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日本を他国と比較して見る力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 平昌オリンピックでの日本人選手の活躍は、素晴らしかった。日本を代表して戦う選手達を応援しながら、私は、日本人選手を他の国の選手達と比較していた。開会式の時の振る舞い方、体格、戦い方、メダルを取った時の喜び方などなど。個人の力では及ばなくても、団体の力で勝った競技を視て、改めて、チーム力の大事さを実感した場面もあった。オリンピックは日本に居ながらにして、日本を他国と比較して見ることができる機会を提供してくれる。
 一方で、日本を一旦離れることで見えてくるものもある。先週サンフランシスコとロサンゼルスに出張に行っていたので、今回は、その旅を通じて感じたことを共有したい。一般的に、「顧客サービス」の観点では、日本の方が圧倒的に優れている。日本では、出入国カウンターや荷物チェックで働く人達は多くの場合、礼儀正しい。一方アメリカでは、こういった仕事に従事する人達の中で、横柄な態度を取る人に出会う確率が高い。仕事の性質上、笑顔でとは言わないが、むすっとした表情はやめて欲しいものだ。日本では、例えば入国検査の列に並んでいる際自分の番になると、「次の方どうぞ」と言われる。アメリカでは”Next.”(次)とだけ言われることが多い。他には、”Place your bags on the tray.”<<トレイの上に荷物を置きなさい)”Move forward.”(前に動きなさい)など。言語の問題もあるかもしれないが、命令調の指示だ。Pleaseぐらいつけてくれたらいいのに、と思う。入国審査などで大量に人が並んでいる時などは、右に左にと指示されて動く家畜のような気になったりすることがある。間違った方向に動いたりするものなら、厳しい言葉が飛んでくる。この人達の仕事に対する想いは何なのだろう?長旅に出る人を見送ったり、長旅を終えた人達を歓迎したりしようという気はさらさら無いのは間違いない。
 サンフランシスコで滞在したホテルのフロントの人達も、「顧客サービス」の観点から要改善の点が多かった。驚いたのは、ホテルで起きたボヤ騒ぎへの対応のひどさ。明け方5時に部屋の警報がけたたましい音で鳴り響いた。時差ボケで4時から起きていた私は、警報が鳴り響いている間も仕事をしていた。しかし警報は鳴りやまず、アナウンスも全くない。さすがに心配になったので、フロントに電話をしてみた。すると、”You need to come down right now. Use the stairs to come down.”(今すぐ降りてこないといけない。階段を使って降りてくるように)と言われた。「火事?」と思いそこから慌てて貴重品とPCを持って、靴下もはかずにスニーカーをはいて、階段を駆け下りた。頭の中では最悪を想定して「逃げ遅れていたらどうしよう???」とプチパニック状態。1Fまで降りたら、たくさんのホテルゲストが集まっていた。そして寒い中待つこと30分。PCでメールを打っていてふと気づいたら皆が移動をし始めていた。アナウンスも全くないまま!!!フロントで聞いたら、”You can go back up now.”(戻っていいです)と言われるだけ。「何が起きたのですか?」と聞いたら、”We don’t know.”(知らない)との一言がかえってきただけ。見ると消防士は、何人かいた。結局どれほどのボヤだったのかもわからないまま、かつ、謝罪の言葉も全くないままだった。ホテル側の責任ではないかもしれないけれど、何が起きているのかの状況報告と、”Sorry for your inconvenience.”(不便をかけて申し訳ない)くらいはあっても良かったのではないか。日本だったら、1Fで待っている間も、ホテルの人が様子を見に来たりしたのではないかと思う。
 海外から帰国すると、日本の奥ゆかしさにも改めて感心する。アメリカのトイレはプライバシーに欠ける。何らかの理由があってそういう構造になっているのだろうが、下1/4程度があいているので、外から足が見えるし、扉の間にある隙間からも見えてしまう。音を流す機能もない。日本のトイレは、なんてきめ細やかなのだろう。
 もちろん、アメリカには、アメリカの良さがある。なんといっても国土の広さとスペースからくる気持ちの余裕がある。また、仕事を通じて知り合った人はたいてい、にこやかに接してくれる。挨拶時の会話も明るいことが多い。特にロサンゼルスでエンタテインメント関係の会社のエレベーターの中で聞いた会話は、”I am doing great! Living my dream work.”(調子いいよ。夢の仕事をやっているよ!)だった。日本人の感覚からすると、表面的で大げさかもしれない。しかし、「言葉が世界を形づくる」ことを考えると、悪い話ではない。特に私はネガティブに言いやすいので、「どう?」と聞かれて「大変。忙しくて。もう仕事辞めたいよね」などと言っていることがある。そうすると、相手も自分の気持ちも暗くなっていく。それを避けるためにも、ロサンゼルスで遭遇した彼らのポジティブな態度に学びたい。まずは「出張どうだった?」と聞かれたら、「良かったよ。たくさんのことを学べたし!」と明るく答えるところから始めよう。

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