理事長コーナー
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デジタルトランスフォーメーション

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :3月号

 今秋のPMシンポジウム2018(9月13~14日)の大会テーマは「デジタル変革に挑む」である。このテーマに基づく学会からの基調講演は、日本初の“データサイエンス”を掲げた学部を創設した滋賀大学のデータサイエンス学部長 竹村彰通教授にお願いした。一方、産業界からは、かねてよりビジネスエコシステムの重要性を主張されている日本ユニシス株式会社 平岡昭良代表取締役社長にご了解を得た。両講演者とも大会テーマにふさわしい基調講演者であり、興味深い講演が期待できる。

 “データサイエンス”と“デジタルトランスフォーメーション”は、元となる単語の“データ”、“サイエンス”、“デジタル”は、カタカナ日本語である。最後の“トランスフォーメーション”は、日本語としては最近まであまり使われなかったが、なんとなく変化や変革を表す言葉だろうと推測される。以上の単語を各々合体してみると、良くわからなくなる。“データ”と“サイエンス”は、日常よく見聞する用語だが、“データサイエンス”と一語になると専門用語だ。“データサイエンス”は、ビックデータを処理・分析することで価値創造を狙うという意欲的な内容を示す。そして、それを行うプロフェッショナルである“データサイエンティスト”にとって必要なスキルは、業務を経験し理解し遂行できる「ビジネススキル」は当然として、そのほか「統計解析スキル」と「ITスキル」が必須三要素だという。この全スキルをカバーすることが要求されているが、一人ではかなり難しい。

 「統計解析スキル」とは、目の前にある現象を分析し、ある特定の傾向や関係を見つけ出す能力だ。“統計学”と“機械学習”を駆使してデータモデルを見出し、それを構築し、第三者に分かり易く示し説明することだ。大学の初年度に学んだ“統計学”は、私の個人的経験だが、全く興味を持てなかった。その本質が漠然とした大量データの中から何らかの傾向や関係性を見出すと云う興味深い学問だとは考えていなかったからだ。当時は、アナログ社会だった。今はコンピュータ抜きには考えられないデジタル社会だ。統計も、ビッグデータをデジタル的に処理する時代に入った。

 ある仮説を立て、少量のデータでの推論では間違って見えても、データ量が増えるにつれ徐々に背後に潜む傾向や関係が見えてくることも多いであろうことは容易に推測できる。“機械学習(machine learning)”は、まさにこのようなイメージでデータを処理し、解析し、有用な傾向や関係を導き出す事をいう。“機械学習”の目的は、「訓練データから学んだ『既知』の特徴に基づく予測」だ。一方、重なる部分が多い技法に“データマイニング”がある。その目的は、「それまで『未知』だったデータの特徴の発見」である。多くの技法が両者でそれぞれ使われるので、混同されることが多いようだ。いずれの方法とも、AIやIoTにとって欠かせない技法である。“機械学習”に“予測”が必須なのだ。

 「ITスキル」に関しても日本は問題を抱える。大学で情報系、IT系を学んだ学生の多くは、SIerと呼ばれる業界に偏って就職し、ITを利活用するユーザー業界には多くない。当然の帰着として、業務へのITの利活用が充分でなく、IT主導の業務革新も進まない。(IPA「IT人材白書2016」)さらには、次世代を担う「優秀な大学卒業生をITのキャリアに向かわせている」米国や欧州と比べて、日本は就労人口にしめるIT人材の比率も多くない。IT利活用度でも後れを取っているので、悪循環に陥っている。(「アジャイル開発の道案内」第1章、近代科学社) ITスキルは、多くの場合、業務に充分に精通していない外部SIerに依存せざるをえず、その業務、業界を熟知して先を見越した先鋭的で価値創造に繋がる仕組みを作れないことになりかねない。

 一方、“デジタルトランフォーメーション(Digital Transformation)”は、Prof. Erik Stolterman(Umea University、Sweden)により2004年に提唱された。これには、3フェーズの発展段階があるとした。第1フェーズは、ITを利活用して業務プロセスを強化する段階だ。多くの企業や組織がIT抜きの業務遂行は考えられない。すでに多くの日本企業は、程度の差こそあれ、この段階に達していると云えるだろう。第2フェーズは、業務をITによって置き換える段階だ。身近な処では、ATMや駅の改札など既に色々な業務システムと繋がるITは必須ツールとなっている。

 第3フェーズは、業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態としている。度々このオンラインジャーナルでも取り上げている、AI、IoT、ビッグデータなどが実社会への適用が進むにつれこの第3フェーズの状況が社会に広がって行く。その実現が、Digital Transformationである。「企業が(デジタル)テクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させた時がデジタルトランスフォーメーションだ」(米国MIT Sloan School、Digital Economy主席リサーチ・サイエンティストGeorge Westerman氏)。AmazonやSoftbankは、本の通販で創業し、完全に事業転換したデジタルトランスフォーメーションの体現企業の典型だ。

 AIは第三次ブームの中にあると言われる。IoT、ロボット、ビッグデータ処理も期待されているテクノロジーだ。しかし、これらを担うべき先端人材の大量不足が心配されている。これから“データサイエンス”を冠とする大学や大学院の学部、学科が急速に増えねば対応できない。

以 上

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