PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (89) (実践編 - 46)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 前月号ではプロジェクトのシナリオが設定され、そのために必要な条件を設定し、プロジェクトの要件や目標の設定を行っていくことになりました。
 そして、製造機械についてはシナリオの設定からもリースを前提として考えることにしました。
 このような諸々の条件や状況を考え、リスクはあるものの目的である「売り上げ減少の解消と製造機械の更新」を達成するための具体的目標を設定することにしました。
 ここで目標設定の手法であるSMARTといったフレームを使用してプロジェクト目標と要件の具体的設定をすることが有効であることは前月号で説明しました。

S:Specific(プロジェクト目的、範囲、内容、進め方)
M:Measurable (KGIの達成目標と数値化)
A:Atainable(目標達成可能性、費用対効果)
R:Result-Based(目標達成のための手段と方法)
T:Time-Oriented (期限やスケジュール)

 これ以降は実際のプロジェクトに携わりプロジェクト計画を立案した経験のある人がこの原則に従ってまとめるとより具体的なものとなります。
 プロジェクトマネジメントの計画で最初に考えなくてはならない項目は以下のような内容となります。このことを見てもSMARTの原則に示す項目は参考になると思います。
 プロジェクトの目的は「売り上げ減少の解消と機械の更新」であることはすでに分かっているので検討対象は以下のような項目となります。

誰がこのプロジェクトをまとめるのか?すなわちリーダの選定です。
プロジェクトの枠組として何をどの範囲でどのようなことをするのか
このプロジェクトの達成目標は何か(予算、期間)の設定
このプロジェクトの採算性はどのようになるのか、その可能性の検討(目標予算のFS)
目標の優先順位とその関係と期間を示したマスタースケジュール

 第一に設定しなければならないことはリーダの選定と考え、リーダにはマーケッティングに強い営業から1名そして製造サイドから1名を出して、全体統括リーダは社長がやることで設定しました。
 その理由は本プロジェクトは会社経営そのものにかかわるので社長に統括をお願いし、目的の内容が大きく2つであることからそれぞれの役務のリーダを設定しました。
 なお、プロジェクトのモデレータとしてはこれまで通り、プロジェクト計画段階まで筆者がサポートすることにしました。
 そして、それぞれのリーダの配下として動く担当を数名指名してもらいプロジェクトチームの設置を行いました。
 そして、モデレータによるこの人たちに対するプロジェクトマネジメントの基本について研修を行いました。
 それぞれの担当者は社長が総責任者であることから真剣にこの研修を受けてくれました。
 約1週間程度の研修を行いプロジェクト計画の骨子をワークショップ形式で議論しながら決めていきました。

 このプロジェクトの目的は「売り上げ減少の解消と製造機械の更新」といった2つのプロジェクトから構成されるが、お互いに相関関係があるので、何を優先的とするかを考えなければなりません。それはSWOTの機会(O)に示す「マーケッティング戦略と商品戦略の見直しと不採算店のリストラまたは撤退を含む店舗展開」となります。
 そして、この時に検討する内容としてはマーケット4Pに示した項目であり、ここに挙げた項目の内容で何を優先するかまた重要であるかを先順位を皆で。で議論し、設定していくことにしました。
 その結果、製品の売れ筋の調査はすでに第3者の意見としてモデレータの関係者やC社自身のアンケート調査である程度分かっていたので既存主力製品の見直しから始めました。
 同時にその製品の包装デザインの一新をデザイナーにお願いし、既存店でのテスト販売を開始することを第一としました。
 この結果を見て、ブランド化する商品の選定とその値段の検討を行い、顧客の思考傾向をつかむことにしました。その一方では不満を抱く職人に対しては、彼らを販売現場に立ち会わせ直接顧客の嗜好行動を見させて、自由な発想で新たな菓子商品の開発を行わせ、モティベーションアップにつなげるようにしました。
 そしてプロモーション活動としては、上記に示す活動結果を見て店舗のデザイン一新と顧客誘引を考えた店舗展開、そしてその宣伝/広報活動、遠隔地への拡販を考えた通信販売や新開発店舗などでのテスト販売などの積極的セールス活動を行うこととしました。
 一方、不採算店については上記のマーケット4Pの行動による結果によってどの店舗を閉鎖することにするか決めることとしました。なぜなら、製品の見直しや販促活動により売り上げが上昇する店舗もあると思われるので基本的に1年間は閉鎖せずに活動を続けることにしました。
 一方、製造機械の更新については基本的に上記の各活動の目安が付かないとどのような新しい機種が必要かまたは既存と同じ機種を残すかの決定はできません。
 しかし既存設備のリースアップまでの期間があと一年であり、それまでに更新を工場の稼働を続けながら更新も早めたいといった焦りもC社側はもっていました。
 なお、製造機械の調達コストはリース形式をとるので現在支払っているリース料金を超えない程度で新たな機種の製造機械を入れるという前提で予算を組んでいるようでした。

