妻に捧げた1778話
(眉村卓著、(株)新潮社、2017年12月20日発行、第15刷、206ページ、680円+税)
デニマルさん : 5月号
今回の本を購入して読んだのは、昨年末である。諸々の事情で、紹介するのが遅くなった。この本が最初に発売されたのは2004年5月、現在まで14年もの歳月を経て15刷となっている。その間この本は知る人ぞ知る静かなブームがあって、2010年に「僕と妻との1778話」と題して映画化(監督:星護、出演:草なぎ剛、竹内結子他)された。肝心な本の内容であるが、題名にもある通り「妻に捧げた1778話」のショートストーリを19編に纏めて、その書いた経緯や背景を綴ったものである。著者は、SF作家として有名な眉村氏である。
この話を書くキッカケとなったのは、眉村夫人が進行性の悪性腫瘍で余命1年と診断されたことに始まる。著者は夫人の病気回復を願って、お百度参りをする様に『日がわりの一話』を書き始めたという。時に1998年5月である。それも読者を奥様一人に限定して、毎日原稿用紙4枚(実際は6枚になっていた)に、エッセイでなく小説として書き上げる決意をした。その内容も商業誌に掲載出来るレベルを保持すると宣言してスタートした。余命がある限り続けるプロの作家としての出筆作業である。その間も作家として創作活動や大学での講師としての仕事も並行的に続けられた。この一日一話の話は、読者限定でもあり、世間の目に触れることは無かった。しかし、記録として自主出版したものが人の目に触れることになった。それが、ある出版社に注目されて「日がわり一話」として出版された。その年の9月に第2話も出版され、奥様の健康も旅行に行かれる程に回復された様に思われた。しかし、2001年9月の「眉村卓・悦子夫妻を励ます会」(東京会館)後、入院されて帰らぬ人となった(合掌)。この1778話目が2002年5月28日で、1話から数えて4年と11カ月16日であった。そして、この本は2004年5月の悦子夫人三回忌に発売された。
妻に捧げた話とは ――毎日一話のショートショート――
著者はSF作家であるが、同じジャンルの星新一氏と共にショートショート小説の分野でも知られている。このショートショートとは、小説の中でも「①短い作品、②新鮮なアイデア、③完全なプロット(物語の流れ、大筋)、④意外な結末、⑤不思議な物語」と事典にあった。最近では「ショートショート大賞」なる文学賞(キノブックス主催)もある。小説である以上エッセイや日記と違い、場あたり的な記述でなく物語としてのストーリが必要である。それを毎日書き続けて5年弱、時には読み聞かせたとも言うから凄いことである。
妻に捧げた1775話とは ――「話を読む」を読み返してみる――
その本の終わりに、「話を読む」がある。この物語は、主人公が病気の妻に毎日短い話を書いている。そして、その話を聞かせている。その妻は聞くともなく眠っている。主人公は最新作を読んでいるが、最近は聞いて貰えない日が続いている。だが、今日は妻が目覚めて話を聞いて呉れているではないか。妻とのささやかな会話を交わした様な気がした。そこで目が覚めて「夢」であることが分った。主人公が看病疲れと妻が早く良くなって貰いたい気持ちが重なった劇中劇の様な内容である。小説内容と現実が混在した筋書きである。
妻に捧げた1778話とは ――「最終回」と「あとがき」を結ぶ――
この本の宣伝用オビ文に「カズレーザーさん大絶賛!15年振りに泣いた」とある。このカズレーザーさんとは、人気お笑いコンビのメイプル超合金のボケ担当のタレントである。読書家としても知られるカズレーザーさんが、2017年11月のテレビ「アメトーーク!」番組で、お薦め本として紹介したという。この本の最終回では、著者の想いが熱く詳細に書かれてある。「とうとう最終回になってしまいました」で始まり「また一緒に暮らしましょう」と結んでいる。ここに書かれた文章は読んでのお楽しみだが、奥深い筋書きの内容である。
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