理事長コーナー
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未知の課題への挑戦とP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :4月号

 誰も経験したことのない課題「未知の課題」に挑戦することは難しい。環境は変化し、その変化が課題自体にも影響を与える。挑戦は永遠に続きかねない。少し古いが、2007年9月発刊の本「課題先進国日本~キャッチアップからフロントランナーへ~」(三菱総合研究所理事長小宮山宏氏、元東大総長)がある。いわく、「日本は環境問題や少子化、高齢化、地域の過疎化、エネルギー供給問題などといった、他の国がまだ直面していないレベルの問題をいくつも持つ課題先進国である」。マスコミでもかなり取り上げられ、話題になった。

 その出版から3年後の2010年には、日本は人口のピーク1億2千8百万人を記録し、それ以降減少に向かっている。小宮山氏の発刊が5~6年後であれば、恐らく「日本の人口減少」問題も主要テーマとして取り上げられたことであろう。人口のピークを打った翌2011年に、日本は、東日本大震災に襲われている。その後内閣総理大臣に就任された野田佳彦氏が、復興・復旧を目指す際に、また政策アピールにも、この「課題先進国」を度々使われていた。

 小宮山氏のいう “キャッチアップ”とは、先進国としての海外と接するようになった戦国時代以降、綿々として続けてきた課題解決のアクションのことである。お隣の先進国へのアプローチは、古代の遣隋使から始まった。戦国時代は“蘭”から、幕末には“英仏独露”が加わった。そして、戦後、“米国”から多くを学んで来ている。まず先進国に学べ、日本の風土に合うように“変換”して利活用してきたにせよ、一貫して“外に学ぶ”姿勢は変わらなかった。1990年以降、日本のバブルが崩壊し“失われた20年”を経過しても、期待する充分な経済成長を遂げられなかっただけでなく、今や停滞感すら漂っている。

 小宮山氏は、“キャッチアップ”に対し“フロントランナー”の心構えをもち、他から学ぶより、自分で考え、行動する事が肝要だと提唱された。“フロントランナー”は向かい風をまともに受け、思うようにすすめない。初めての課題も多く直面する。多くの失敗を重ねることにもなる。それには、物事の本質が何かを探索すること、その為の試行錯誤を粘り強く繰り返す、それを支えるエネルギーを維持し、そして何より先頭に立ち、挑戦するこころの強さが欠かせない。知力、体力、気力、勇気だろう。ただ、その行動の目的、目標を定めずに無暗に進んでも好ましい結果は容易に得られない。過去にない課題を解決し、イノベーションを生むことが重要だ。

 P2Mは、このような未知の課題に挑戦することを選択肢とした方法論だ。目的、目標、予算、期間、対象範囲を定義して“実行する”のがプロジェクトであり、その方法論がプロジェクトマネジメントだ。課題解決のため、複数のプロジェクトの最適化をめざし、統合的にマネジメントする体系がプログラムであり、プログラムマネジメントである。プロジェクトの上位概念だ。プログラムマネジメントでも、既知の対象に挑戦する場合と未知や初めてのテーマに創造的に挑む場合がある。P2M改訂3版では、前者をオペレーション型、後者を戦略型と定めている。アプローチが違ってくる。今、ここで話題としている未知の課題の解決は、この戦略型プログラムマネジメントだ。

 議論があると思うが、日本最大の社会課題は、人口減少、少子化、高齢化、少数の生産人口で多くの高齢者を支える社会の出現が同時に起きることだと思う。世界のどの国にもない、世界初、未知の課題である。部分的なテーマでは、海外に学ぶこともあると思うが、それだけでは有効な策を見つけられないだろう。モデルのない課題だ。“フロントランナー”として、体当たりし、あきらめずに試行錯誤を繰り返す。このことを、仲間を見つけ、巻き込み、一緒に進めることだ。

 このような元来難しいテーマは、どのような手法、方法論を適用しても困難を伴うだろう。ただ、壮大な社会テーマの中だけに“未知の課題”が存在する訳ではない。我々の日常的な仕事の場においても、“小さな未知の課題”は山のように存在する。これらを、“フロントランナー”の心構えをもって少しでも解決し続けることだ。この時、P2M戦略型プログラムマネジメントは有効な方法論だ。

以 上

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