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心に残る言葉を使う力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 5月に開催された女性の為のリーダーシップ・セミナー「WINコンファレンス」(WIN= Women’s International Networking)に出席した時のことだ。久しぶりにあった社外の知人と、こんな会話をした。
知人: 「『インド訛りの英語は、慣れれば聞き取れるようになるので、大丈夫。』井上さんが以前私に語ってくれたこの言葉、よく思い出すんですよ。」
私 : 「え?いつ、私、そんなこと言ったっけ?」
知人: 「TOMODACHIプログラム*で、個性の違いに応じたコミュニケーションスタイルを学んだ時ですよ。2013年ぐらいだったと思います。私と井上さんが同じ個性のグループで、私がその時、営業の仕事でインド人と接することが多いのだけれど、彼らが英語で話す内容が聞き取れないので困っているという話をした時ですよ」
(*TOMODACHIイニシアチブ=公益財団法人 米日カウンシル-ジャパンと東京の米国大使館が主導する官民パートナーシップで、日米の次世代のリーダーの育成を目指すイニシアチブ)
私 : 「すっかり忘れていたけれど、確かに、そう言ったね。ちょうど、会社の研修生に同行して、2年連続、数週間インドに滞在した後だったから。でも、そんな前に言ったこと、よく覚えているね。」
知人: 「覚えていますよ、しっかりと。しかも、外国人に接する度に思い出すだけでなく、当時の私と同様に困っている後輩にも、そのことをよく伝えているんですよ」
私 : 「何気なく言った言葉が、そんなに影響を与えているなんて、、、嬉しい!」

 私自身、これまで、何人もの人に、心に残る言葉を贈ってもらった。そのことで、困り事を解決するヒントを得たり、元気づけられたり、成長をしてきたりした。彼女との会話がきっかけになり、私に影響を与えてくれた人々の顔と言葉に思いを馳せることができた。
「成功を確信しています」
社内異動を決めた際に、同期の男性がメールに書いてくれた言葉だ。相手に対する信頼があって、初めて言える言葉だ。「彼がそう思ってくれているのなら、私、きっとできる。」そんな自信―自己効力感につながった。
私も先日、ある人に、この言葉を贈った。海外での英語でのプレゼンの準備を手伝った社外の友人だ。準備のために、彼女は、平日の夜や週末の時間も、そして、自分のお金もかけた。私と一緒に文章を練り、私が吹き込んだ音声を何度も繰り返し聞いて、リズムや抑揚や発音を身につけていった。もちろんプレゼン慣れしているネイティブの人と比較すると、プレゼンのレベルは落ちる。しかし、あの時点でできることは全てやりきった彼女に、私は、心から感服していたし、ベストを尽くしたということに基づく自信を持ってもらいたかった。
「多恵ちゃんならできるから。お父さんはそう思っているよ」
これまでの人生の中で何度も落ち込み、「勉強ができない」「仕事ができない」「会社をもう辞めようかと思う」と泣き言を吐いていた私に、父親が伝えてくれた言葉だ。親ばかの表現と言われればその通り。でも、全幅の信頼は、暗闇にいた私に、光を与えてくれた。自分に対する自信をすっかり失っていても、誰かが見捨てないでいてくれる、その事実は元気を取り戻すきっかけを与えてくれる。
「もう既にできているから」「どうせできるし」
外部で通っている勉強会の先生が、最近よく使う言葉だ。彼によると、これらは、無意識に働きかけ、自分に許可を与える表現だと言う。何かにチャレンジする時に、肩に力が入ってしまうことがある。そんな時、ふっと気を楽にしてくれる効果がある言葉だ。「できないかも。難しい。私には無理」と言うと、できないように、無意識が誘導してしまう。「もう既にできているから」と言うと、できている世界をイメージしやすくなる。「見える」ことは「できる」から、この言葉を使うことで、成功に一歩近づくのだと思う。

 前述した「WINコンファレンス」からは、子育て時に、子供に贈る言葉の大切さを学んだ。ノルウエー出身で、ノルウエーの企業の中国支店のヘッドを現在勤めている女性は、スピーチの中でこう言った。「私は母親から、『You can do anything. 』」(あなたは何でもすることができます。 ところで、エンジニアになって。)と言われて育ちました。そのおかげで、数学が得意だった私は、エンジニアになることができました。現在NY Timesのダイレクター(部長級)の別の女性は、自分の3人の娘に同様な表現を繰り返し伝えているという。「『Anything you want to do, you can do. 』(したいことは、なんでもあなたはできるよ)」と。自分がやりたいことを実現している人に、こういう言葉をかけられて育つと、自己効力感が強くなる確率が高まる。
 どんなタイミングで伝えるのか、言葉にどう感情をのせて伝えるのか、ということも、相手への影響力を左右する。今、どんな言葉を目の前にいる相手にかけると、その人の成長に、元気づけに、最適なのか、意図を持って言葉を発することができるようになりたい。

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