図書紹介
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ホーキング、宇宙を語る  ――ビックバンからブラックホールまで――
(スティーヴン・ホーキング著、林 一訳、(株)早川書房、2016年11月15日発行、第21刷、270ページ、740円+税)

デニマルさん : 6月号

今回紹介する本には、数々のドラマと未知との遭遇がある。著者は、「車椅子の物理学者」として知られているイギリスの宇宙物理学者である。特に、宇宙の始まりについて先進的な理論を提起して、現代宇宙論に大きな影響をもたらせた。それと21歳の時に「筋委縮性側索硬化症(ALS)」の難病に侵され車椅子の生活を余儀なくされた。更に、43歳で重度の肺炎から気管切開手術をして音声を失っている。1985年の33歳の時に来日している。その著者が2018年3月14日に逝去された。ここで紹介する本は1988年に発表され、35ヶ国語に翻訳されて1,000万部も売れたベストセラー本である。日本語化されたのは、1995年4月であった。この本は、未知なる宇宙の謎を誰でも理解出来る様に分かり易く書いている。それでも宇宙の成り立ちを理解するには、相当専門的な智識が求められる。宇宙理論や物理学等に全くの専門外である筆者は、素人の立場で理解すべく未知との遭遇にチャレンジした。それでも、この本にある「不確定性原理」や「素粒子と自然界」や「時間の矢」等は興味をそそられたが、理解出来たのか不安がある。著者が過去に発表された相対論と量子論を一体化させた宇宙論は、画期的なものである。しかし、この理論を実験等で立証することが難しいとの理由で、著者がノーベル賞の受賞には到らなかったと言われている。しかし、著者は万有引力を説いた物理学者ニュートンや進化論を発表した自然科学者ダーウィンと並んで、ウェストミンスター寺院に埋葬された。著者が亡くなられた3月14日は、相対性理論のアインシュタインの誕生日であり、共に享年76歳だった。この本は、宇宙の誕生から、空間と時間、相対性理論、量子力学、ニュートリノ、素粒子等が織りなす宇宙論を学べる入門書であり、チョット難しいが一度はチャレンジしてみたいお薦めである。

ビッグバンから         ――宇宙の始まりの話――
宇宙の始まりは、約150億年前に起こった大爆発によって生まれた宇宙起源説で、火の玉宇宙論とも呼ばれるビックバン・モデルである。著者は「宇宙起源を探求してはならない。その創造は神の御業だから」と教会法王の言葉を記している。その後、火の玉は時間の経過と共に温度が下がって宇宙が誕生して、約50億年後に太陽の周りに地球等の惑星が出現したと書いている。そして硫化水素等の有害ガスが無くなり酸素を放出して、生命ある魚、爬虫類、哺乳類等が誕生し、人類の様な高次の形態へ発展したと宇宙の歴史を語っている。

ブラックホールまで       ――脱出できない領域――
ブラックホールは星のライフサイクルを理解すると分かり易いという。星は大量の気体(主に水素)が重力で凝集して、崩壊する時に形成される。その過程で気体が熱されて星が輝く。その輝く熱が冷え始めると星は収縮する。その星の収縮によって表面の重力場も強くなって光が星から脱出出来なくなる。その結果、全ての物が重力場によって引き戻される事象が発生するという。この時空の一つの領域がブラックホールである。このブラックホールは余り黒くない事やブラックホール放射の話もあり、ご関心のある方はご一読下さい。

ホーキング博士の業績       ――宇宙の神秘を理論化――
先ず著者の業績の一つが「特異点定理」の理論であると書かれてある。この本で特異点とは、「時空の湾曲率が無限大になるような、時空の中の点」と解説している。もう少し書くと「ブラックホールの中心や宇宙の始まりは、大きさがなく密度が無限大の点が点在する。」それを数学的に示した。それは宇宙総体の構造を相対性理論で示し、極度に小さい現象を表す量子力学を組み合わせた「統一理論」で説明している。一般相対性理論と宇宙には神でなく時間が存在する前提で証明している。宇宙も時空も未知なる神秘的な世界である。

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