今月のひとこと
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 戦友と共闘 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :7月号

 春先に野菜の値段が高いとこぼしていたら、トマトが豊作で安くなり、しかもおいしくなりました。食べる側としてはただ喜んでいますが、作っている方にとっては困った話です。ジュースだとか缶詰だとかに加工できる食材ですので、なるべく無駄にならないようにしていただきたいものです。

 過激な言葉遣いによって耳目を集めること自体は悪いこととは思いませんが、「これはどうか」と首をひねることがたまにあります。先日見かけたのは、ゲームソフトのキャッチコピーだと思うのですが、「戦友と共闘」という言葉です。戦友と共に戦うことを「共闘」といっても良いものでしょうか。記者より上の世代では「全共闘」という言葉に懐かしさを感じる方も多いかと思いますが、そんな世代を狙うために敢えてそのような表現を使ったのでしょうか。なじみの店への通り道に「戦友と共闘」と大書されたポスターが何枚も貼り出され、目を引き付けられてしまいました。
 そもそも「共闘」とは、複数の組織が共同して闘うことを意味しています。「戦友」は組織ではなく個人ですし、自らが所属する戦闘組織(軍隊)に属し、組織の指揮下で闘う仲間です。「戦友と共闘」という言葉使いは誤りであり、仲間という語感からも共闘という言葉は似合いません・・と思っていました。
 偶然ですが、「戦友と共闘」というような表現が使われるようになったルーツだと思われる事象をWEB上で見つけてしまいました。正解かどうかは分りませんが、それほど間違いでもないだろうという気がしています。どうも仮面ライダーが怪しいのです。
 1970年代の変身ものヒーローとして生まれた仮面ライダー。その2号は悪の組織に属していましたが、1号に助けられて「共闘」することになったとか。複数の組織が共に闘うのが「共闘」ですが、ヒーローは1人でも1組織と見做せたということでしょうか。その辺のところは判然としませんが、この頃から、人を組織の一員として捉えるのではなく、独立した人格として捉えるという考え方の勢力が伸びてきたように思います。それ以前は、1人の人間は組織の一部としての扱いでしたが、その頃を境に組織の中にあっても組織から独立した人間としての存在を認められるようになり、組織と個人を対等というか同列に並べるような見方が抵抗なく受け入れられるようになってきていました。そんな状況を背景にして「共闘」という言葉を使うようになったのではないでしょうか。
 組織を人に見立てる擬人化の表現は昔からありましたが、人を組織と同等と見做して「共闘」といった(組織用の)言葉を適用することも、現代では当たり前のことなのかもしれません。言葉の使い方が変わっていくということは理解しているつもりですが、突然出会うと「これはどうか」と思ってしまいます。理解するのに時間がかかり、本当に厄介なことです。

以上

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