PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (90) (実践編 - 47)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

 先月号では菓子メーカの企業再生について話をしてきました。
 モデレータとしての筆者のアドバイスの仕事が終わり、菓子会社C社は与えられた要件設定に従い、実際のプロジェクト活動に入ろうとしていました。
 そして、プロジェクトマネジメント研修で学んだ手順に従って計画書の作成を行い、それに従ってプロジェクトを進めればよいという段階になっていました。
 後は、プロジェクトのマスタースケジュールに従って作業を開始することになります。このスケジュールからみて、その優先順位は、既存の製造機械の一年後のリースアップの時期を考えていた製造機器の納期や設置工事であり、そのため機械の発注を急がせる必要がありました。
 一方、不採算店のリストラまたは撤退を含む店舗展開も製造機器に関する各作業などと同時並行に行う必要もあります。
 要するに最初の一年で仕上げる作業内容が非常に錯綜することになり、優先順位とお互いの作業関係を見ながら仕事を進めなければなりません。
 そのため、この一年が筆者の会社(リース会社)にとってもこの製造機械の仕事を受託するための重要な期間でもあります。そのような事情から機械発注に関する作業にも注視するようにしました。
 何故なら、C社の社長はこれまでの筆者の協力に感謝し、製造機械のリースに関する発注を随契の形で委託してくれる約束をしてくれていたからです。
 この時期になり、プロジェクトの全容もはっきりしてきたこともあり、筆者は会社に本プロジェクトの内容やいきさつを話ができるタイミングと思い、社長にそのことを伝え、正式に稟議を取ることにしました。
 ところが、社長からの話ではこの種の仕事は基本的に審査部を通すといったルールがリース会社として決められているとの説明がありました。
 筆者としては顧客であるC社との協力でほとんど受注できる状況まで来ているのになぜ審査部にも話を通すのかわかりませんでした。
 そのため、これまで本件に関しては審査部にあまり話をしていませんでした。

 早速、必要書類の作成を行い担当の営業と一緒に審査部に行き、書類の提出を行い、プロジェクトのいきさつと本件が随契で受注できることなども説明しました。
 ところが、審査部にとってはこの種の仕事は初めてであり、また対象となる機材の審査のできる人材もいませんでした。
 しかし、審査部の担当は、C社の売り上げが必ずしも計画通りにいくかどうかわからない。そのため、いくら随契と言ってもこの会社のために機材の供給をしてよいか今の時点では判断できないとのことでした。
 確かに、審査部の心配はその通りであり、筆者ももう少し待って、C社の計画に従った動きと売り上げ状況を製造機械の交換のぎりぎりのところまで見ることとしました。
 もちろん、その時は筆者も営業担当もC社に対する協力をできる限りしていきました。
 そして、いよいよ製造機械の納期や工事期間などを考慮した交換に必要な時期が迫ってきました。
 一方、C社の計画も予定に従って進められ順調に進捗していましたが、売り上げについてはこの時点では、不採算店のリストラまたは撤退などが影響し以前より低下傾向にありました。
 しかし、スケジュール上、機械の発注に関してはかなりクリティカルな状況となってきたので、再度審査部との話し合になりました。
 審査部の担当者は前回と同じ人達でしたが、部長と技術系の人が来ていました。この技術系の人は今回の対象となる製造機械についての知見もないIT系の人でした。その彼がとんでもないことを言い出しました。
 「当社は基本的にリース対象としているものは大手の顧客に対するものであり、このような中小の菓子会社は対象として考えていない」
 これに輪をかけて、審査部長は:
 「売上の上昇がみられないし、今後どうなるかわからないようなところには機材のリースは行わない。」
 とのことでした。
 筆者は新規開発室としてこの会社の新たな事業を創生するということで動いていたのにも関わらず、これまでの活動を全く否定する言葉を聞いてがっくりしました。
 この件を早速、社長のところに出かけ、審査部の意見を説明し、審査部がだめでも社長が承認すればよいことだろうと思い、社長を説得しました。
 しかし、社長も「審査部が不許可を出したらそれに従ってくれ」とのことでした。
 確かに、このプロジェクトは2~3年後の売り上げや経営状態が今の時点では不明な部分もありました。
 これは、本案件のSWOT分析を行った時点において、このプロジェクトの「脅威」となる部分として以下のようなことを提言しました。
古い人たちの抵抗、リストラに対する抵抗、急激な改革による従業員の不安ややる気の減退
不採算店のリストラまたは撤退を含む店舗展開が原因での売り上げ減少

 ①についてはは問題なかったが、②の部分において将来の売り上げに問題ありということが審査部の目に留まったのだと感じました。それが本案件の却下の原因となりました。
 確かに将来の売り上げについては費用対効果検討においても「こうなるだろう」といった想定で作成しています。
 もう一つは中小企業ということの不安も出てきましたが、これは根本問題ではなく、やはり金融業や当社のようなリスクを恐れる会社の偏見にあると思いました。
 このようなことがあり、筆者は早速C社の社長に審査の結果を説明するとともに平身低頭で謝ることになりました。
 しかし、C社はこれまでの協力に感謝してくれました。筆者はほっとするやら情けないやらの思いで一路会社に戻りました。
 もちろん、C社としては当社からの話を聞いてあきらめたわけでなく、これまで付き合いのあったほかのリース会社と接触を図り、難なくその会社と契約し、調達を計画通りに行い製造機械を工場に設置しました。
 設備が完成するころには徐々に売り上げの向上も期待されるようになりました。
 筆者はその後の進展を見ながら別の仕事に着手していました。

 いずれにしても、このプロジェクトにおいての筆者としての失敗は将来売り上げの予測の具体的な根拠を示すことができなかったことと思います。
 しかし、ほかのリース会社は筆者とC社で作った企画書でリース契約をしたということを考えると、筆者のいる会社の新ビジネスへの対応ということでは現状維持以外の何ものでもないと思いました。
 あまり、リスクばかりを考えているとせっかくのビジネスチャンスを失うことになると思います。実際、C社は2年目以降になると売り上げも計画以上のものとなり、新しい規格での製品や売り場の確保もでき、経営的にも大分良くなったようです。
 そのことを考えると筆者のやってきたことは決して悪くなかったと思っています。
 もし、筆者がC社の人間であれば思い通りにできたと思うし、最後までこの案件をプロジェクトマネジャでやりたかったです。
 まさに、最後までこの案件をやるということは、スキームモデル、システムモデルそしてサービスモデルまでを一気通貫でやった事例となったはずです。本当に残念でなりませんでした。
 しかし、現在のビジネス及び社会環境の変化を考えると、スキームモデルに相当する作業ができないと次のシステムモデルやサービスモデルに大きく影響を与えることになることが今回の事例でも読者諸氏にも分かったと思います。

 さて、C社の案件に挫折感を覚えていた頃、社長が筆者のところにやってきて、「C社の件は申し訳ない」と謝りながら「新たな企業の開設の件について君に手伝ってほしい」と言ってきました。
 そこで筆者は「その案件は審査部とは関係のない案件で社長直下で作業のできる仕事でしょうか?」と尋ねました。
 この頃の筆者は「この会社の業務のやり方は銀行と同じような四角四面でどうしようもない」との疑問を持ち、新たな案件の発掘を行っても、すべて却下されるのではと疑心暗鬼になっていました。

 そのような時の社長案件でした。

 次回はこの話から始めます。

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