SHOE DOG(シュードッグ) ――靴にすべてを。――
(フィル・ナイト著、大田黒奉之訳、東洋経済新報社、2018年3月2日発行、第7刷、548ページ、1,800円+税)
デニマルさん : 7月号
今回紹介する本は2016年にアメリカで出版されて、日本語に翻訳されたのが昨年の10月である。この本は、日米共に出版されて瞬く間にベストセラーとなった。日本では2018ビジネス書大賞(ディスカバー21主催)を受賞した。このビジネス書大賞とは、「ビジネス書のプレゼンスをさらに大きなものとすることで、出版業界の活性化に貢献するとともに、日本のビジネスパーソンの成長、ひいては日本のビジネス界の発展に貢献する」と挨拶文に書いてある。因みに、2017年度は「サピエンス全史」(ユヴァル・ハラリ著、柴田裕之訳)が大賞を受賞している。この本は、この話題の本(2017年10月号)で紹介した。さて、この本だが出版界だけでなくテレビでもドキュメンタリー番組として、著者のインタビューを含め制作された。NHKのBS1スペシャル「ナイキを育てた男たち~“SHOE DOG”とニッポン」が、今年4月に放映された。その放送では、本と同様にナイキの創業から現在に至る会社の苦難と発展が描かれている。創業者であるナイト氏がインタビューで語っている言葉が印象的だった。 “The only time you must not fail, is the last time you try.” (決して失敗してはいけないのは、最後に挑む時だけだ)『最後まで挑戦し続けろ』
成功した経営者の熱気が直接伝わってくる迫力で、著者が80歳の年齢を感じさせない情熱とエネルギッシュなインタビューも忘れられない。さて本題に戻ろう。この本の題名である「SHOE DOG」であるが、文中に「シュードッグとは、靴の製造・販売、購入、デザインなどにすべてに身をささげる人間のことだ。靴の商売に長く関わり懸命に身を捧げ、靴以外のことは何も考えず何も話さない。そんな人間同士が、お互いにそう呼び合っている」と書いてある。この本は、運動靴やスポーツ用品等の世界的なブランドである「ナイキ」の誕生以前からのストーリである。と同時に「ナイキ」の創業者であり、この本の著者であるフィル・ナイト氏の自叙伝である。このサクセス・ストーリは、スポーツシューズに懸ける男たちの情熱とロマンが書かれてある。その信念を貫く著者の魂が先の言葉にある。
SHOE DOGの創業者 ――フィル・ナイト――
著者は、1938年米国オレゴン州ポートランドに生まれ、オレゴン大学で中距離ランナーとして活躍した。オレゴン大学といえば陸上競技の名門校である。その後、スタンフォード大学で経営学修士を取得しているが、ナイキ創業以前の「ブルーリボン社」は、ポートランドで設立した。著者がスポーツシューズ事業を始めた背景には、運動選手としての経験と日本製品の技術力に着目していたからである。時に1962年、日本のオニツカタイガー社(1949年設立、アシックスに属するシューズブランド)と販売契約を結びスタートした。
SHOE DOGの共同創業者 ――ビル・バウワーマン――
この本には、ナイキ創業に関係した多くの人達が登場する。中でも著者が学生時代から陸上の師弟関係にあったビル・バウワーマンが一番深く長い付き合いで、ナイキの共同創業者になっている。ビルはオレゴン大学陸上部のコーチだけでなく、著者の経営上の相談相手でもあった。特に、早く走る為の運動靴の改良と研究に熱心で、著者とは二人三脚で会社の立ち上げに尽力した。コーチ時代に「タイガーになれ!」とランナーを鼓舞していた。著者が最初に契約した「オニツカタイガー」もタイガー繋がりで、因縁めいた創業である。
SHOE DOGと日本企業 ――オニツカと日商岩井――
ナイキが今日の世界的な企業に成長する過程で、日本の企業と深く関係している。過去に、オニツカタイガー社と仕入れ提携をしたことは既に触れた。その後も10年近く関係は続いた。その間、ブルーリボン社の運転資金不足で8000ドルの借金返済に窮した。その借入金の返済を助けたのが、総合商社の日商岩井(現在の日双株式会社)である。その後、ナイキブランド立ち上げ以降も援助は続いた。現在のナイキ本社はポートランドにあり、東京ドーム4個分の広さで、その一角にある“日商岩井神社”は創業者の謝意の証しでもある。
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