 ここまでの検討で前段階の活動に関する予算の目標は現在使用している機械のリース料の範囲であり、期間はリースアップまでの1年ということになります。
 一方、不採算店舗の廃止については販促結果の様子を見て、それぞれの店舗の売り上げ推移を見て決めることにしました。
 しかし、前段階の調査の結果では3店舗の廃止は確実視されていたので、その売却結果の不動産収入をデザイン料や主力店舗の改装そして新仮店舗の設営の予算に回して工事を行うことにしました。
 よって本プロジェクトの予算はデザイン料、店舗改装費、新仮店舗開設費(大型店への出店)にかかわるコストとなります。リースにかかわるコストは経費として処理することですが既存のリース料と同額として支出することになります。
 その後の販促活動で廃止可能性のある店舗が出てくれば、その売却コストは補正予算として持つようにしました。
 前段階の作業により本プロジェクトの骨子はできたが、販促活動の結果が見えるまではまだ期間が必要となります。売り上げの予測は現状より毎年一定の率で増加させることで見積もりました。その最初の達成期間を製造機械の更新後の2年として本プロジェクトの総期間を3年としました。
 本プロジェクトの採算性は想定される販促効果による売り上げ増加と設備機械のリース料、店舗の改装、商品のデザイン、有名店舗内への出店等々の費用、そして関連経費を考慮した結果で判定する必要があります。そのため、機械の法定償却年数10年(リース期間)として投資対効果の計算を行ったがその結果でも採算性には問題ないと判断されたようです。
 このような検討の結果をまとめてSMARTの各項目に照らし合わせてまとめていけば本プロジェクトの要件の骨子が示されることになります。
 特にスケジュールは大きく1年目にやることと2年目からやることが各々相関をもったマスタースケジュールを作成することが必要です。
 また、目標値については期間3年であり、投資予算は前記した通り詳細にC社にて計算した結果のものとなります。
 目標達成の可能性は投資対効果の計算結果では問題なしとしたが、リスクとしてはその計算に使用した予想の売り上高が本当に予想通り確保できるかどうかでした。

 ここまででモデレータとしての筆者のアドバイスの仕事は終わりであり、あとはC社で行った研修でのプロジェクトマネジメント手順に従って計画書を作りそれに従って実行すればよいということになります。
 約3か月の仕事でしたがこの菓子会社の案件で漠然とした顧客の要件に対してどのような手順でどのようなことをやっていけば良いのか勉強しました。
 今回はたまたまリース会社の人間として本案件に携わることができ、かなり自由にそして気軽に顧客と仕事を仲良くやることができました。
 今回のような要件が曖昧で不確定なプロジェクトでは絶対といってよいくらい顧客と協調して仕事をする必要があることを改めて知りました。筆者は海外ではこの種の曖昧プロジェクトは経験してきましたが、今回ほどざっくばらんにC社の社長を含め経営陣と話をしながらいわゆる企業再生といった観点から仕事をさせてもらったのは初めてでした。
 一方この分野においてもプロジェクトマネジメントが有効ということもわかりました。
 よくプロジェクト要件が不明瞭だと言ってそれをプロジェクト失敗の要因としていることを聞きますが、プロジェクト創発といった上流側の作業を顧客と共にやっていくといった発想がなかったからだと思います。
 P2Mのスキームモデルの部分がプロジェクトマネジャのこれから持つべき能力の一つと思いました。
 また、この種のプロジェクトでの手法としてアジャイルといった言葉が良く聞かれるがこれも今のところは言葉倒れで終わっているのも残念です。

 日経コンピュータの研修にてある顧客が次のようなことを言っていました。
 IOT導入を考え「日本のベンダーと接触してきたが結局は日本のベンダーに依頼することをやめた」ということでした。
 その理由はIOT導入のようなプロジェクトには要件定義を積み重ねてシステムを開発するスタイルは適していない。要するにスピード感がないということでした。
 トライアンドエラーを繰り返して開発する体制をサポートできる企業を探し、結局米国のITベンダーと契約することになったようです。
 IOTやAIといったプロジェクトのほとんどはシステム開発に入る前は要件が決まっていないことが多いことが理由のようでした。
 これからのプロジェクトマネジャはこの実例からも、顧客と共に一緒にプロジェクトを創発していくといった能力が必要になると思えます。

 今月はここまで

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