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シニア・プロジェクト(パーソナル・プロジェクト)
野菜作りにおけるプロジェクトマネジメントの知見

プラネット株式会社 シニアコンサルタント 中 憲治 [プロフィール] :4月号

私のパーソナル・プロジェクトの一つに20年以上前から続けている「野菜作り」がある。当初は6坪程度の市民農園での野菜作りだったのだが、現在では市民農園近隣の農家から畑を借り、約50坪の畑で野菜作りを行っている。昨年までは20坪程度の広さであったが、隣で耕作していた人が高齢を理由で辞めた後を引き継ぎ、片手間では行えないほどの規模となった。
昨年の2月から4月に掛けては、シニア・プロジェクトと称してヨーロッパ・アジアを旅していたため、春野菜の準備が遅れに遅れ、野菜の出来が今一であった。この教訓から今年の春野菜準備は、旅行に行きたいのを堪えて、畑の土壌づくりに専念した。
農作業は、繰り返しのオペレーションだと思われがちであるが、私はこれこそパーソナル・プロジェクトだと確信している。今回は、農作業とプロジェクトマネジメントの親和性について書いてみたい。
野菜作りは成果物も3ヶ月から6か月で収穫され、繰り返し行われるためオペレーションの性格が強い。しかし畑の利用においては、1年を周期としたスケジューリングを組まなければならないし、連作を念頭に置くと数年単位でのスケジューリングさえ必要となる。
また、新たな野菜に取り組む、長期間に渡る土壌改良、そして前年の失敗を翌年に生かすための改良などを考えれば、プロジェクトの要素が強い。野菜作りにおいて活用できるプロジェクトマネジメントの知見(スキル・知識)としては、1.計画策定の重要性「段取り八分」2.作業の依存関係とリード・ラグ 3.テーラリングの3つがあげられる
1.計画策定の重要性「段取り八分」
野菜作りにおいて何が最も重要かと問われれば、「土壌づくり」と即答できる。「土壌づくり」にはプロセスが幾つもある。①掘り起し②寒ざらし③腐葉土などの漉き込み④消石灰などによる中和⑤堆肥の漉き込みなどである。秋野菜や冬野菜の収穫後に、連作障害を予防するため次の野菜植え付けレイアウトを作る。これに従い①から⑤までの工程の作業を行っていく。②寒ざらしは土壌に潜む害虫などの卵や幼虫を退治する大切な作業で、野菜に発生する害虫による被害を防ぐ予防対策である。
この①から③までの工程は、春野菜の植え付けである3月中旬から4月から先立つこと3ヶ月前の12月から翌年2月末までの冬の季節に行う所要期間3ヶ月の作業である。
この「土壌づくり」の出来如何で、成果物(野菜)の収穫量、品質の出来栄えの八割方は決まると言ってよい。まさに「段取り八分」である。
2.作業の依存関係とリード・ラグ
「土壌づくり」の①から⑤の作業の依存関係は、前後関係である。各作業の順番が前後することはまずないし、並行関係もない。これらの作業の後に⑥種まき・苗の植え付けがある。野菜によっては、土壌に直接種をまく直播もあるし、苗を植え付けるものもある。苗を植え付けるものについては、③腐葉土漉き込みや④消石灰による中和と並行して種苗ポットへの種まきを行うがこの作業はリードである。リードを行う理由は苗の植え付け時期には、気温の最適時期がありこれに合わせる為である。
一方、ラグは④消石灰による中和と⑤堆肥の漉き込みの間、および⑤堆肥の漉き込みと⑥種まきの間に設置する。④と⑤の間は約2週間、⑤と⑥の間は約1週間とされる。
このラグは必須であるが、野菜作りの初心者はこれを間違う。畑を借りると、土を耕し、石灰をまき、肥料を施し、そして種をまく作業を一日で行うことが多い。
このラグの時間が野菜の出来高、品質を左右することを知るのは不作を体験した後となる。
3.テーラリング
野菜作りに関しては、PMBOK®に匹敵するようなガイドブックも多く存在する。Web検索を行えば知識は幾らでも得られる。しかし、そのまま自分の野菜作りに適用してもうまくゆかないことが多い。私の農園があるところは茨城県守谷市、都内とは2~3度は気温が低い。地元の農家の人は、野菜の種まき・苗の植え付け時期について経験則を持っている。例えば①ジャガイモの植え付けは3月10日から春分の日まで。理由は、ジャガイモの新芽が遅霜による被害を避ける為。その植え付ける時期が早い場合は、少し深めに植え付け、遅い時はやや浅めに植えつけること。この地方の遅霜の最後は4月中旬であることを考慮して、このような植え付け時期を経験則として持っている。野菜作りのガイドブックにも、遅霜に注意との記載はあるが、この地方の遅霜についての記載はない。ガイドブックにある基本知識をベースに、地元の農家の人の知見そして、その年の気候の傾向までも考慮して、自分なりの植え付け時期を決めていくことが求められる。その他にも、地元の農家の方の知見がある。②秋野菜の白菜の種まきは8月25日、③同じく大根の種まきは9月3日。この時期を外せば、秋は一気に冷え込んでいくので、苗の生育に影響を与える。満足のいく野菜が出来ないことは、私も長年の失敗経験から学んだことである。「野菜作りパーソナル・プロジェクト」から得られる教訓は沢山ある。
以上

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