例会部会
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『第233回例会』報告

増澤 一英 : 6月号

日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、4月に開催された第233回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日: 2018年4月27日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「アダプティブマネジメント」 ~事例からみる共創のマネジメント~
講師: 向後 忠明 氏/ナノカ(株)技術顧問、PMAJ理事

今回の例会には、ナノカ株式会社の技術顧問でPMマイスターの向後忠明氏を講師としてお迎えしました。アダプティブマネジメントの本質は不確実性を伴う対象を取り扱うための思考と言えます。要求が様々な分野にまたがる、漠然とした要求や不明瞭な使命、といった未知数の課題を抱えるプロジェクトを取り扱う場合のマネジメント手法です。
講師はこのようなプロジェクトへの取り組み方を、事例を用いて解説されました。

~アダプティブマネジメントの思考要素~
 
アダプティブマネジメントのポイントは2段階の要素で考えることです。まず一つ目はCreative Thinking(Design Thinking)によって、潜在的な問題を見える化する思考で、洞察力と発想力が力を発揮します。次に、見える化された課題を具体化する思考で、これをLogical Thinkingといいます。漠然とした課題の解決に、これらの思考ステップを融合したハイブリッドな手法を適用していくのがアダプティブマネジメントです。

プロジェクトの持つべき課題は、技術の変化、産業構造の変化、新たな価値創造、グローバル化、といった、企業を取り巻く環境の変化に対応することが求められます。そのため、より早い時期から、より足の速いプロジェクトの遂行が求められるようになりました。プロジェクトの目標が漠然としていても、課題を解決しつつ目標に向かうプロジェクトが否応なしに増えています。
 
このようなプロジェクトを進める場合に、プロジェクトの課題を見える化し具体化する過程でPMに求められる基本的な行動特性に変わりはありませんが、アジャイル手法のような問題発見と対応を柔軟に行うスキルに加えて、人間的な要素、とりわけ、発想力や判断力、リーダーシップ、が重要になります。プロジェクトを最適にマネージするには、プロジェクトの課題と問題を見える化し具体化することを、客先、あるいは、外部のステークホルダーと共に進めることが必須であり、『共創のマネジメント』の所以でもあります。

~意思決定~
 
講師は、目標の明確化までの思考の流れ、つまり、発生する事象から、その状況分析、原因分析、そして、将来の姿を見据えたGap分析のサイクルを回して、要件と施策を決定することが重要だという点を力説されました。その過程で用いられる手法は、決して新しいものではありませんが、ブレーンストーミング、情報の整理、ニーズと原因の具体化、課題の抽出、SWOT分析、SMARTの原則、そして、リスク分析であったと思います。どこまでが自社で可能か、専門ベンダーを起用するのはどの部分か、ベンダーへの具体的要求は何か、といった点を極限まで具体化して、プロジェクトの目標を明確にし、遂行につなげるのが、この意思決定サイクルの命題だと思いました。
 
1980年代に講師が携わった、当時ブームになっていた人工知能を利用したエクスパートシステムを化学プラントに導入するという事例と、これに、最近のAIやIOTの利用も取り入れた想定事例が紹介されました。想定事例では、アダプティブマネジメントを利用した場合の具体的な手順と、効果について詳しくお話しして頂きました。
 
当時の技術は未熟だったようで、結局、実際の成果はシミュレータになり、新人の訓練用として整備されることになったようですが、このようなプロジェクトではアダプティブマネジメントを活用することは成功に不可欠だと理解しました。この事例で講師が伝えたかったのは、AIやIOTに知見を持つ皆さんに、是非アダプティブマネジメントを適用していただいて、講師のできなかったプロジェクト成果を上げてもらう事、ではないかと思います。

~プロジェクトの実行~
 
事例や講演から理解したのは、アダプティブマネジメントは、所謂、フィージビリティスタディーと重なるイメージです。目的と技術要件が具体化された後は、目的が明確なプロジェクトに移行していきます。コマーシャル的にはこの時点では損益見込みが明確になりますのでプロジェクト契約はランプサムになることが多いとのことでした。それ以前のアダプティブな手法が関与するステージでは、実費精算のプロジェクト契約が、発注者、受注者の双方に公平・幸福なものです。講師は、契約形態の難しさや見誤りも、ご自身の事例で紹介してくださいましたので、現在のプロジェクトをアダプティブ思考なしに進めることの危なさも十分理解できました。
 
アダプティブマネジメントとは、オーナー、コントラクターの双方に有益で最適なプロジェクト成果を残すために、双方がプロジェクトの構想時から課題を共有し、最適なテーマと成功指標に向かってプロジェクトを実行するための手法であること、そしてそれは現代のプロジェクトマネジメントにとって、まさに必須なスキルであることが理解できたというのが自分の感想です。

~おわりに~
 
講師は、PMAJ主催の講演やPMマイスターの集い、PMAJオンラインジャーナルへの寄稿などを通じて、アダプティブマネジメントの手法や事例を紹介されています。また、今回の例会の資料は「PMAJライブラリ」に掲載されますので是非ご覧ください。
 
最後に、部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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