した。読者が「夢破壊者」の犠牲者になって「眠れぬ悪夢の日々」を過ごさない事を心から願っている。

出典:眠れぬ悪夢の日々 women-sleeping-bad-dream.com 出典:眠れぬ悪夢の日々
women-sleeping-bad
-dream.com

●現状維持は「後退」そのもの
 前号では「失敗」の観点から本件を論じた。失敗を許さず、失敗を覚悟して意思決定をする経営者がいない又は少ない企業は、現状を改善して現状を維持する事を第一と考える。しかし最近の企業を取り巻く環境は、従来と全く違う異次元の急速且つ劇的な変化をしている。従って幾ら改善しても現状維持ではその変化に追い付けない。まさに「後退」そのものである。

●先端デジタル技術がもたらす厳しい未来
 先進デジタル技術(AI技術、IOT、ビッグデータ解析、ロボット等)は、単なる高度技術ではない。それは全世界の企業の経営改革(新事業創出等を核とするビジネス・イノベーション)を可能にする「経営基盤技術」に成長している。この技術を活かしたUber、Airbnbの様な企業は、今後益々大きく発展するだろう。一方活かさない企業や活かせられない企業は、既に衰退が始まっている。

 更にAI技術の今後の飛躍的進歩によって、全世界の全分野の全被雇用者の半数は、最短10年、最長20年で「職」を完全に失う。これは日本を含めた世界の多くの研究機関の学者や研究者等が異口同音に近似して予測しているものである。

●厳しい未来の為の「自己改革(変身)」の重要性と必要性
 厳しい未来に対処するためには、今後衰退する企業でなく、発展する企業に貢献できる能力を新たに手に入れて、それを磨く事が求められる。

 またAI技術でも「職」を失わず、AI技術が対処不可能な「豊かな発想(思考)」と「豊な発汗(行動)」を求められる「創造的仕事のプロフェショナル」に成る事も求められる。更に以上の事を達成するための「自己改革(変身)」を成功させる事も求められる。

 読者が「夢工学式発想法」の理論を習得し、実践活用力の獲得する事が自己改革(変身)の第一歩となる事を願っている。しかし時間的余裕はない。今直ぐにその第一歩の行動を開始しても早過ぎることはない。

●Leadership BS
 デジタル変革とAI技術開花時代に対応可能な能力を持った人物は、如何なる業種、業態の企業にとっても貴重な存在となる。更に企業の「夢」と自らの「夢」を重ね合わせ、経営改革の実現と成功のための「リーダーシップ」を発揮し、行動する人物は、尚更貴重な存在となる。

 この機会に企業の命運を左右するリーダーシップに関して話題になっている本を紹介したい。原題は「Leadership BS」、日本翻訳書は「悪いヤツほど出世する」である。

「Leadership BS」「悪いヤツほど出世する」

 この本の著者は、組織行動論を専門とする、スタンフォード大学ビジネススクール教授「ジェフリー・フェファー」である。BSとは「Bull Shit」の意味。「リーダーシップなどクソくらえ」と云う過激な表題である。しかし内容は暴露記事の様であるが、まじめに書かれた学術書である。

 それにしても邦題に「リーダーシップ」の言葉が無い、本質を無視した酷い誤訳だ。日本経済新聞出版社の「売ろう」とする魂胆が見え見えだ。この邦題を認めた著者も同じ様な魂胆を持つ様だ。

