PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (88) (実践編 - 45)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 前月号に引き続き、下記に示す仮説的な施策(課題)から最適案を選定する領域および問題発生の原因を究明する領域についてSWOT分析にて検証することになります。

売り上げが減少していることを解消するための施策であり、きめ細かい商品戦略やマーケット戦略が必要となる。
生産設備機械の無駄(故障が多い、かつ止まっている機械)の放置や各店舗の売り上げ減少状況と利益率の調査、そして場合によっては店舗のリストラ要否検討等、会社全体の財務的検討が必要と考えられる。
この施策を見ると大きく①は売り上げ減少にともなう問題と②は財務的な問題に分けられ、①も②も相互に関連するのでSWOT分析は一体で行う。

S(強み)の部分
商品知識は十分持っている、すでに商品の売れ筋についてのデータはある、各店舗の売り上げ状況のデータもある、製造販売であり顧客要求に合わせた迅速な対応が可能、優秀な菓子職人もいる、社長は若く改革に抵抗感はない、経済的分析に関する助言会社がついている(モデレータの会社)
W(弱み)
老舗であり職人気質が強く頑固、マーケッティングといった手法に弱い、昔からの商売のやり方に固守、古い人たちの意見が強くリストラに対する拒否反応、主力店も含め店舗が薄暗く、駐車場も狭いため顧客誘引に問題、主力と位置付ける商品が明確でない、辺鄙な場所にある店舗の存在(売り上げ、利益とも期待薄)、投資資金の欠如

O(機会)
優秀な職人そして製造販売ということから製品開発に自由度はある、マーケッティング戦略と商品戦略の見直しと不採算店のリストラまたは撤退を含む店舗展開による利益率の解消が可能、事前調査で可能、現状分析による結果の反映による主力製品の明確化や製品の見直しによる問題の解決は早まる可能性がある。
T(脅威)
古い人たちの抵抗、リストラに対する抵抗、急激な改革による従業員の不安ややる気の減退、不採算店のリストラまたは撤退を含む店舗展開が原因での売り上げ減少

 以上の分析から弱みや脅威となるところは若い社長の手腕にかかっているが、社長の前向きな新たな事業改革提案に対する抵抗感がないこと、製造販売であり優良な職人もいること、マーケット/商品戦略もモデレータの関係する会社(企業再生会社も含む)の支援も取り付けていること等によって「弱み」をはねのけ、「脅威」に示すような心配はあるが「機会」に示す行動が可能となることがこの分析によってもわかってきた。

 一方、この菓子会社の社長の要求であった製造機械の新規取り換えの要求に対しては、検討対象の優先度としては製品/マーケット戦略の後となっていることがこれまでの分析で分かってきた。
そこでマーケッティング戦略のフレームとしての4Pを考えた対策を考えることを推奨した。
例えば
(プロダクト:製品)調査結果による主力製品の見直しと包装デザインの一新と既存店での
  テスト販売
(プロモーション:広告/宣伝)店舗のデザイン一新と顧客誘引を考えた店舗展開、そしてその
  宣伝/広報活動、積極的セールス活動
(プライス:価格)これまでの既存商品の売れ筋を考えた値段の見直し、ブランド化する商品の
  選定とその値段の検討、
(プレース:流通)広報活動と遠隔地への拡販を考えた通信販売や新開発店舗などでの
  テスト販売、

 なお、どんなに優れた商品でも価格が高ければ売れない、見当はずれの見込み客に宣伝しても広告費が無駄になる。通信販売や大型店などの集客力のある場所を利用した販売でも時間とコストを考慮しなければならない。また、当初は新製品の開発や新しい場所への新規進出などは時間や費用も掛かりリスクも非常に大きくなります。そのため、出来れば現状の業態で、少ない費用と期間で現在のビジネスを極力利用することを前提として考慮することが重要と考えました。
 ここまでは主に製品/マーケット戦略にかかわる検討であったが、次は財務的な問題として下記のようなこともあり、これらに対する検討も必要となる。

 その例として下記のようなものが考えられます。
 製造機械の更新、店舗のリストラ、新規店設置、お菓子の包装デザイン変更や店舗の改装、通信販売やテスト販売、広報/宣伝活動、セールス活動等々どれをとってもお金のかかる話である。

 この会社の規模を考えると何はともあれ行わなければならないのは不採算店舗のリストラまたは撤退です。一方、それに関連して従業員やパート従業員の不安解消です。そのための通信販売やテスト販売のための既存店や大型店への仮店舗への派遣などを考慮し従業員の不安を和らげることも必要となる。同時に店舗のデザインや主力商品の選別とそのデザインの一新などを行うことを従業員に説明し、明るい未来像を示し不安感を和らげたりする必要もあります。
 そして、不採算店舗の売却と当面の従業員の配置転換やデザインの一新によるコストなどの財務的な検討も同時に行うことも必要となります。
 この会社のW(弱み)として投資に回すお金があまりないことを考え、財務面の検討も重要です。そのため新規店舗は場所を借りることで考え、経費として処理、また不採算店の売却を考えた不動産価格からみての売却コスト試算も行い、店舗リストラに関する総合的コストはどのようになるかを検討することも必要です。

 ここまでは製品/マーケット戦略にかかわる費用に関する検討でしたが、ここで思い返すと、菓子会社社長の製造機械の更新に関する話からこのプロジェクトが始まっていることです。
 マーケティングにかかわる問題は社長の意識の中では付属的なものと考えられていました。すなわち、優先度としては低いものになって、反対の結果となっていました。

 これまでの検討の結果で判明していることは順序としては優先的に検討するのは製品/マーケットに関することであり、その結果として必要とされる製造機械の種類や台数が決まってきます。
 しかし、現状は製造機械は菓子の製造量に対して大きな不具合はないものの効率が悪く、時間がたつにつれ機械の故障も多くなり、すでに止まっている機械もあり問題が多いことは分かっています。また、使用している機械はリースアップまじかであり、このままでは再リースということになる。
 この製造機械に関しては、製品/マーケットの見直しと大きくかかわることは分かっているが、その結果がわかるまで時間もかかり、製造機械に不測の事態も発生することも考えられる。
 このような状況から判断し、かなり乱暴な想定であったが当面必要な新規の機械はどのくらいかを検討しておくことも必要と考えました。製造機械の更新はもともと菓子会社の方針でもあったこと、そしてモデレータの会社の都合(目的である製造機械のリース案件としての受注)から製造機械の更新を優先することにしました。
 本件は社長の同意を取ることは容易であり、その考えに従って、これ以降の検討を進めていくことにしました。
 このような前提でこのプロジェクトのシナリオが設定され、そのために必要な条件を設定しこのプロジェクトの要件や目標の設定を行っていくことになります。
 なおこの菓子会社は、これまでもリース形式で製造機械を調達していたので、リースを前提として考えることにしました。
 このような諸々の条件や状況を考え、リスクはあるものの目的である「売り上げ減少の解消と機械の更新」を達成するための具体的目標を設定することになった。
 それが、本プロジェクトの目標及び要件の設定となる。
 ここで目標設定の手法であるSCADAといったフレームが有効となります。
SCADA の原則とは以下のようなものです。
S:Specific(プロジェクト目的、範囲、内容、進め方)
M:Measurable (KPIの達成目標と数値化)
A:Atainable(目標達成可能性、費用対効果)
R:Result-Based(目標達成のための手段と方法)
T:Time-Oriented (期限やスケジュール)
 上記の原則にしたがって、これまで検討してきた各施策について具体的にプロジェクトのガイドラインをまとめ、プロジェクト(PJ)要件をまとめていくことになります。

来月号に続く

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