●ジェフリー・フェファー教授の問題指摘
 本書は米国で優れたリーダーと評価されている人物の裏を暴露している。しかし学術的根拠でその問題を指摘したとして評判を呼び著者自身が世界的に有名になった。以下に問題指摘の一部を紹介する。詳細は同書を読んで欲しい。
「リーダーは謙虚であれ、誠実であれ、部下に思いやりを持て」と理想論を説くのは米国のビジネス教育産業関係者(コンサルタント含む)である。彼らの指導に従った人物は現実とのギャップに戸惑い、迷い、結局は不利益を被っている。
米国の産業界で優れたリーダーと評価された人物は誠実で立派な良識人であると云う「神話」は百害あって一利なし。
米国ビジネス教育指導者は、知識はあるが、実経験が乏しく、医療関係者の様な指導資格を持っていない。
彼らは「リーダーは信頼を得よ、頼られる人であれ、真実を語れ、人に尽くせ、控えめであれ、思いやりと理解と共感を示せ」と感動的にリーダーシップ論を説く。また「世界的著名な事業サクセス・ストーリー」を熱く語り、その通りに行動すれば、必ず成功すると成功の理論指導をしているだけ。その成功の数字的裏付けはない。彼らのリーダーシップ論は、事実ではなく期待、データではなく願望、科学ではなく信仰だ。彼らを信用しないこと。
ゲイツ、ジョブズ、ウェルチなど事業経営に成功した著名な彼らの殆どは、理想のリーダーとは程遠い。傲慢、独善、思いやり欠如のナルシストで嘘つきで「我が身第一」の人物である。
リーダーシップ教育産業関係企業は、彼らのリーダーシップ論を実行しても職場が一向に改善されない結果に全く責任をとらない。

出典:リーダーシップ Leadership jpg action com 出典:リーダーシップ
Leadership jpg action com

●ジェフリー・フェファー教授の問題解決策
 同教授の提言する問題解決策は以下の通り。
現実を直視し、リーダーの行動を冷静に観察し、自分を守る為に自己利益を優先すること
リーダーや他の人を簡単に信頼しないこと
リーダーや他の人の環境に任せず、自分のキャリアに自分自身で責任を持つこと
働く環境や自らの行動を変えるため、時には悪いこともしなければならないこと
現在語られている多くのリーダーシップ論と実際のリーダー達の行動のズレを認識すること
リーダーは、組織の成功や自らの成功のために必要な行動をとる。地位が上がれば上がるほど個人的信条や好みに基づいた行動を行う自由を失う。この事を認識すること。
「自分の努力と勤勉は必ず認められ、評価され、報われる」と期待して自分で自分をだますはいい加減にやめることなど。

出典:リーダーシップ教育 Lecture_Blue-Focus-.jpg & action com 出典:リーダーシップ教育
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●同教授の問題解決策への筆者の問題指摘
 同教授は、事実根拠と学術的分析根拠で、米国のビジネス教育産業のリーダーシップ指導に問題がある事、また著名ビジネス成功者が理想のリーダーから程遠い人間的欠陥のある事などを指摘した。その通りであろう。

 しかし同教授の問題解決策である「現実を直視せよ、自分の身は自分で守れ、各自努力せよ」などの結論は、一見具体性のある様に思える。しかし同教授が強く主張する事実根拠と研究分析根拠で構築されていない。しかも同教授の問題解決策で具体的成果があった根拠も示されていない。経営経験不足の学者論と思いたくないが、「批判するだけなら子供でもできる」と云う印象を持った。

 米国も、日本と同様、経営実経験が不足又は欠落する学者、経営コンサルタント、ビジネス教育指導者などが多く、実践まがい論も多い様だ。酸いも甘いも味わった、成功と失敗を経験した真の経営実務家に依る本物のリーダーシップ実践論を期待したい。

出典:落下寸前の象牙の塔の学者 Ivory tower & action com 出典:落下寸前の象牙の
塔の学者
Ivory tower & action com

 同教授が提言する問題解決策は、社会経験がある人物なら誰でも分かっており、実践している事だ。同教授が学生相手に講義するのは勝手だが、理想を追う企業人、理想を求める学生諸君は米国でも、日本でも、そして世界でも、数多く存在する事を忘れてはならない。

 同教授は、彼らを迷わすだけだ。しかも彼らの挑戦に具体的に役立つ問題解決策は抽象論である。同教授こそ無責任で怒りすら感じる。同教授のリーダーシップ論にBSを投げかけたい。同教授から筆者への反論を期待する。

 筆者は、「理想論」を重視する。何故なら完全な人間はこの世にそもそも存在しないからだ。「夢(目標、好むこと)」の実現と成功のために「汗と涙と血」を流す事を厭わず、むしろ好んで挑戦し、真のリーダーシップを発揮する人物が大勢実存する。彼らこそこの世の中を発展させてきた。そして本人は、その過程で仕事に、生活に、人生にやり甲斐と生き甲斐を得てきたのである。

つづく

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